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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第142回   幻獣星の王子と偽の勇者
 人間には、真名を知られてはいけない。何故ならば、見えない呪縛に捕らわれ死ぬまで使役させられてしまうからだ。
 呪縛された仲間を救出する方法は、真名を知る人間全てを絶命させるしかない。付け加えて人間が所有している、仲間達の真名を連ねた書を破棄することで全ては終わる。
 達成出来たならば、皆で揃って故郷の幻獣星へと還りたい。……その可能性は無きに等しいが。

 リュウは、思い出せる限りの仲間達の名を呼び続けていた。声など聴こえないかもしれないが、誰かが自分の願いを受け取って応じてくれるかもしれないと思った。
 待っていても時間が過ぎていくだけだ、有余など有りはしないのでリュウは深くフードを被り、人間に見つからぬよう幾度か偵察に向かった。
 時折、無造作に捨て置かれた幻獣の死骸に出くわし、何度か嘔吐した。腐敗しているものもあれば、既に白骨化しているものもある。埋葬すらされず、野ざらしの亡骸に涙した。
 これが、人間。身勝手な理由で使役し、命など何とも思わず捨て置く種族。
 リュウは、亡骸を見つけるたびに手を合わせ故郷の歌を紡ぐ。真面目に勉強していれば全て歌えたのだが、生憎一節があやふやだった。それでも、ないよりはマシだろう。
 鎮魂歌というよりも、幼少の時から聴かされて皆が知っている童謡のようなものだった。ただ、五番まであるので歌詞の把握が出来ていない。

「必ず残っている仲間は救出するから」

 そう何度も口にする。自分自身に言い聞かせるように、口が痺れる程言い続けた。火が消えてなくなるまで。
 リュウは、自身の魔力で炎が繰り出せないので木々を拾い集め、一から火を起こして火葬する。この惑星へ来てから一ヶ月ほどだが、一体何体の死体をこうして来ただろう。
 生きている仲間には会うことが出来なかった。何処かに使役されていない仲間が隠れていないか、標高高い山岳に出向いてもみたが、誰にも逢うことがない。
 やはり、人間達の中心部に出向くしかないだろう。
 思案しながらトッカと、サンテの帰りを待っていた。別にこのまま帰ってこなくとも影響はないように思えたが、貴重な情報源である。すっかりトッカはリュウに懐いており、リュウもまた、んごうごうを思い出してトッカと共に眠った。

「人間は、よく解らない。トッカとサンテは仲が良いのだな、人間と犬は共存出来るのに私達とは共存できないらしい。何が、違うのだろう」

 簡単なことだ、犬では戦闘能力が低すぎる。嗅覚にしろ、幻獣のほうが優れている。より、強大な力を求めているだけの人間だ。
 
 暫くして、サンテが帰ってきた。疲労し切った表情で、出かける前より痩せ衰えた気がした。

「なんだ、勇者様は何も食べていないのか」

 多少の悪意も篭めてリュウはそう声をかけたが、サンテは力なく笑うと床に倒れ込む。

「勇者って言ってもさ、仮初の勇者だから同行している最中は食事なんてないんだよ。あいつらは美味そうなものを食べていたけど」

 ふん、と生返事をしてリュウはうつ伏せに寝込んでいるサンテに近づく。

「さぁ、何か情報は? 他の人間を殺して帰ってきただけなのか?」

 上から投げかけると、サンテは微かに笑った。非常に滑稽に見えた。

「うん、大勢死んだよ。老若男女問わず、ね。村は全滅さ、誇り高い村人だった」
「人間が死のうとも、私には関係がないことだ。寧ろ醜悪に共倒れしてもらえるならそれに越した事がない。そんなことより、私の知りたい情報はないのか?」
「……確かに、今回初めて僕も幻獣の話を聞いたよ。見てはいないけれど、数が減少してこのままだと全滅するって話してた」

 人間が滅びる前に、仲間達が死に絶えてしまう……リュウは我武者羅に床を叩きつけるようにして、大きく足を踏み鳴らした。

「サンテ、早く私に最前線への行き方を教えろ。一人で行くから、お前は方角を教えるだけで良い。時間がないことくらい、お前も解っただろう」
「スタインは、幻獣達の長なの?」

 突っ伏したままくぐもった声を出すサンテに、リュウはこめかみを引くつかせる。苛立ちが募る。
 だが、サンテは声も虚ろにリュウを無視して語り出した。

「いいなぁ、スタインみたいな仲間思いの人って、いいなぁ。そういう人が上に立ってくれたらば、国は平穏なのになぁ……」

 涙しているのだろうか、声が震えていた。身体も小刻みに震わし、サンテは微かに嗚咽を漏らす。流石にリュウも狼狽し、頭を掻きながら床に腰を下ろした。
 トッカがサンテの頬を嘗めている、こうして、犬と人間と幻獣が一つ屋根の下にいるのだが平穏だ。特に、争いごとなど起こらない。

「ならば、人間とてやはり共存しようと思えば出来る種族なわけで……」

 ぼそ、と呟いたリュウに、サンテがようやく起き上がる。懐から何かを取り出して、それをリュウに差し出した。

「お土産、潰れてるけど」

 真っ赤に滴る布に包まれたそれに一瞬リュウは身を引いたが、何やら甘い香りが漂ってきた。訝しげに見ているリュウに、苦笑してサンテはそれを広げる。

「はい。苺だよ。村に……あったから」

 苺。
 潰れてはいるが、甘い豊潤な香りは漂ったままだ。しかし、リュウは苺を知らない。

「食べるものなのか、これは?」
「なんだ、苺知らないの!? 甘くて美味しいよ、庶民のご馳走だよ」

 笑顔で勧めるサンテに、喉を鳴らしてリュウはそれを摘むと口に含む。口の中に広がる甘酸っぱいもの、勿体無くて暫し口の中に入れたまま、舌でそれを転がしてみる。
 初めて食べた、苺。
 驚愕の瞳で、きらきらと子供の様に輝かせて口の中にある苺を味わっているリュウに、サンテは吹き出す。

「美味しいみたいだね、よかった」

 苺は、一粒しかなかった。ここまで美味しそうに食べている人など初めて見たので、もっと持ち帰ればよかったとサンテは後悔する。自分の行動で他人が笑顔になることが、サンテにとっては癒しだ。
 暫くなかった感覚だ、人から隔離されて生きてきたサンテは、ようやく繋がりの大事さを実感していた。

「う、うむ。美味しかった! 紫色の小さな実が故郷にはあってな、うん、それよりも甘くて美味い」

 ようやく飲み込んだらしく、興奮してリュウは語り出す。

「持ち帰ってよかったよ、また、あったら持って来るからね」
「う、うむ! ま、まぁ食べてやっても良いけどなっ。……って、誤魔化すな。苺とやらを食べている場合ではないんだ」

 危うく、食べ物に釣られてしまうところだった。浮かれていた自分を恥じ、咳を一つすると、リュウは頬を膨らませてサンテを真正面から見つめる。
 静かに、サンテは口を開く。ある意味、観念したように。

「もう少し、待って。今回同行したおかげで僕も多少は知ることが出来たんだ。取り繕って、酒を飲ませて話も聞けた。すぐに次の任務が来るみたいだから、その時にもっと情報を持ち帰るよ。……慎重に、行こう」

 反論しようと口を開きかけたが、サンテの語尾が強かったのでリュウは口を閉ざす。渋々頷くと気まずそうに周囲を見渡した。

「あ、そうだ! 退屈だろう、スタイン、剣の稽古でもしようよ」

 突如立ち上がり、無邪気にそう言ったサンテに面食らった。だが、いざという時の為にも、この偽勇者に剣を教えておいても良い気がしたので、リュウは重たい腰を上げる。

「ふん、泣き言を言うなよ」

 リュウとて剣の稽古など真面目に受けていなかったが、それでもほぼ素人のサンテにしてみれば立派な指導員だ。二人は人目につくといけないので、昼間を避け夜間月の下でひっそりと組み手を開始した。
 孤立した場所であるが、何来訪者が来ないわけではない。

「怖くても、目を見開き全てを見つめていることだ。瞳を瞑れば、それで終わる。見ていれば身体が慣れてどうとでも動く」
「か、勝手なこと言わないでよ!」

 容赦なく剣を振り回すリュウに、情けなく声を出すサンテ。

「もう少し、初心者向けからにしてよ!」
「勇者だろ、偽物だけど。逃げ腰になるな、剣を構えろ!」

 思えば。王子として育ったリュウは、このように普通に接してくれる人物など、いなかった。剣を振り回すだけで思わず笑顔になっている自分に驚いた、楽しかったのだ。
 故郷の仲間達とて、共にいるだけで安らげたがそれとは違う感情がリュウの中に芽生えていた。
 友達、というのだろう。
 見下して語っている自分でも、肩を竦めて困りながら返答してくれるサンテ。非常に情けない男だが、それでも適度に真面目で不平を言いながらも稽古を続けている。
 まるで、バジルと居た時の自分の様に見えて、リュウは思わず自嘲気味に笑った。バジルも、このような気持ちで自分を育ててくれていたのだろうか『放っておけない、心配だ、見ていてやらなければ』と。親心にも似たものか。
 あちらには友情などという言葉など、到底似つかわしくないが。

「偽勇者が、勇者になればいいじゃないか。勇者になって、お前の気に食わない王とやらを玉座から引き摺り下ろし、お前が先頭に立てばよい。そうしたら”ふれ”を出して、私の仲間を解放しろ。あぁ、名案だ、それが良い」
「僕に反旗を翻せって? はは、僕はしがない卑しい身分の何のとりえも無い卑屈な男だよ、無理だ」
「だがお前は、私の話を聞き、こうして情報をくれている。王とやらよりも、幾分か好感が持てるがな」

 人間の王になど、会ったことすらない。
 サンテは真顔で呟いているリュウに、困惑気味に微笑むばかりだった。リュウは、純粋だ。思ったままを口にしている、多少の嫌味にも取れるが本心だろう。
 確かにそれならば全てが丸く収まりそうだ、万が一にでも、サンテ自身が絶大な権力を手中に出来たならば、この馬鹿らしい時代に終止符を打てる。
 描いたような貧困も戦争もない、豊かで穏やかな国を創りたい。
 だがサンテでは無理だ、器がない。やろうと思って、願って出来るものではない。

「リュウは、世間を知らなさ過ぎるんだよ……。甘やかされて育ったろ?」
「失敬な! そんなことはない」
 
 数日後、サンテの家に再び訪問者が現れた。またしても、辺境の村で暴動が起きたらしい。
 昼間リュウは家におらず、崖の上で薪を拾ったり木の実を拾ったりしているので、その姿を見られることは無かった。用心しておいてよかったと、ほっと胸を撫で下ろす。
 今回の内容も勇者の名の元に、制圧に行くというものだ。つまり、また目障りな村を破滅に追いやるのだろう。
 崖の上で身を潜めているリュウに軽く視線を送り頷くと、貧相な装備でサンテは家から出て行った。
 再びリュウとトッカのみが残される。馬の音が遠くへ去っていくと、リュウはフードを被り地図を握り締めてトッカを抱き、家を出た。サンテが不在な時は、単独行動だ。
 人間に見つからなければ良い話である、サンテと過ごし、思いの外安らいでいる自分に動揺を隠しきれない。
 楽しかった。崇めてくれているわけではないが、気楽に過ごせた。自分が王子だとサンテは知る由もないが、それでよかった。美味しい食事はないし、寝床も背中が痛く寝辛いが、それでも楽しかった。
 もし、仲間達を忘れられたらこのままここでこうして過ごすのに……ふと、そう思ってしまった。

「愚かなり。人間など、憎悪の対象でしかないのに」

 皮肉めいて笑うと、リュウは森へと入っていく。身を潜められる場所ならば、浮遊しても大丈夫だろうと思った。
 トッカを抱き締めたまま、リュウは宙に浮く。徒歩よりも浮いたほうが随分早いので、このまま森を疾走した。人間は、貧相だ。非常にか弱い存在だ、だからこのような森には住まない。
 ガサガサガサ……。
 不意に自分以外の物音が聞こえて、リュウは青褪めると直様太い木の枝に舞い降りる。耳を済ませて様子を窺ったが、相手もこちらを何処からか見つめているようだった。視線が身体に纏わりつく。
 と。

「首都の名前と、二代前の王の名前を」

 何処からか質問が飛んでくる、大きく固唾を飲み込み暫し無言でいたが、震える声で返答した。 

「ジェイムズ。二代前の王というと、ウィール爺」

 リュウの返答後、突如風が巻き起こり小柄な少女が突進してきた。

「スタイン王子様! あぁ、間違いなく!」

 思わず、リュウの目頭が熱くなり両腕を広げる。見間違えるはずが無い、仲間だ。待ち侘びた生存者だった。

「風の妖精……シルフィ! ええと、君は名前は……」

 流れるような金髪、身体はリュウの腰程度、大きな瞳は透き通った紺碧だ。幼いように見えるが、リュウよりもずっと年上の筈である。記憶が微かにあった、いつも木の葉と舞うように空中で宙返りをしていた女性だ。

「エレンでございます! あぁ、王子! 夢ではないのならばどうしてこのような地獄に? 何をしてらっしゃるの!?」

 互いに抱き締め合いながら、涙を流し言葉を紡ぐ。
 幼い頃は頻繁に姿を見ていたが、いつしか姿を見なくなっていたエレン。当時は何処かに越したのだろうと思っていたのだが、リュウの眼下から消えた仲間達は数人いる。何故、自分はもっと早くにそのことに気付かなかったのか悔やむ。 
 いや、気づいてはいたが、問題視していなかった。

「君も、召喚されていたんだね……」
「えぇ、えぇ。スタイン様、ここは人目につくやもしれません、こちらへ!」

 エレンはリュウを引っ張り、山中の洞窟へと案内した。ここに住んでいるようで、柔らかな葉のベッドが奥にある。また、入口とは別に小さな横穴が空いていた。

「入口を塞がれた時の、緊急脱出口にございます。これを掘って毎日生活しておりました。今では無事、反対側の山頂へ抜け出せますのよ」

 金髪は、多少痛んでいた。苦労していることくらい、想像できる。
 リュウは全ての経緯を話し、震えているエレンの背を撫でながら彼女の言葉に耳を傾けた。エレンが召喚され、リュウも知っている通り人間の兵器として使役されていたのだがある日、対峙した幻獣が、命と引き換えに救ってくれたのだと言う。

「運が良かったのですわ、人間達も当時は互いに武器を持ち戦い合い、私の召喚士も後方支援で戦場に出向いておりました。ほぼ五分五分だったものですから、人間達とて互いに人数が減少しており、いよいよこちらが撤退する手筈になりましたの。私はそれまでの足止めとして配置されましたが、何しろ相手は前衛・戦いの主戦力であるオーガでしたから、私の風の魔法など諸共しませんでした。彼は、私を素通りして人間達を手にしていた強大な棍棒で叩き潰したのです。蛇は、頭を潰せば死にます。
 主力の人間が死して、あちらに勝機がもたらされたのですが、互いにほぼ壊滅状態。オーガの彼は私にこう告げたのです『どのみち自分は長くない、渾身の力で攻撃しろ。あの召喚士を押し潰せる位置で倒れるから、せめて自由にさせてくれ。解放してくれ』と。私の召喚士は死に絶えておりましたので、自由の身でした。あちらの召喚士が私を使役させようと必死だったので、人間達に真名を悟られる前に攻撃を開始したのです。無論、オーガの彼を使って私を攻撃してきた人間ですが、小回りが利く私は只管に人間を攻撃しました。そうして、人間達はオーガを……楯として、配置したのです。 
 絶好の機会でした、彼は、私に優しく頷いたのです。見れば、何度かの戦でこれまでも楯として使役されたのでしょうね、至る所に毒矢が突き刺さっておりましたし、逃げようと暴れたのか、刺々しい足枷は食い込んで肉が爛れておりました。私は……彼を見捨てて逃げることも、助けて共に逃げることも出来ず、彼の望む通りに彼を攻撃し、その巨体を人間の召喚士に倒れさせたのです。押し潰され、下卑た声を一瞬上げると人間達は死に絶えました。
 満足そうに微笑んで、優しく撫でてくれた彼が……忘れられません。 
 王子よ、仲間を見殺しにして助かった私は自責の念にかられておりますが、それでも、あの安らかな笑顔の為にこうして生き延びて自由の身を温存してまいりました。私を、王子の為に御遣いくださいませ」

 苦痛だっただろう、解放されても仲間を攻撃せねばならなかったエレンは。
 それでも、仲間の意思を汲み取り、断腸の思いで安らかな死を与えたエレンにリュウは深く頭を垂れた。 

「辛かったな……」

 リュウが声をかけ、頭を撫でるとそれまで耐えていたのだろうが、全て話し終えた途端にエレンはその場で蹲り嗚咽を繰り返す。一人きりの、孤独な戦いだ。身を潜めていつ来るか解らぬ人間に脅え、身体を護ってきた。自由の身に、感謝して。

「王子は今はどちらに?」

 エレンにそう問われてリュウは口篭った、まさか人間と暮らしているとは言い難い。しかし嘘などつけない、リュウは正直にサンテのことを話した。

「利用しているだけだから、案ずるな。エレンの身が心配だが、ここのほうが安全だろう、二人揃ってサンテの家に転がるよりは分かれていたほうが、何かと都合が良さそうだ」

 エレンは不安そうに聴いていた、リュウが人間の名を呼んだ時には、瞳を開いて驚いた。唇を噛み締める。

「……承知いたしました、何かありましたら直様こちらへ起こし下さいませ。私も外に出て、情報収集に専念いたしますから。先の様に、幻獣しか解らぬ質問を出して極力、相手が何者か見極めてから今後も行動致しましょうね。決して、真名を悟られぬように。王子のお名前は知られてはいない筈ですので、御身は無事でしょうが、王家の名は知られていても不思議ではありません。スタインの名は、誰にも漏らさぬよう」

 言われた途端、身体に衝撃が走る。サンテは、スタインの名を知っている。素直に名乗ってしまっていた。
 リュウは引き攣った笑みを浮かべると、そのまま踵を返す。エレンに、サンテに名前を教えてしまったとは、言えなかった。心に何かが、刺さる。
 途中、丁重に埋葬された墓を見つけた。周囲に花を植えてある墓標だ、おそらくオーガのものだろう。エレンが彼を思い、こうして手厚く葬ったのだ。

 元気な仲間に会えた、そのことがリュウは嬉しかった。
 本当ならば共に身を寄せ合いたいが、サンテからの情報を知りたかったので再びリュウは闇夜に紛れて家へと帰る。

「おかえり、スタイン! 危ないからあまりうろうろしないでよね」

 サンテは、先に帰宅していた。
 心なしか浮き足立っているリュウに首を傾げつつも、苺を差し出す。

「気に入っていたみたいだからさ、今回もくすねてきたんだ」
「おぉ、そうか!」

 差し出された苺を、リュウは嬉しそうに口に含んだ。

「……情報を、得たよ。あの僕が最初に巻き込まれた石は、人間が持っていると他の幻獣を呼び寄せられる効果があるらしいね。共鳴するみたいだから、こぞって欲しがるらしい。はぐれている幻獣を呼び寄せて、使役するつもりなんだ」

 窓の外へと視線を向けて、ぽつり、とサンテが呟く。

「思ったよりも調査しているんだな、腑抜けだからそこまで辿り着けないかと……といっても、それは私も初耳だ。共鳴するものなのか……知らなかった。普通は火葬してから大地に還すので、そのまま埋めるし……」

 人間の手に高貴な魂の欠片が渡っていることが不愉快だったので、リュウは奪還したかったのだが、まさかそのような効果があるとは驚きだった。 
 幻獣は、体内に皆、魂の欠片である石を所持している。リュウの場合は、頭部に埋まっていた。色合いも種族によって異なるのだが、その石をそう扱うなど誰も考えなかった。

「戦場で死した幻獣は、死体からその石を抜き取られていると考えて良いのかな?」
「忌々しい話だが、恐らくそうなのだろう」
「死んでからも、酷い侮辱を味わっているんだね……可哀想だ」
「同情などいらない、お前は情報を集めろ。可哀想と言われても、それを行っているのはお前と同じ人間だろうが」
「そう、だよね。ごめんねぇ、スタイン……」

 か細い声で自嘲気味に呟いたサンテが気落ちしていたので、慌ててリュウは付け加えた。

「ま、まぁ、おま、おまえは、その、苺もくれるし、思いの外……良い奴らしいがな。だが、勘違いするなよ、苺の礼だけだからな、お前などに気を許しているわけではないからな?」

 背を向けてそう言い放つとリュウは横になる、目を閉じて唇を噛む。
 後方から、ありがとう、と小さく呟いたサンテの声が聴こえた。


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