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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第139回   仮初の勇者サンテ
 遠目に見ていた質素な小屋に辿り着いた、近くで見たら、想像以上に劣化しており、また小汚い。思わず顔を顰めてしまう、この場所で暫し過ごすことになると思うと憂鬱だった。
 玄関に薪を投げ捨て、壊れかけのドアを無造作に開くと中に入る。真似してリュウも薪を置き、そのまま入っていった。ギィ、となんとも頼りない音がするドアにリュウは溜息を吐く。突風でも吹こうものならば、崩壊しそうだ。
 吹き零れていた鍋を慌てて下ろしたサンテは、ドアの前でつっ立ているリュウを手招きで呼び寄せる。

「あー、観ての通り金持ちでもないし、生きていくに精一杯な生活なんだよね。よそ様に食べさせるものなんてないに等しい。けど、困っているみたいだし」

 そんなこと、言われなくても判っていた。小屋の中とて何もない、物置と言っても過言ではない状態だ。木々の継ぎ目からは風が冷たく吹き込んでくる、中央の囲炉裏から離れてしまえば、途端に寒さが身体を襲った。
 椅子がないので豪快に床に座ったサンテと、隣で大人しく食事を待つ犬のトッカに面食らい、リュウは渋々汚れを気にしながらも床に座る。

「君、立派なトコにいたのかい?」

 表情を見れば、大体リュウが抱いている感情など解った。確かにサンテもこの場所は汚いとは思っていた、王国で見た馬小屋の方が余程立派だった。
 まさか『幻獣星の王子です』とは言えないので、口を閉ざしたままリュウはそっぽを向く。苦笑すると、サンテは薄汚れて割れ欠けた茶碗を三つ取り出した。大きさはマチマチだ、普段は湯飲みに使用しているものが混じっている。リュウの分の茶碗など、この家にはない。
 鍋の中のモノを茶碗に注ぐ。何かわからなかったが、湯気立つそれは美味しそうだった。丁重に受け取ったリュウはそれを覗き込む、香りを嗅いでみても何かはやはり判らない。
 熱心に見つめているリュウに再度苦笑すると、サンテはそのまま啜り始めた。

「悪かったね、何も入ってなくて。水と香辛料と痩せこけた畑で取れた葱だけだよ」

 そういうことだ、見ても判るはずがない。それでもリュウは啜った、味気のなさに顔を一瞬顰めたが一気に飲み干す。夕飯はこれだけなのだろうか、とても足りない。幻獣星でも食事を全くしていなかったので、いい加減空腹だった。
 何か食べてこればよかったと、心底後悔した。

「豪快に飲んでくれたね、もう一杯どうだい?」
「……戴こう」

 おずおずと差し出した茶碗に、丁寧に質素なスープを注いだサンテは、それでも懸命に飲むリュウを見て穏やかに微笑んだ。味気ないこれは、サンテには飽き飽きしていてとても大量に飲めるものではなかったのだ。
 それでも、飢えは凌がねばならない。

「で、君はいつまでここにいるのかな? 働いてもらわないと置いておけないよ」
「う、うむ……」

 飲み干したリュウは、気まずそうに俯くと空になった茶碗を隣に置き、眉を顰める。
 何を言えばいいのか、判らない。人の良さそうな目の前の男だが、正直に話して良いのかどうかリュウには判別が出来なかった。ニンゲンとは危険な輩だと教えられているのだ、居座り続けるより今ここで息の根を止めて、当初の予定通りこの小屋を陣盗るべきではないのだろうか。

「まぁ、ワケありみたいだしね。とりあえず今日は寝なよ、布団なんてないから雑魚寝で寒いけど」

 継ぎはぎだらけの薄い布を一枚渡された、サンテは茶碗を持って外に出ると汲んであった水で乏しき食器を洗い、直様小屋に戻ってくる。薪を追加しトッカを呼び寄せ抱き締めると、床に寝転がる。

「ここから離れると寒いからね、出来るだけ火の傍にいなよ。おやすみ」

 明かりは薪の火だけが頼りなので、周囲が暗くなれば就寝するしかない。
 寝付けないリュウは火が燃える音を聴きながら、寝静まった目の前の男を見ていた。

 ……無防備なニンゲンだ、見知らぬ自分を招きいれ、食を与え、どうやら自分の被るはずである布を与えてくれた。

 今も全く警戒心などなく爆睡している、その様に呆れ果てる。

「殺されても、文句は言えないぞ貴様」

 リュウは燃える火を見る、剣は持ち合わせていないが短剣ならば隠し持っていたことに気付いた。バジルに口煩く『護身用に』と言われて持たされていたことを寝転がって思い出したのだ、今となっては感謝に平伏すしかない。軽量で邪魔にならないから、と言われていたが平穏な惑星では無意味に等しく、何度投げ捨てたことだろうか。だが時折不意打ちで攻撃して来るバジルに備えて、持ち合わせる破目になっていた。
 それこそバジルの思惑通りだったのだが。
 まさかココで役に立つとは……喉の奥で乾いた笑い声を出したリュウは穏やかに眠っているサンテと、犬のトッカを見比べる。
 初めて見た人間を見つめていた。
 なんら、自分たちと代わりないように思えた。故郷の惑星で、逃亡している自分を時折匿ってくれた心優しい民と大差ない。
 だが、人間だ。聞いた話が真実だろう、巧妙な手口かもしれないと唇を堅く結ぶ。油断させているだけかもしれない、騙されてはいけない。

「まぁ、殺すのは明日にしようか」

 床は冷たく硬くて痛い、寝付けなくて朝を迎えることになる。
 これが、人間の生活なのかと首を傾げながら。それでも、短剣を引き抜くことはなかった。 
 翌朝、軋む身体に鞭を打ってリュウが起き上がれば、既にサンテは食事を作り終えていた。

「やぁ、おはよう。今日から畑仕事手伝ってくれるよね? 起床は早めにお願いしたいなぁ」

 差し出されたのは、例の如く葱のスープだった。昨晩の残りに更に葱を足しただけである、多少の腹の足しにしかならないが、身体は辛うじて温まった。

「二人で耕せば、この痩せ衰えた大地にも、もう少しマシな食物が育つかもしれないし」
「お前は、産まれた時からこのような場所に居るのか?」

 ようやく口を開いたリュウに、屈託のない笑顔を浮かべたサンテはトッカを撫でながら語りだした。彼自身、一人と一匹の生活を苦にしていたのである。気楽といえども、やはり心の隙間は人の温もりでしか埋められない。

「うん。両親から受けついだこの土地に住んでいるよ」

 両親は他界したのだろうと、リュウは察して何も言わなかった。自分と同じ様な境遇であり、同じ様な年齢に見えるサンテに気を赦しかけていたのは事実である。
 実際はリュウのほうが随分と長生きだが。
 葱スープを飲みながら、瞳を細めるサンテ。陽の光が小屋に差し込めば、まだ幼い顔立ちがくっきりと陽に浮かぶ。

「スタインは、僕が勇者だなんて知ってた?」

 知るわけがないので、正直に首を横に振るリュウに、サンテは苦笑する。

「だよねぇ、まぁ勇者にすら見えないだろ? 子供の頃夢見た勇者様は豪華な鎧に身を包んだ、逞しい人だったよ。僕とじゃ雲泥の差だよね。でも、勇者になったんだから仕方ないよね。それしか生きていく方法がないんだ」

 自嘲気味に語るサンテに、控え目にリュウは話の続きを促す。非常に心痛な面持ちのサンテに、遠慮がちに願い出た。
 本当に勇者ならば好都合な人質だが、目の前の少年はか弱くて小さく見える。お世辞にも勇敢な者には到底思えない。

「スタインが何処の国に属していたのかしらないけれど……軍事機密だからね、他言無用だよ?」

 無用も何も、語る相手などリュウには存在しないが、一応大きく頷いた。

「知っているかな、知らないかな。……二年前の総督撃破事件だよ」

 サンテは、疲れきった面持ちで床に倒れこむように横になる。切なそうに鳴いて近寄ってきたトッカを抱き締めながら重苦しい口を開いていた。本来ならば誰にも話してはいけない内容だった、だが限界だったのだ。
 内に溜め込んだものを吐き出さなければ、人は気が滅入る。

 その日、サンテは数人の仲間と岐路についていた。家族が死に、一人では生きていけなかったので近くの街に仕事を探しに出かけ、ようやく安い賃金で受けることが出来た仕事。それは、辺境の村への物資配達だった。
 戦争で混乱しているこの地では、敵からの防衛の為小さな村にも兵士が大勢滞在しており、物資が不足がちである。その為定期的に最前線で見張りを続けている村に、食料や武器を届けていた。
 馬車に乗っているのは武器防具と食料で、サンテ含む少年達は不慣れな鎧と剣を持たされ懸命に物資を届けた。
 本来ならば、直様終わる仕事だった。村まで運び、軽く休息をしてからとんぼ返りである。
 岐路には馬車が空になるから、楽だろうと思い込んでいたが甘くはなかった。村で得た戦利品を今度は馬車に乗せて運ぶ羽目になり、とても少年達が乗り込める隙間などない。
 瀕死の兵士も運び込まれており、腐敗臭が漂う中で嘔吐に悩まされて歩く。
 もう少しで、小汚い家でも悠々と寝転がり眠れる……少年達はそれだけを希望にして歩いた。
 山沿いを歩いていた時だ、突如馬が嘶き前方が騒がしくなった。何事かと顔を見合わせたサンテ達だが、時分でも気づかないうちに叫び声を上げていた。
 敵襲だった、切り立った崖からまるで鳥の様に身軽な兵が前方を上から攻撃したのだ。大木に縄を括りつけ、腰とを結んでいた。優雅に弓を引き脅威の飛距離で上から射抜いてきている。こちらも弓で応戦しようとしているのが解ったが、火矢で馬車を狙ってきていたので最早手遅れだ。残酷なことだが瀕死の状態で馬車に寝かされていた兵は、そのまま断末魔を上げて燃えていく。
 サンテ達は、逃げようとした。訓練などされていない少年達である、当然だった。だが逃げ惑う彼らを弓は狙う、背中の槍で突き刺してくる。
 恐怖に支配された、仕事を選び間違えたと思った。誰も助けてなどくれなかった、自分の身は自分で護るしかなかった。悲鳴を押し殺し、自分の存在を悟られまいと震える身体でサンテは近くの森へと逃げ込む。隠れてこの惨劇を見送るしかないと思った。

「手間をかけさせやがって」

 声に驚いて振り返れば、命綱を切った数人の敵兵が降りてきている。あちらは訓練された精鋭の兵士、こちらはただの寄せ集めだ。敵うわけがない。確かに本職の護衛もいたが、最初の奇襲で既に絶命していた。

「おーい、あったぞー!」

 自分を探しているのかと思えば、狙いは違ったようだった。燃え盛る馬車から箱を取り出して、それをこじ開けている姿は見えた。だが腰を低くし木の窪みに身を潜めているサンテには、それが何か見えない。
 自分の心拍数が敵に聴こえないか不安になった、それほどまでに大きく感じられた。油断してはならないと、懸命に息を押し殺す。

「逃げた兵はいないか? 生きていられると面倒だ」

 心臓が、凍りついた。直ぐにでもこちらに探しに来るだろう、逃げるべきかここで息を潜めるべきか。冷汗が、身体中が吹き出て寒く感じられる。歯が、鳴る。
 その時だった。小さな叫び声と動物の咆哮を聴いた気がして、恐る恐る顔を出す。静まり返っていたその場は、先程の敵兵の姿が消えていた。いや、正確にはそこにいたが見えなかったのだ。
 サンテは、震える脚で木を支えに辛うじて立ち上がると再び様子を覗く。妙に静かだった。出て行くべきなのか、ここに身を潜めておくべきなのか。しかし、数分経過しても誰も動く気配がない。
 覚束無い足取りで剣の柄に手をかけて、恐る恐るサンテは森から出た。

「ヒィ!」

 喉の奥から悲鳴が零れる、無残にも血塗れで死んでいる敵兵達がいたからだ。地面に染み込んで行く鮮血に恐れをなす、首と胴体が斬り離されていた。胴体とて損傷が激しい、まるで巨大な猛獣に一瞬で噛み砕かれたかのような歯型である。
 サンテは胃の中のものを全て吐き出す、胃液が大量に地面に飛散したがその場に蹲るしかなかった。何度も、嘔吐した。ほとんど飲まず食わずで、胃の中など空だと思っていたのに。内蔵をぶちまけているのではないかと思った。
 周囲は血の香りで充満している。この場から立ち去らない限り、嘔吐は止められそうもない。
 何が起こったのか理解できなかった。だが、とても人間の武器での切り口ではないと思えた。
 サンテは、剣を杖代わりにして必死に街へと一人で舞い戻った。この位置ならば、村よりも街のほうが近かった。一刻も早く、他の人間の中に紛れ込みたかったのだ。
 逃げたくても身体が上手く動かず、サンテは何度か転倒しそうになりながら死体を見ないように進む。不意に、何やら光るものを発見した。強奪した宝石だろうと見向きもしなかったが、妙に視線を外してもそれが気になる。
 サンテは、地面に転がっていたそれを拾い上げた。何か全く解らなかった。紺碧の半透明である、直径五センチ程度の宝石にしか見えない。
 しかし、それが意志を持っている様な妙な感覚に陥った。石はやんわりと、温かい。脈打つようで、小動物でも手にしているような感じである。
 ただの宝石ではないことくらいサンテにとて理解出来たので、丁重にそれを懐に仕舞いこんだ。
 体力の消耗が著しく、脱水症状を引き起こしかけていたサンテは街の入口付近でようやく保護された。上手く話せないというのに、兵は状況の説明を求めてくる。あからさまに顔を顰めながら、それでもぽつりぽつりとサンテは思い出したくもない惨状を、渋々語るしかなかった。
 あの、不思議な石も手渡した。自分の手元に置いておきたい衝動に駆られたが、そのようなこと赦されるはずもない。半ば奪い取られるように、宝石は兵の手へと渡る。
 丸二日眠り続け、回復したサンテを待っていたのは衝撃の事実だった。
 サンテの身体は何時の間にか王都へと運ばれていたのだ、目が覚めた時には王宮の一室だったのである。と、いっても豪華な部屋ではない、ただの小間使いの居間だ。
 大陸で最も権力を持つ王都カエサル。サンテの住んでいた集落も、この間依頼を受けた街も、物資を運んだ村とてカエサルの領域である。
 呆けていると、急に腕を捕まれ無表情の女官達に身体を洗われる羽目になった。赤面したが、無常にも衣服は全て剥がされ、運ばれてきた水と布で擦られる。冷たい水に悲鳴を上げる、が容赦しない。
 羞恥心と屈辱感で涙を浮かべるサンテのもとに、一人の恰幅のよい兵士がやってきた。どうやら鎧や武器を届けにきたらしく、床に置いてサンテの様子を見つめている。

「あの、これは一体」
「王にお目通りするのだ、最低限清潔にしてもらわねばな」
「はぁ!?」

 ようやく目が覚めた。何がどうなってこの状況なのか理解出来ないが、今以上に悲惨な出来事が待ち受けているような気がしてならなかった。
 放心状態のサンテはきちんと鎧を着せられ、部屋から追い出された。顔面蒼白で兵士に誘われ、王の座へと急ぐ。

「あ、あの、状況が……」

 サンテの絞り出した声も虚しく、そのまま王の間へと通される。兵士は、中には入らなかった。重苦しいドアを閉められ深紅の絨毯に慌てて平伏すと、張り詰めた空気が流れていた。萎縮するしかない。

「お前が、サンテか」
「は、はっ!」

 深紅の絨毯の三十メートルほど先に、玉座が三つ並んでいる。王と王妃、そして姫君のものだ。重圧の声は無論王のものだった、野心家で戦争をけしかけている重宝人である。高齢だが勢いは衰えない。

「此度の件ご苦労であった。お前は本日から勇者サンテじゃ、胸を張って国の為に生きよ」

 絶句する。混乱するサンテに大袈裟に溜息を吐いた王は、不機嫌そうに言葉を破棄捨てた。

「お前は、奇襲の生き残りじゃ。敵国にはお前がたった一人で敵兵を全滅させたと噂を流しておる、無論、国内にもだがな」
「え、えぇ!? そ、そんな!」

 大声を張り上げたサンテだが、顔を上げて王に睨まれると再び床に額をつける勢いで平伏す。

「事実は違うのじゃろう、それくらい知っておるが我国に優秀な戦士が存在すると印象付けるのにはうってつけじゃ。お前は勇者の名を語り、精々死なないでいろ。適度な賃金は与えよう、今後は無意味な仕事を請けぬようにな。ただ、”サンテ勇者”の名があればよいのだ。ボロが出ても困る、他人と接触しなければ平穏な暮らしを与えよう」

 汗が吹き出た、屈辱的な言葉を並べられている気がするが、事実でもある。命に別状なく暮らせるのであれば、偽の勇者を名乗っても良いと思った。
 もう、あのような惨劇には居合わせたくない。

「そなたは姫と婚約し、それでも果敢に国の為に戦っているので王都には不在……という立ち位置じゃ。勇者の信憑性を高める為に婚約したという情報も流したが、実際には大事な愛娘など渡さんよ」

 ちらり、と顔を上げて姫を見れば姫は興味なさそうに傍らの果実を齧っている。

「故に、王都に居られても困るのでな。後で極秘に自宅に送り届けるから”たった一人で”暮らしておくのじゃ。まぁ、お前が必要になれば遣いを出す」

 サンテは感謝した、命があってこそである。この先一人で生きていくことなど、あの惨劇に比べればマシだとしか思えなかった。命が危険に曝されることもないのだから。
 進んで、引き受けた。無論、断るという選択などありはしなかったが。

 顔を顰めて耳を傾けていたリュウだが、非常に気になる話だったので口を開く。

「一つ質問したい、不思議な石についてもう一度詳しく説明して欲しい」
「え、そこ!?」

 拍子抜けして顔を引き攣らせたサンテだが、真剣なリュウの眼差しに頭をかきながら手で大きさを説明し始めた。聴きながら、確信していたリュウ。話が終わらないうちに立ち上がると、短剣を引き抜きサンテの首に躊躇することなく突きつける。
 リュウにとって、目の前の弱者が勇者であろうがなかろうが、人間のいざこざがあろうがなかろうが、どうでも良い。問題視すべきは、不思議な石とやらである。
 リュウの目的は、故郷の幻獣達の救出以外には有り得ない。

「それは私が探しているものだ、カエサルという場所にあるのだな? 案内しろ」
「む、無理だよ。話聞いてた!? 王都の何処かだよ、判るわけないだろう!」

 剣にたじろぎながら、豹変したリュウに動揺を隠し切れないサンテ。しかし、リュウは本気だった。剣を若干動かせば痛みが首に走る。多少皮膚が斬れた。
 目の前に居る、仮初の勇者サンテに同情などしていられないとリュウは思った。自分は幸運を掴んだのだと思った、欲しかった情報が手に入ったのだから。この機を逃すわけにはいかない、場所さえ聞けばサンテを殺してでも進むしかない。

「あの石、なんなのさ!」
「場所だけ教えろ、私が出向く」
「スタイン、君、敵なの!?」
「お前達人間が、私達の敵なのだろう!」

 トッカが小さく吼えた。リュウは今まで脱がなかったフードを脱ぐと再び、剣をサンテに押し付ける。唖然とそれを見つめるサンテ。

「君……人間じゃないの」

 フードの下からは、竜族の証である立派な角が二本、頭部から突き出していた。 


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