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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第17回   その一方で、再会を
 アーサーがマダーニに飛び掛り、背後から飛びついたが豪快に振り払われてしまった。地面に叩きつけられ、低く呻く。
 他の皆には何故マダーニがこうも激怒しているのか、さっぱり解らない。マダーニの逆鱗に触れたのは、何処かで誰かが呟いた言葉だった。『若くて可愛いお嬢さん方』
 消えた五人の共通点は”若くて可愛い女の子”。
 取り残された自分、その中には当然含まれていない事が、マダーニにとって最大の屈辱だった。
 クックックック……、と乾いた声で笑いながら、狂気の瞳でマダーニは魔法を完成させる。髪を振り乱し、これでは悪役方面まっしぐらだ。皆、息を飲み揺らめくマダーニを恐怖に戦きながら見つめる。

「……全てを灰に、跡形もなく燃え尽くせっ!」

 洞窟内に迸る眩しい閃光は、巨大に膨れ上がってマダーニの両手から洞窟内へと暴走するように飛び出した。

「うわっ、本当に唱えたのですか!?」

 珍しく慌てふためくアーサー、怯えて嘶く馬達の興奮を抑えるように近くにいたクラフトに指示を出すと、自分はマダーニを止めに入る。

「あーっはっはっはっ! 燃えてしまえ、燃えてしまえっ! 私はまだ十九歳だ、可愛い部類に入れると訂正しろーっ」

 ……何を言っているのか理解し難い、とアーサーは頭を抱えた、が、止めなければこちらの命が危ない。洞窟内の温度が上昇している、酸素の確保が厳しくなる。
 蝙蝠は瞬時に灰になっていったが、敵を一掃出来てもこちらの身が危ない。

「俺に任せろ、アーサー」
「ライアン殿。マダーニ殿に何があったのです?」
「よくわからないが、彼女の場合は」

 ライアンはマダーニに近寄ると和やかにぽんぽん、と肩を叩いた。
 こちらにも魔法を唱えてきそうな勢いで振り向き、ギラついた瞳で睨むマダーニに、ライアンは怯む事無く笑顔で話しかける。

「マダーニは若くて可愛いし、綺麗だから安心しろ」

 それだけ。
 その言葉を聞いた瞬間にマダーニは嬉しそうに悲鳴に近い歓声を上げると、ライアンに飛びついて猫が甘える様に擦り寄る。
 唖然。
 燃えてしまった蝙蝠達の灰を背に、潤んだ瞳でマダーニはライアンを見上げている。

「私、若くて可愛くて綺麗?」
「あぁ、誰よりも若くて可愛くて綺麗だよ」
「まっ! 嬉しいっ」

 誰よりも若くて……というのには無理があると思いますがっ、とアーサーは心の中で突っ込みをしたが、あえて口には出さなかった。
 とりあえず、こんな解決の仕方は納得がいかないが蝙蝠達も一掃出来た事だし、消えた五人を捜しに行く事にする。余程嬉しかったのか、マダーには上機嫌だ。
 発狂の原因はなんだったのか、と尋ねられると、マダーニはムスっ、と不貞腐れながら口を閉じた。
 もうこれ以上触れるな、ということらしい。
 軽い火傷を負ったミノルと、蝙蝠に噛まれたケンイチの手当てをしてから、五人が消えた箇所を隈なく調べる。
 特にこれといって不可解な様子は、ない。よって、仕掛けがあるわけではなく、何者かの術によって消えた可能性が高かった。

「何か不審な場所がないか捜索しましょう。気を緩めずに」

 アーサーの言葉に一同は深く頷き、ゆっくりと洞窟内を進んでいった。

『男の趣味が悪いなぁ。どうせ化けるなら美形な男に化けたいよな』

 ミノルの耳に、聴いた事がない男の声が聞こえてきた。その言葉が自分について言われているようで、思わず立ち止まって様子を伺う。

「悪かったなっ、美形じゃなくて!」

 突然大声で叫んだミノルに、一同が怪訝に振り返った。マダーニの次はミノルが、何かしらの幻聴によって精神に支障をきたしているのかと判断したライアンが眉間に皺を寄せて近づく。

「だ、大丈夫かミノル?」

 ダイキに声をかけられ、ミノルは苛立ちながら壁を叩いた。

「なんか、何処かで誰かに自分の悪口を言われた気がした」
「悪口?」
「美形じゃない俺を選ぶと、趣味が悪いんだとよ」

 ぶはっ、と吹き出したダイキの隣でトモハルが「本当の事じゃないか」と淡々と呟く。それにミノルは更に激怒し、その場で取っ組み合いを始めた。「そんなことしてる場合じゃないよっ」と必死で仲裁に入るケンイチだが、二人は止める気配がない。
 地面に転がりながら、上を取ろうと必死に攻防戦を繰り広げる。
 情けないとばかりに大袈裟に肩を竦めるアーサーと、苦笑してつっ立っているクラフト、とても勇者とは思えない。

「ぎゃーっ!? やめてくれーっ!」

 急にミノルが顔面蒼白でそう叫んで顔を両手で覆い隠した、勢い余ってトモハルは一発殴ってしまう。「いきなりやめてくれ、って言われても」……と苦笑いするトモハル。
 右のストレートが容赦なくミノルの頬にヒットしたわけだが、ミノルは低く呻いただけでトモハルに構う事無く、両手を覆い隠したまま何やら喚いている。

「今度は何だ」

 ライアンが苦笑いをしながら歩み寄り、ミノルを片手で引っ張り起こすと、無理やりミノルの両手をこじ開けた。
 何故か茹で蛸のように真っ赤で、上手く言葉が出ないらしく、小刻みに身体を震わせて口を鯉のようにぱくぱくさせている。

「落ち着け、一体どうした」

 ライアンに肩を揺すられても全く反応しない、困り果て首を竦める。「トモハルに殴られて反撃しないなんて尋常じゃないっ」と駆け寄るケンイチにもミノルは反応しない。
 やがてミノルは荒い呼吸を繰り返しながら、咳き込み始めてしまった。

「だ、え、わ」
「は?」

 ミノルがようやく声にならない声を発し、半泣きで縋る様にケンイチに助けを求める。慌てて駆け寄るケンイチにダイキ、そしてトモハル。
 口元に耳を寄せて、懸命に言葉を聞き取ろうとした。

「俺が、アサギを」
「ミノルが、アサギを!?」
「俺が、アサギを、押し倒してるっ」
「ミノルが、アサギを、押し倒してる!? ……えー!?」

 聞き取った言葉をケンイチが発してから、絶叫。聴き終えたミノルもダイキもトモハルも、絶叫。

「解りやすく説明しろっ、どうしたんだ!?」
「な、なんか今、俺の偽者が、アサギを押し倒してるんだよっ」
「えー!? えー!?」

 ミノルには、どうやらアサギとクーバーの映像が脳に流れ込んできた様だ。自分で言ってから恥ずかしさのあまり、大声で喚くミノル。
 唖然とアーサーとクラフトが、ミノルの様子を見つめいてる。冷静に分析を始めた。

「どういうことだと思います?」
「理解不能、と言いたいところですが。彼の言う事が真実ならば、アサギが危ないということで間違いないかと。敵に捕まっている可能性が。急ぎましょう、こんなところでくだらない事に時間を割いている余裕はありません」

 馬車を連れて先を急ぐアーサーの後を、慌てて皆追った。ミノルだけが、悶絶を繰り返しながら遅れて歩く。
 彼らは知らなかったが、現在この真下に造られた部屋に、アサギとクーバーとトビィが居たのだ。

 その頃、アサギが消えてしまった故に慌てていた”若くて可愛い女の子”チーム。
 純白の部屋を隅から隅まで走り回り、何か手がかりを捜した。吸血鬼と名乗った敵に攫われたアサギ、泣きじゃくるユキの手を引いてムーンは目で見えるものではなく、微かな空気の乱れ、魔力の鼓動を探す。

「ミシアさん! この位置を!」

 何か見つけたらしく、ムーンは自分と同等の魔力所持者であるミシアを呼んだ。駆け寄ったミシアに、何の変哲もない壁を指し示す。手を壁に当て、継ぎ目がないか探してみるが、もちろん何もない。
 けれども両手を壁につけて瞳を閉じ、魔力を注ぎ込むと確かに何かを感じる。

「この位置、何かあるわね。ムーンさん、一緒に魔力を解除してみましょう」
「はいっ」

 ユキをアリナに任せ、二人は同時に瞳を閉じると壁に手を当てて神経を集中させる。冷たい壁の向こう側に、光が見える。額に汗を浮かべながら懸命に二人は念じ続けた。
 パキン、何かが割れたような音が何処かで聞こえ、それまで見えなかった扉が浮かび上がった。
 歓声を上げる二人、拍手するアリナ。
 魔力で幻覚を見せられていたのだろう、純白だった部屋は、その姿を徐々に現す。

「アサギちゃんは、アサギちゃんは!?」
「大丈夫、さ、捜しに行こう!」

 岩肌目立つただの洞窟に四人はいた、暗くて見えなくなる前に、ミシアが魔法で周囲を照らす。現れた扉だが、ノブが自分達の頭よりも高い位置にあった為、アリナがムーンを肩車し扉を開けさせた。宙に浮かぶドアへと、アリナが皆を肩車で運ぶ。
 異性もいないことであるし、この際スカートがどうとか、足を広げてよじ登ろうが関係ない。無我夢中で宙に浮いているようなドアから、皆必死に脱出した。ムーンが進み、ミシアが進み、ユキが進み終えるとアリナは徐々に後退しながら、軽くジャンプを繰り返す。
 ドアからムーンが顔を覗かせ、こちらは大丈夫です、と叫んでいる。
 小気味良いリズミカルな音が響き、アリナは息を大きく吸い込むとそのまま全力で駆け出し、扉目掛けて大きく跳躍した。地面を力強く踏み込んで、扉の中へと転がり込む。「脱出成功!」にっこりと余裕の笑みを浮かべるアリナに、ユキが手を差し伸べて安堵の溜息を漏らした。
 扉の先は階段があった、四人は大きく頷くとアリナを先頭にして階段を上る。
 行き止まりだったが、それもムーンとミシアが二人掛りで魔力を注ぎ込み再び幻覚を打ち破った。
 先はあの敵の住処か、それとも別の場所なのか。勢いよくドアを蹴り上げてアリナが飛び出ると、そこは。

「ありゃ?」

 微かな炎の揺らめき、洞窟へと戻ってきたようだ。地面に焦げたものが大量に転がっている、何かの死骸らしい。四人は、右へ行くべきか左へ行くべきか解らず、その場で立ち止まった。

「一方通行ですから、どちらかに行けばジェノヴァ、どちらががクリストヴァル。考えている暇などありませんし、進みましょう」
「そうだね、クリストバヴァルに出れば引き返せばいい。でも、アサギが心配だから道は間違えたくないな。ボクは右だと思うんだ」
「根拠は?」
「地面に落ちてる焦げた死骸、これが右側のほうが多い。右から敵が来た可能性の方が高いだろ?」
「なるほど、進む先から敵が来たのほうが、しっくりきますね。右へ行きましょう」

 四人は早足で右へと洞窟を進んだ。何が現れてもいいように、逸れないように、速度は落ちるが手を繋いで横一列で歩く。
 やがて、別の足音が聞こえ始めたのでアリナが焦って皆を引き摺り、駆け出した。迷惑そうに全力疾走する三人を完全に忘れて、アリナは満面の笑みを浮かべた。

「あ、みんなだ!」
「あぁっ、お嬢! そして皆さんっ! よくぞご無事でっ」

 離れ離れになっていた一行は、洞窟内で再会した。
 一人、アサギを除いて。

「あとは、アサギだけですね」

 アーサーの投げかけに、皆が神妙に頷く。もうすぐ出口だ、前方から新鮮な空気が流れてきている。

「この洞窟は、幻覚で造られています。魔力で探り当てていけば、別の空間を発見できます。アサギはそこにいるのでしょう、やってみましょう」

 ムーンの意見に魔力を使える者達が賛同し、洞窟内に散って行った。
 勇者が一人行方不明、彼女が居ないと意味がない。一人欠けた五人の勇者は、揃って見様見真似で魔力を集中させて何かを探してみた。上手く出来なくとも、もどかしくて何かしたかった。
 アサギが、いない。アサギを、捜さねば。


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