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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第141回   堕ちた召喚士
 太古、人間と幻獣はこの惑星ネロにて共に暮らしていた。遥かに人間を凌駕する魔力を持ちえている幻獣達を、人間は神の使い、いや神そのものとして崇め祀った。
 火を司る竜族は、寒くて凍えている山奥の人間の為に暖かな火を与えた。その村の中央には決して絶える事ないようにと、村人は感謝の意を篭めて日中夜問わず薪をくべた焚き火があった。各々、そこから有難く火を松明に受け取ると質素な家に帰り、料理に使う。
 水を司る竜族は、日照りが長く続く乾燥した大地を訪れ、その力を持ってして砂漠に湖を出現させた。渇きを潤し、人間達は拝みながらそこから水を汲み、命の糧とした。
 風を司る羽翼族は、谷の奥底の淀んだ空気と鉱山から洩れた、有毒ガスで死に絶えようとしていた場所を訪れた。風を吹かせ、瘴気を払い人間達を救い出した。人間達はその場所から懸命に離れ、その羽翼族に皆の身体の不調を説き伏せられ、感謝の涙を流しながら新たな部落を作った。せめてものお礼にと、木の実や花々を供えて皆で感謝の祭りを開く事が風習となった。
 土を司る小人族は、荒れ果てた大地に餓える人間達を救おうと、懸命に土地を耕した。肥料のやり方、水の撒き方を説き伏せ、新たな生命を土から生み出した。作物に恵まれた人間達は豊穣祭を毎月開催し、恩恵を有難く戴いた。
 困ったことがあれば相談し、快く幻獣達もそれに応じていた。尊敬と畏怖の念を心に抱きながら、一歩下がって人間達は接する。
 暫くして、生活が豊かになった人間達は当然人口を増やしていった。増えれば増えるほど、些細な事で諍いが起きた。
 誰かがやるだろうと、感謝の火に薪をくべる者が徐々に減り、火は消えた。けれども、皆は家に火を持ち帰り独自で使っていたので困らなかった。
 砂漠の湖に大きな街が出来たが、旅人達はその水を飲む為に高い金額を払わねばならなかった。金がなければ、直様砂漠に放り出されて命を落とした。
 山から溢れ出る瘴気の奥底には、金銀財宝が眠っていると欲深な人間達は思案し、僅かな金で他の部落から労働者を呼び寄せると、羽翼人の忠告も虚しく再びあの、死の山へと人間は入っていく。感謝の祭りなど、とうに忘れ去られていた。
 豊穣の大地は貧困とは無縁だったが、互いに土地を大きくしたいと日々いがみ合い、毎日争いが続いていた。殺してでも土地を奪い、収益を上げようという者で有り触れた。争いで、稲穂には鮮血が飛び散った。
 幻獣達は、あまりの事態に目を背けた。
 なんという浅ましいことだろうか、それもこれも、人間達に手を貸したのがいけなかったのだろうか。
 それが、全ての過ちだったのか。
 幻獣達は、ひっそりと人間達の前から姿を消した。人間達が足を踏み入れられぬ、凍て付いた大地で暮らす事にした。
 けれども、人間の中にもまだ善悪の区別がつく者達が若干存在した。
 彼らは幻獣達に感謝の気持ちを忘れないようにと、質素な供え物と、簡易な祠であったが、密やかに創り上げた場所で祈っていた。

『あぁ、申し訳ありません。愚かで卑怯で、恐れを知らぬ人間です、ですが……どうか、私達を見捨てないで下さい』

 そんな人間が気の毒で哀れで、何体かの幻獣は各地に残るその人間の傍を離れなかった。
 後に、その人間達が”召喚士”という職業になる。幻獣と心を通わし、懸命に人間の驕りを正そうと訴え続ける人間。
 その人間に危害が加われば、幻獣が黙ってはおらずに直様救出に向かう。
 召喚士の人数は、圧倒的に少なかった。微力だった。
 やがて、召喚士に従う幻獣に目をつけた人間が出てきた。その力を持ってすれば、一つの村などいとも簡単に廃墟と化す。
 生まれたばかりの我が子を人質に捕られた召喚士は、手に足に鎖を填められ泣きながら幻獣を使役した。子供の為だと、子供を見殺しにすることは出来ないと。
 そんな召喚士に応えて、不本意ではあったが子供の為だと幻獣も力を振るった。
 何処かで、そんな噂を聞きつければ皆がこぞって幻獣を使役すべきだと、召喚士達を片っ端から捕らえた。
 幻獣に対抗出来る人間など、存在しない。ならば、目には目を、である。
 くだらない人間の争い事には加われないと、一家で心中する召喚士もいた。だが、半数以上は家族を人質に捕られてしまい、否応なしに奴隷と化してしまった。
 心中した召喚士と共に居た幻獣が、単独で飛び出し懸命に他の仲間を集めた。
 ようやく事態を伝える為に、幻獣達が暮らしていた永久凍土に着いた頃には、世界は戦争で溢れ返っていた。

 ……もう、人間とは暮らせない。

 皆同意し、幻獣達は移住することとなった。本来彼らの故郷はここではない、別の惑星だ。
 ”召喚士”という職業などなかった時代。まだ、人間が純粋で見返りなど求めず、強欲さなど見せずに、ただ自然に願い、助けを求めていた時代に、他の惑星に住んでいた幻獣が興味本位でこちらへと転移してきたのが始まりである。
 人間に使役されている仲間達を救出する為に、何体かは人間達に歯向かった。
 人間の力は幻獣達に比べれば無力であった為、例え人間を殺害することになったとしても仲間達の救出を優先した。
 先に故郷の惑星へと戻った幻獣達は、仲間達の帰りを待ち侘びた。だが、帰っては来なかった。その後、誰しも戻らなかった。あの永久凍土に足を踏み入れ、皆の魔力で創り上げた祭壇にて詠唱さえすれば、戻れる筈だった。
 難しいことではない。
 焦燥感に駆られて、一人の若い幻獣が人間の住む惑星へと戻った。皆に止められたが、振り切った。 
 到着した場所は、以前と変わらぬ永久凍土の祭壇だ。別に、この場所が破壊されたわけでもない。仲間達を呼べば直様戻れる為、若者は仲間を探すために飛び出していた。
 やがて、そんな彼が見たものは。
 同族の幻獣が先頭に立ち戦っている人間達の戦争だった、仲間達は兵器扱いにされていた。仲間を呼ぶ為に戻っていた仲間達が、互いに戦っていた。阿鼻叫喚図だ。
 混乱した彼は、あまりのことに直様身を潜め、水面下で情報を整理すべく駆けずり回る。冷静な判断だった、仲裁したい身体に己の爪を突き立て堪え、根本を突き止めようとした。万難を廃して進む為にはそれしかなかった。
 仲間達は普段頑丈な檻に入れられ、見張りとてついているため会話すら出来ない。
 何故こうなってしまったのか、原因が全く解らなかった。
 単独で調査していた彼だが、ある日水と火の竜が戦っている際に割って入ってしまう。水の竜は、すでに瀕死の状態だった。

「何をしているんだ! 人間など見捨てて、戻るんだ!」

 同族の姿を見た水竜は、一瞬瞳に涙を浮かべて嬉しそうに頷いたが、こと、切れた。死を嘆き悲しみ、弔いの言葉をと思ったが、全身に鋭い痛みを受けて空中で吹き飛ばされる。

「早く還れ! 二度と来るでない、早く逃げろ!」

 火竜の尾にて強打されたのだ、唖然としていると、その若者の身体がまるで鎖で縛られたかのように硬直する。一際鋭い咆哮をあげ、火竜は叫び再び若者を弾き飛ばそうと突進したが、その身体も硬直していた。
 動きたくとも、動けない。全く身動きがとれず、若者の背を汗が伝う。

「リングルス=エース……ふむ、活きの良いのが手に入った」

 不意に、自分の名を呼ぶ声がする。見れば、漆黒のフードを被った人間が残忍そうな瞳でこちらを見ていた。それが脆弱な人間から放たれているにしては非常に脅威に思えて、本能的にリングルスは威嚇する。
 フードで顔が見えないとしても、声から察するに男である。

「成程、猛禽類の翼を持つ飛行型の幻獣か。どれ、どのような攻撃力があるものか……」

 若くして単独で飛び出した幻獣リングルス。身動きが取れぬまま、人間達に四方を囲まれる。
 何故動けないのか、理解が出来なかった。命途切れ、地面に転がっている水竜を乗り越えて人間達がやってくる。幾度も踏まれた水竜は当然汚れていった、死を冒涜する人間に憎悪の念を抱く。

「さて、では水竜も死したことであるし奴らに止めの追撃でもするか。さぁ、行くが良い、リングルス」

 漆黒のフードの男が、右手を振り上げるとリングルスの身体が解放された。
 だが、自分の意識とは正反対に身体は別の行動を取ってしまう。目の前の人間を殺したいのに、視線は遠く、水竜の屍の向こうの人間を見つめてしまう。必死に頭を振り抵抗をするが、本当に殺したい人間が目に入らない。
 愉快そうに、高笑いをしながらフードの男が近寄ってきた。

「納得がいかなくとも、もはやリングルス、そなたは我が使役するただの武器と化した。真名を手に入れさえすれば、獣などこの通りよ……」

 後方で、火竜が哀しそうに吼えた。理解しようと懸命に思案していたリングルスはようやく、事態を把握したのである。

「外道め、お前……召喚士の末裔かっ!」
「左様、大人しく使役されるが良い。どれ、どの程度の戦闘能力があるのだ? 早く見せてみろ」

 幻獣達と共に居た人間の善なる召喚士は、恭しく名前と共に感謝の気持ちを述べた。地方によっては、詩とした。
 幻獣達を使役出来る唯一の方法、それは彼らの名前を正式に把握することだ。
 普通の人間ならば、幻獣の名前など知らないはずだ。だが、召喚士ならば名前を知っている。フードの男の手には、何やら紙の束が抱えられていた。

「まさ、か……」

 震える声で呟いたリングルスに、フードの男は誇らしげに紙を掲げる。

「召喚士を片っ端から探し出し、知り得ている幻獣の名を吐き出させ、こうして書き出した。特徴も、な。お前は西の山奥に滞在していたようだな」
「た、たったそれだけ!? それだけで人間が、昔神だと崇めた私達を使役するというのかっ!?」
「それだけ、だ。お前達が思っている程、我らは非力ではないのだよ。まぁ、力こそないかもしれないが有り余っている生命力と剛力の筋肉達磨のお前達とは違い、我らは……頭の出来が良いのでね。真名、というものが如何に重要かなど考えもしなかっただろう。まぁ、ともかく一刻も早く目の前の人間を一掃しろ。兵器ごときに語っていても、無意味だからな」

 フードの召喚士が半ば面倒だというように手を振り上げて下ろすと、リングルスの身体は意識とは反対に、前方の人間へと向かっていく。
 抵抗出来なかった。屈辱だ、これほどまでの苦渋を舐めるハメになろうとは思いもしなかった。
 八つ裂きにしても足りないほどの人間に、愛する仲間を、自分を蔑まれた。しかし、その人間に従うしかない……いっそのこと、殺されたかった。

「新手だー! 別の兵器が来たぞーっ!」

 人間達が喚いている、リングルスは俊敏さに自信があった。宙を舞うように逃げ惑う人間達を、鋭い爪で切り裂いていく。弓矢が降ってきたが、上手く避けながら人間の首を刎ねた。

「はは、なるほど切り込みに使えるな! 素晴らしい戦力だ!」

 フードの召喚士は、意気揚々とリングルスを見下ろす。

『名前を知られてしまうと、全て捕らわれてしまう……』

 敵の軍隊を全滅に追いやったリングルスは、檻に入れられ同じ様に隣の檻に居た火竜とようやく会話することが出来た。無論、互いに無傷ではなかったので血液が流れ出ているが、人間は手当てなどすることもない。

「……これ以上、仲間が助けに来なければ良いが」
「人間と違って、幻獣は情に厚い。リングルス、お前の様にこれからも誰かが助けに来てしまうだろう」

 解りきっていたことだったが、二人は項垂れた。
 皮肉にもリングルスの目的は明確になった、あの名前を連ねてある紙を、燃やさねばならない。それをしないと、犠牲者は増え続けるだろう。
 だが、どうやって。
 二人の嫌な予感は的中し、それからも何体かがやって来てしまった。その度に捕らえられてしまう。
 人間達は新たに姿を現した幻獣の真名を知る為に、躍起になった。片っ端から書物に連ねてある名を読み上げ、該当しなければ拷問にかける。気高く、人間に屈するくらいならばと名を死ぬまで言わない幻獣もいたのだが、大抵は屈して吐いた。他の幻獣を目の前で火炙りにされ、名を言えば助けてやると言われれば、頭を下げて名を言うしかなかった。
 人間達は、情に厚い幻獣を把握していたようである。
 
 ……誰か、この悲惨な連鎖に気付いてくれ。もう、誰も来ないでくれ。

 幻獣達は、必死にそう願い続けた。
 やがて、不審に思い永久凍土にあった祭壇を破壊し、全てを遮断した幻獣が現れた。
 祭壇を破壊してしまえば、あちらの惑星からはもう来る事が出来ない。無論、その幻獣とて戻る事は出来ない。が、それを覚悟で土の小人は一人、祭壇を破壊した。そこで、息絶えた。
 けれども、人間は欲深い。幻獣とて、永久の命を持っているわけではない。
 消耗品として彼らを使役していた為、戦争で傷つけば当然、少しずつだが減少していった。
 彼らはそれで良い、と思った。
 リングルスはまだ致命傷は受けていなかったが、火竜は長く捕らえられており楯として人間の前に立たされていたので、身体には幾つも矢が突き刺さっていた。その中には、毒矢もあった。もう、長くは無い事など二人は知っている。
 治療など誰も施してくれない、日々衰弱していく一方である。
 だが、死したほうが良いのだと諦めの色すら顔に浮かび、死ぬ事が永遠の幸福であると思い始めていた二人は、もう、どうでも良かった。
 人間達は、焦っていた。
 このままでは、兵器が消え行く定めである。増やさなければ、戦争に勝利が出来ない。
 何度か幻獣の子を作るべく生殖行為をさせてみたのだが、上手く産まれて来たのは数体である。
 おまけに名前は親しか決められない、名付けた親に吐かせようと命令すると、我が子を守ろうとその幻獣は信じられない力で抵抗した。
 中には子の名を言わされてしまったものもいたが、両親と共に育てられず人間の手で育てようとした為、途中で死んでしまった。

「これでは、兵器がなくなる!」
 
 自分達が最も安全で、かつ、強力な兵器である幻獣。
 やがて人間達は、召喚士の名の通り、行方をくらませた幻獣達に目をつけ呼び寄せる方法を編み出した。全く持って、愚かな事に時間と能力を費やしている。そんな暇があるなれば、人間達の手で世界を纏め上げるという法案が出なかったものだろうか。
 だが、領土拡大、栄華を誇り絶対的な権力と強欲という夢に溺れていた人間にとって、和解だの自らが剣を手にし、兵器とされた幻獣に頼らない戦争など、もはや過去の遺物でしかなかった。
 昔ながらの方法で祭壇を用意し、祀っていた時と同じ様に木の実や装飾品を飾り立て、召喚士という名の欲望に捕らわれた堕ちた魔法使い達は紙に記されている幻獣の名を呼び、引き寄せたのだ。
 成功する確率は、五分五分だった。
 名前の記載自体が間違っている事もあれば、その幻獣がすでに敵勢力の手に渡っている場合もある。何より、著しく魔法使い達の生気も消耗するので頻繁には行うことが出来なかった。
 それでも成功する可能性があるのだから、止めるわけには行かない。
 こうして度々幻獣星から、誰かが消えることになったのだ。
 永久凍土の祭壇を破壊したところで、無駄足だったのかもしれない。だが、人間がこの領域に入り込むという最悪の愚行は避けることが出来た。
 幻獣達とて、指を咥えて召喚に脅えていたわけではない。
 正確な詳細は誰しもわからなかったが、人間達が何らかの手段で自分達を召喚していることは紛れもない事実である。こうも行方不明者が増えては、それしか考えられなかった。
 時の王は、これ以上被害が出ないようにとこの惑星自体に結界を張るべきだと主張した。
 皆もそれに同意した。
 それさえ行えば他界とは確実に遮断され、浅ましい人間達の手に脅かされることはない。しかし。
 消えた仲間達は、どうすれば良いのだろう。今ここで遮断してしまえば、助かる者すら、助からないのではないか。
 夫を失い、泣き伏せっている婦人を見ると、王は決断できなかった。両親を失った子供達に「もう、親は還らないよ」などと、言う事が出来なかった。
 王は、皆は。
 遮断を諦めた、いつしか仲間達が無事に帰宅することを願って、結界を張らなかった。犠牲が出ても、望みを幻獣達は捨て切れなかったのだ。
 以前から行き来していた転移の魔方陣は、リュウの住まっていたあの王宮に位置している。 

「さて、トッカ。君の主人はいつ帰宅するだろう」

 リュウは目の前の犬に話しかけながら頭を撫でると、地図を食い入る様に見つめる。
 リュウが成さねばならないことは、仲間達の救出だ。現時点でリュウの魔力によって幻獣星は遮断され、何者からも影響は受けない。ので、そこにいる仲間達の安全は保障されている。
 何故人間達が、自分達を召喚できたのか。恐らくは”名前”であるということはリュウとて、聴かされた。名前だけで呪縛し、使役出来るのものなのかリュウはまだ疑っている。しかし仮にそうだとすれば、どうすればその呪縛を解き放つことができるのか。
 たどり着いた先は、”使役している人間を殺せば呪縛とて、解けるのではないか”ということだ。

「それしか、方法がないように思えるよ」

 リュウは小さく呟くと、トッカから離れてドアへと向かう。
 ワン! 小さく吼えてリュウのマントにかじりつくトッカに、小さく苦笑いした。が、出て行くことを止めているのか、一向に離してくれない。
「仕方がない……トッカも、一緒に行く?」

 ワン! 同意するように吼えたので、リュウはトッカを連れ立って外に出た。
 竜族のリュウは、自在に空を飛ぶことが出来た。切り立った崖からトッカを抱き上げてそのまま身体を落下させる、風に頬を打たれながらリュウは思い切り身体を伸ばした。
 人間に見つからないようにして、探らねばならない。上空から何か建物が見えれば、直様低空飛行に切り替え森に降り立ち、徒歩で進む。
 最初の村では、疲れきった様子の人間達がぐったりとしたまま、虚ろな瞳で生活していた。
 ここには仲間がいないようだったので、舌打ちして離れる。
 次の村も同じだった、全く生気が感じられない。
 夜になったので、森の木の上に身を隠し、途中でもぎ取った果実を食べてリュウはトッカと眠りにつく。
 翌日巨大な湖を見つけたので、リュウは喉の渇きを癒すこととした。 
 だが着陸してみて解ったのだが、腐敗が進みとても飲める様な臭いではなかった。鼻を摘んで顔を顰めると、湖面から突き出しているものに目が行く。
 見覚えがあった。弾かれたように水面を駆ける様にして飛び、呆然とそれを見つめれば。

「な……」

 死体だ、仲間達の死体だった。
 一体だけではない、何体も沈んでいた。腐敗しているのでほとんど姿は解らないが、夥しい量だった。

 ……ここで一体何が?
 
 青褪めたリュウは覚束無い足取りで戻る、上手く飛べなくてマントが水に浸った。眩暈に襲われながらもようやく陸地に舞い戻ると、力なく倒れこみ嘔吐する。胃の中のモノを全部吐き出した、それでもまだ、足りなかった。
 なんということだろう、故郷の惑星では火葬し、手厚く葬るというのにこれでは死の冒涜である。
 仲間達の悲惨な死に様を見たリュウは、暫しそこに座り込んだまま動けなかったが、生きた仲間に会う前にサンテの家へと引き返していた。
 もしや、もう皆死んでいるのでは……そうとすら、思えてしまった。
 目の当たりにした残酷な光景は、リュウの瞼の裏に焼きついて、数日眠る事が出来なかった。
 悔しくて、涙した。王族でありながら何も出来ない自分の力不足に、更に嫌気がさして、涙した。


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