20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第160回   ドラゴンナイトの帰還
「それで、アイセルとはドコまで進んだの?」
「ドコまで? 奴は奴、私は私だ。何も進んでいない、変わっていない」
「あらやだ、てっきり身体の関係があったのかと」
「あるわけないだろう」

 ムスッとした表情でスリザは顔を上げた、つまらなそうにティーカップの中のハーブティをスプーンでかき混ぜているホーチミンを睨みつける。

「つまんなーい、せっかくこうしてスリザとニ人きりでお茶してるんだから、愉しい事聴けると思ったのに」
「結婚するまで、手は出さないのだそうだ。フフ、思いの外奴は紳士的だろう?」

 不貞腐れそっぽを向いたホーチミンに軽く笑うと、何故か表情を緩めて珈琲を口にしながら頬を赤らめる。

「は?」

 その言葉にホーチミンが怪訝な瞳を向けたが、お構いなしでスリザは続けた。

「いい加減な奴だと思うだろ? それが意外と、芯が通っていてな。父上に逢う為に作法も習いに行くそうだ、フフ……」
「え、何、何を勝手に突然惚気始めたの? っていうか、結婚する予定なの?」

 届けられたセロリのヨーグルト和えと、アボガドとグレープフルーツのブラックペッパー和えがテーブルに並べられたが、手をつけるのを忘れていた。ホーチミンの大好物なのだが、それどころではない。
 うっすらと頬を染めて、瞳を伏せながら語るスリザに吐き気が湧き上がりそうだ。

「いや、ちょっと変わりすぎじゃない? スリザ、大丈夫?」
「あれでいて、腕が男らしいんだ。結構、太くて逞しく、私をがっしりと支えてな、フフ」
「……うわぁ、ちょっとウザイ」

 眉を顰めながら「まぁ、いいけど」と大きく溜息を吐いた。ホーチミンは口元を押さえながら、ようやく好物のヨーグルトを運ぶ。酸っぱさと瑞々しい美味さで、心が癒された気分だ。
 黙々と一人食べ続けるホーチミンと、口内が乾いては珈琲を飲み、延々と話し続けるスリザ。

「また香りが……男らしい。太陽の光の様にな、あったかいんだ。やはり捨てがたいのはあの二の腕で、貧弱だと思っていたのだが……」
「この惚気、何時まで続くわけ? あ、すいませーん、この”大葉とチーズの豚肉ロール・ブルーベリー酢を添えて”ください」

 スリザが口にすることなく、最初に注文したサラダは空になった。腹が減ったので、肉料理を注文したホーチミンなどお構いなしに、スリザはまだ話し続けている。
 結局ホーチミンが解放されることになったのは、サラダ二種に、肉料理、魚料理、スープにデザート、お代わりしたハーブティを二杯飲み干した後だった。
 まだ話し足りないのか、スリザはもじもじ、と身体を小刻みに揺すっている。だがホーチミンは腹が一杯だ、というか限界に達した。気分的にも、身体的にももう、何も要らない。

「じゃ、また今度ねスリザ。今日は少し手が空いたからスリザとの食事の後、アサギちゃんの様子を見に行こうと思ったの。……夕方になっちゃったけど、今から行ってくる」
「そうか、ならば私も行こうか。アサギ様はサイゴンと剣の鍛錬をしているとか?」
「えぇ、そうね。あ、ならついでに差し入れ持って行こうかしら?」

 食堂の脇で購入出来る持ち帰り専用のスペースで、焼き菓子と豆乳を購入する。恐らく、サイゴンにアサギ、ハイとアレクが居るであろうと踏まえて四人分購入する。トレイに乗せてもらったので、食べ終えたら返却せねばならないが、いつでも良いのが楽だ。

「ふむ、私も何か軽く貰おうか。腹が減ったな」
「それはスリザが話してばかりで、珈琲しか飲んでいなかったからよ」

 柚子酢で味付けされたポテトサラダを挟んだパンをニ個購入したスリザは、ホーチミンの嫌味など気にせずそのまま歩き出す。
 ニ人が差し入れを運びながら中庭を目指すと、アサギ達が鍛錬に励んでいた。観た瞬間、二人して息を飲んで気まずそうに顔を見合わせる。予想と違い、アイセルが居たので差し入れ数が足りないのだ。
 しかし、仕方がない。

「はぁい、アサギちゃん! 頑張ってる?」
「ホーチミン様、スリザ様、こんにちは! とっても愉しいです」

 汗を拭いながら、アサギが笑顔で応えて手を大きく振る。スリザもホーチミンもトレイを片手で持ち、軽く手を振った。身体を動かす事が好きなアサギだ、疲労感はあるだろうが、表情は明るい。

「やはり筋が良いです、教え甲斐がありますよ。さぁ、もう一度いきましょうか、アサギ様」

 サイゴンも愉しかった、見ていると数年前を思い出す。トビィを教えていた頃も、サイゴンは今と同じ様に兄のような気分で見守りながら教えていたものだ。ホーチミンは、そんなサイゴンの様子に口元に笑みを浮かべる。
 好きな相手が愉しそうだと、自分も自然と笑みを浮かべてしまうものである。

「アレク様、差し入れで御座います。どうぞ」
「有難う、スリザ。アサギ、サイゴン! 差し入れだそうだ、休憩しよう」

 アレクの声に、ニ人は動きを止めるとこちらへやってくる。アイセルの分がなかったが、スリザが購入したパンをぶっきらぼうに手渡した。まるで、アイセルが居る事を知っていたかのようだ。ニ個買ったことは、予感だったのか。

「わーい、スリザちゃんとお揃いだー」
「たわけが、早く食べろ」

 言葉と態度は悪いが、顔は全く嫌そうではない。頬を染めて嬉しそうに微笑んでいる、解りやすいスリザだった。
 座り込み、円を描いて皆が和気藹々と食べている頃。魔界イヴァンの四方にある灯台の北側ニ個所が、何かに気がついた。
 飛行している竜がこちらにやって来た姿を捕えたのだ、ニ体だった。そして、海面にも何かがいることを確認した。旅の竜だろうか、とも思ったが、違う。飛行している竜の種類が違うのだ、他種族では旅などしている例がない。
 何事かと目を凝らしていた灯台の警備兵は、竜の背に誰かが乗っていることを確認する。

「ドラゴンナイトか……誰だ?」
「だが、ドラゴンナイトならば人間ではないだろう? 人間界にはドラゴンナイトなど存在しないと聞いている。隠密行動を受けていた者が帰還したんだろ」
「そうだよなぁ。敵じゃないよな? 知らせなくてもいいよなぁ?」
「まぁ一応……伝令を」

 二つの塔の警備兵は、ほぼ同時にアレクの居城の司令塔へと伝令を発進する。
『ドラゴンナイト、戻りたり』と。
 司令塔では、その届けられたその言葉に皆首を傾げた。
 魔界に存在するドラゴンナイト達の状況は、大体把握されていた。行動力と攻撃力が高いので、有事の際には直様出動させる為だ。書き記してあるドラゴンナイトの編成を見てみるが、出かけているドラゴンナイトは一体もいない。
 ただ、忘れられた存在があった。
 そのドラゴンナイトは魔界育ちだが魔族ではなく、人間だ。故に、何処にも所属していなかった。一人が思い出し、声を上げようとした瞬間に灯台から新たな伝令が同時に届く。『ドラゴンは、黒と風と把握。しかし、騎手は一人である』
 魔界に現在存在するドラゴンナイトで、一人がニ種ものドラゴンを抱えている者はいなかった。『海にも一体ドラゴンが存在している模様』
 ここでようやく、司令塔の全員が同時に声を発したのである。一人の人間の名を呼んだ。美しい外見と溜息が出る剣技、恐ろしく度胸があって、怖いもの知らずな飛びぬけた人間だ。抱いた女の数は、皆知らず。歩けば魔族の女達が黄色い声を一斉に上げた、美貌の人間。今は無きも当時の後ろ盾は、絶世の美貌と溢れる魔力で幾多の羨望を受けていたマドリード。

「トビィか! トビィが戻ってきたんだ!」

 司令塔から羽根を持った魔族が転がるように飛び出した、魔王アレクに伝える為である。
 
 そんな事とは露知らず、中庭で軽食を取り鍛錬を再開していたアサギ達。魔王アレクの室内に駆け込んだ魔族が、行き先を慌てふためいて訊きまわっていた頃。
 サイゴンが気付いた、上空から怒涛の勢いで”何か”が飛んでくる事に。無論アレクも気付いていた、瞳を細める。
 魔王リュウとて、何かの気配に室内を飛び出し、中庭に向かっている。似たような竜族の波動を感じたので、故郷の同胞かと思ったのだ。

「オフィ、あの海岸で待て。……護衛にデズをつけようか?」
「やだなぁ、主。大丈夫だよ、一人でも戦えるよ」
「……そうか、何かあれば、全力で逃げろ」
「はいはい、大丈夫大丈夫」

 トビィは水面すれすれに飛行するクレシダの背の上から、水中から顔を出したオフィーリアにそう告げる。ぞんざいなオフィ―リアの言葉に軽く笑って、再びクレシダとトビィは上昇した。

「クレシダ、デズ、行くぞ」
「御意に」
「畏まりました」
 
 その声と共に、ニ体の竜は速度を上げる。真正面に見える城目掛けて、突進した。トビィは剣の柄を握り締めた、いつでも引き抜くことが出来るように。

「アサギは黒髪が美しい、可愛らしい女の子だ。見つけ次第、そこへ」
「人間の美しい、は私達竜には解りませんゆえ……」
「いや、飛びぬけた美しさだから、絶対解る」
「はぁ、そうですか」

 困惑気味にクレシダがそう告げ、デズデモーナが苦笑する。確かに主であるトビィは一目置いているし、見た目麗しいのだとも思うが、そう選り分けられるだろうか。そもそも、人間の雄雌の区別が竜達にはいまいち解らなかった。
 ニ体の竜は、不安を抱かずにはいられない。
 急降下したニ体の竜に、トビィは身体を寄せて必死に空気抵抗から逃れた。気を抜くと、空に投げ出されそうである。
 呼吸することも苦しいが、ニ体は何かを見つけたのだろう。瞳を細めてトビィが下を覗くと、城の中庭に影が見える。
 遠すぎて、見えない。が、感じた。視力ではなく、空気の波動でトビィは感じ取ったのだ。

「見つけた、あそこだ! アサギだ!」
「流石主、良い視力をお持ちで」

 淡々と告げるクレシダは、急かされて更に速度を上げる。続いてデズデモーナが大きく咆哮し、寄り添いながら加速した。
 無論、その咆哮に皆が慌てて上空を見上げる。

「トビィ! 戻ったのか」
 
 嬉しそうなサイゴンの声と、驚いて竜を見上げるアサギ。まだ、アサギの瞳にトビィは映らない。

「……ハイ様? アサギちゃんをどうやってここまで連れてきたんでしたっけ?」

 異様な雰囲気に、ホーチミンが思わず杖を引き抜いて、隣に居たハイに声をかける。
 怪訝にハイは言葉を返した。

「どうやってって……『アサギは貰っていく』と」
「許可、貰いました? 拉致してきたことになってませんよね?」
「失礼な、私は告げたぞ」
「だったら、どうしてトビィちゃんがあんな敵意むき出しで向かってくるんですかーっ!」

 そうなのだ、放たれる殺意が尋常ではなかった。

「アサギ! 無事か! 遅くなった、今助ける!」
「トビィお兄様っ、と、止まってください、ちょっと、止まってっ」

 トビィの咆哮に、アサギは狼狽する。アサギにも解ったのだ、トビィが自分を救出に来たことが。ハイに攫われてから、早一ヶ月程度経過した。その間にアサギはハイの信頼しているテンザに、仲間宛の手紙を届けるようお願いしたが、それが届いていないのだろう。
 勘違いをしているに違いない。でなければ、剣を引き抜くわけが無い。トビィの掲げた剣が太陽の光に反射している、アサギは顔面蒼白になった。

「アレク様、お下がりください! トビィが誤解をしておりまして」
「あの様子だと……そうだろうな。単身でアサギを救いに来たのだろう、流石というべきか。敵に回すと彼は厄介だな」

 アレクの周囲に、サイゴン、ホーチミン、スリザ、アイセルが集った。

「自分の巻いた種です、ハイ様の御身はご自分で御守りくださいませ!」
「随分だな」

 叫んだホーチミンに、瞳の座ったハイがぼそっ、と返答するが間違ってはいない。事の発端は、ハイだ。

「デズ、オレがアサギを救出するまで時間稼ぎしろ」
「畏まりました、お任せを」

 デズデモーナの深紅の瞳が光り、再び咆哮すると空気が震える。風圧でアサギが思わず倒れそうになったので、慌ててハイがそれを支えた。
 それがトビィの瞳には、連れて行かせまいと束縛したように見えた。こめかみを引き攣らせ、唇を噛締める。

「あの幼女趣味変態魔王め……」

 呟きをクレシダも聞き取ったが、突っ込む余裕がない。

「トビィお兄様ー! 話を聴いてください、誤解してますーっ」
「そう、そうだ、トビィ! 少し落ち着いて話を」
「トビィちゃん、貴方が激怒しているのも解るわ! でも、冷静になって、お願いよっ」

 アサギが、サイゴンが、ホーチミンが叫ぶがトビィの耳には入らず。指示通り、デズデモーナがハイ目掛けて突進した。

「ちぃ、でかい竜だな」

 防護壁でも張ろうかと思ったが、それでは防ぐことが出来ないと瞬時に悟ったハイは、アサギを抱き抱えて地面を転がる。デズデモーナの鋭い爪が、ニ人の横の地面を抉った。

「デズ! それではアサギが危ないだろう! 傷をつけたら許さん」

 デズデモーナは流石にトビィに対して困惑した、一応頷いたがこれではハイが傍らにいる以上、攻撃が出来ない。

「魔王ハイ、何処までも卑怯な! アサギを人質にするとは、見下げた奴」

 ギリリ、と歯軋りし、トビィは拉致があかないとクレシダの背から飛び降りる。そのまま走り出し、地面に転がったままのハイを追う。慌ててアサギを起こし立ち上がったハイは、口に入った砂を吐き出すと両手を前に突き出した。
 魔法の詠唱だ、地面で頭を売ったので軽い脳震盪だったアサギだが、ハイの次なる行動は把握出来る。戦わせるわけにはいかない、これは全く無意味なものだ。
 地面に転がっていた剣を辛うじて拾い上げると、アサギは向かってくるトビィに剣を構えた。

「アサギっ! ……操られているのか!? 」
「ち、違いますってばっ。トビィお兄様、話を聴いてください。と、とりあえず剣を下ろしてください」

 アサギが自分に剣を向けたことが余程堪えたのだろう、トビィが一瞬、無防備になる。その隙に、とサイゴンが一気に駆け出した。地面に押さえ込み、話を聴いてもらうつもりだったのだ。しかし。
 デズデモーナとクレシダがそうはさせない、主に危害を加えるならばと、サイゴンに爪を突き立てる。流石にニ体の竜相手では、サイゴンも交わすことが精一杯だ。
 鋭い爪は、風で刃を生み出す。爪だけに注意していては、切り刻まれる。

「全く、相変わらずの信頼関係だなっ」

 応戦しているサイゴンに耐えかねて、ホーチミンも飛び出した。攻撃補助魔法の詠唱だ、若干サイゴンの速度が上がる。この魔法は身体に負担がかかるので、普通ならば詠唱しない。魔法が切れると、倍以上の疲労感に襲われるのだ。しかし、やむを得なかった、今は速度を上げないと竜に身体を刻まれる。

「トビィお兄様、あの、私は無事です! 魔族の皆さんに、訓練をしてもらっているんです。魔法も、剣も。話を、聴いてください。正気ですからっ」

 アサギは剣を鞘に仕舞いこむと、大きく両手を広げた。その瞳が切実で、若干潤んでいた。これでは反論できない、自分が悪者になってしまう。

「その表情は見たくないからな、解った」

 トビィは軽く溜息を吐くと、剣を仕舞いはしなかったが、攻撃を繰り返しているデズデモーナとクレシダをこちらに呼び寄せた。とりあえずは話を聴く姿勢らしい、信用はまだしていないが。
 サイゴンが「助かった」と苦笑し、駆けつけたホーチミンに支えられてトビィへと足を向ける。

「アサギ……怪我は無いか?」
「全くないです、もうすこぶる元気です、ピンピンしてます。とても優遇していただいていて、自分でもちょっと謎な生活をしていました」

 居心地の良い部屋に、流行のドレス、美味しい食事、抜群の教師達に息抜きの買い物……。アサギはトビィに語り出す、本当に良い待遇であったことを。
 魔王アレクから人間との共存を打ち明けられた事を、そしてその為に動いている事も。

「皆が心配していると思って、ハイ様が信頼しているテンザ様というお方に、お手紙を渡したのです。それが届いて、勇者の誰かが読めば意味が解ると思って」

 地球の文字は当然アサギ達勇者にしか解らない、他の者が見ても意味不明なだけだ。だが、その手紙は届けられる前に消えた。

「オレは早々に離脱したからな、その手紙は知らない」

 自分が先程倒してきた男が悪魔テンザだと、トビィは知らなかった。アサギもテンザについて、容姿を話さなかった。

「それにしてもトビィ、元気そうで何より。また腕を上げたのか?」
「サイゴン、ホーチミン、久し振りだな。アサギに危害を加えるような奴らじゃないが……こちらとしても、な?」

 近づいてきた馴染みの二人に、トビィはうっすらと笑みを浮かべる。久々の再会である、ようやく笑みを見せたトビィに一同は胸を撫で下ろした。

「心強い者が戻られましたね、アレク様」
「あぁ、そうだな。風は上々だ」

 アレクも遠くで微笑んでいた、眩しそうにトビィを見つめ空を仰ぐ。
 怖いくらいに、良い人材が揃っていく。魔族の信頼もある人間のドラゴンナイトは、勇者アサギと親密な関係。勇者アサギは温厚で、魔族達からも愛されている。
 何も、阻むものなどないだろう。
 トビィはデズデモーナに、オフィーリアの傍に居る様に伝えた。万が一の時は護れるようにとの配慮である、ジュリエッタの件があるのでトビィは不安だった。オフィーリアは成体前の利かん坊だ、当然竜の中では最も弱い。『子供扱いしないでよ!』と悪態つくことは目に見えたが、それでもだ。
 クレシダはトビィに付き添うことにした、中庭に滞在することを許されたので、昼寝の好きなクレシダは直様転がり眠り始める。飛び続けていたので疲労は蓄積されている、仕方が無い。
 しかし周囲を気にせず身体を伸ばして熟睡する姿に、デズデモーナが恥じてしまった。身内ではないが、運命共同体だ。逃げる様にしてオフィーリアの待つ海岸へと飛び立つ、同じ竜として括られたくない。
 周囲は騒がしくなった、竜がニ体突っ込んでこれば当然だろう。野次馬で溢れかえる中、あちらこちらで、黄色い声が上がり始めた。トビィの姿を見つけて、駆け付けた女達が騒いでいるのだ。

「トビィお兄様、凄い人気なんですね……」
「大したことじゃない」

 瞳を大きく瞬きしながら、その騒音に対してアサギは感嘆の溜息を漏らした。が、さらりとトビィは言い放つ。「これだけ異性の声援を集めておいて、何を言うか!」とサイゴンは目くじら立てるが、それもまた仕方が無い。

「アサギが無事ならそれ良い……で? 詳しい話が聴きたいんだが」

 ハイの存在は無視し、トビィは魔王アレクに向き直った。話が通じる相手だと判断し、挑戦的に視線を投げかけた。

「歓迎しよう、マドリードが育てた人間の生き残りよ」
「……その件に関しても、是非とも詳細を聴きたいね」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 276