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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第131回   子供でも抱く恋心
 波に揺られながら眠るのにも慣れた、乗船してから何度も月と太陽が入れ替わるのを見た。一体どの程度船の上にいれば良いというのだろう。飛行機があればいいのに、と思った。もしくはこの船が豪華客船であればいいのに、とも思った。
 思いながらユキは、一人甲板に立つと潮風に当たる。
 現在、夜更け。寝付けなくて、起きて潮風に当たっているわけだが。
 家族で船旅をした記憶は新しい、船旅といっても、片道一日程度のものだった。復路は新幹線で帰宅した。
 父親が船でのんびり行こう、と言い出したので去年の正月に船に揺られていたのだが、現在とはわけが違う。家族で一部屋、風呂こそ共同であったがプライバシーは守られていた。退屈しないようにと、大道芸人も乗り込んでいた、広間ではピアノの演奏者もいた。子供用にとオセロなど簡単な道具は貸し出し出来たし、何より携帯ゲーム機とて普及している。
 全く退屈しなかった、海など眺めていた記憶すらない。
 が、現状何もすることがなく暇である。確かに昼間は魔法の勉強をしているので退屈しないが、電気がないので暗くなれば直ぐさま就寝だ。
 不便極まりない。
 あぁ、地球が恋しい。地球というより日本が恋しい。美しい自然の風景にも飽きてきた、高層ビルに埋もれたい。

「あれ、ユキ?」

 弾かれたように悲鳴を上げつつ振り返れば、トモハルとケンイチが立っていた。ふてくされた顔で海面を見つめていたと思う、美少女を維持しているユキにとって、他人といる時は気が抜けない。慌てて笑みを作ると、小首を傾げた。
 珍しい組み合わせだ、と思っていると二人はユキの隣に立つ。一緒に波を見つめて、潮風にあたる。が、言葉は漏れる。勇者が揃えば当然話題はこれだった。

「アサギは、無事かな」
「アサギちゃんだもの、無事よ、きっと」
「そうだよね、でも、泣いてるだろうな。けど、俺達を心配してもいるだろうな」
「だから、泣いてないかもね」

 トモハルとケンイチが、アサギについてあれこれと語り始める。ユキはアサギの親友だ。一番良くアサギを知っているであろうユキに、こうしてぼやくことも当然である。
 だが、聴きながら急に苛立ちが増したユキは、唇を噛締めた。
 これ以上、この場に居たくなかった。一人でゆったりと、愚痴を呟いていた時間が最早懐かしい。何処にもぶつけられない込み上げて来る不機嫌さを発散していたのだが、元に戻ってしまった。
 確かにアサギは攫われた。勇者になりたいと願い、率先して皆を引き連れ才能を発揮していた勇者は、見た目麗しく姫の様に悪者に誘拐されてしまった。
 これまた、ある意味当然のような気がしてきた。非常に絵になるからである。
 アサギが攫われた真意など、勇者達は知らない。だからユキは思ったのだ、普通か弱い人間を人質にとらないだろうか、とするならばアサギではなく自分ではないのか、と。
 囚われの身、というさながら漫画や小説の姫君的ポジション。ひょっとして今頃アサギは丁重に扱われて生活しているのではないだろうか、とユキは思い始めた。
 恐ろしい勘である。
 何故か、処刑されているとは考えられなかった。苦労を強いられているとも考えられなかった、それは”アサギ”だからだ。親友であるが故に、隣でアサギを見てきたユキは、類稀なる幸運に恵まれていることを知っている。
 常識が通用しないのだ、誰もが羨む全てをアサギは持っている。
 船旅をし、服も満足に着替えられず入浴すら出来ず、ただ魔法の勉強に明け暮れる……それはアサギを助け出す為だ。
 私だけ理不尽だ、と思い始めていた。

 ……あぁきっと、ピンクのふわふわのクッションに囲まれて、見たこともないような宝石を身に纏い、ドレスを着せられてイケメン魔王に求婚とかされているんだわ!

 恐ろしすぎる勘である、ほぼ完璧に的中している。
 何故、アサギなのか。何故、自分ではなかったのか。「姫っぽいのは私なのにっ」愚痴るしかない。

『きゃあぁーっ、助けて、アサギちゃん!』
『あぁ、ユキ! おのれ魔王めっ、私の親友を放しなさいっ』
『はーっはっはっはっはっは! この美勇者は我が貰っていくぞっ。そして嫁さんにするのだ!』
『嫁だと!? なんて図々しい魔王なんだ! ユキは俺のお嫁さんになる人なんだっ』
『あぁっ、トモハル君嬉しいっ! 助けに来てねっ』
『はーっはっはっはっはっは! よかろう、ならば助けてみせるが良いっ』
 ……だったらよかったのに。

 と、ユキの妄想は膨らむ。
 苛立ちの矛先は、アサギへと。自分が攫われ、アサギが助けてくれたのならば今ほど憎悪を抱かなかったかもしれない。ユキとて頑張っているつもりだった。勇者男四人に混ざって、女の子が一人きり。紅一点である。なのに、アサギ、アサギ、アサギ、皆それしか口にしない。

「あっれ、お前ら何してんの?」

 声に振り返れば、今度はミノルとダイキだった。勇者が全員、揃ってしまう。げんなりと、ユキは小さく舌打ちする。

「寝付けなくて」
「船での戦闘も慣れて来たけどな、夜は不気味」

 苦笑いのケンイチに、ぶっきらぼうにミノルは返答すると同じ様に甲板に立つ。

「アサギの話をしてたんだ」

 トモハルの言葉に、ミノルは口を噤んだ。ダイキが、ぼそっと一言。

「大丈夫かな……心細いだろうな。俺達はこうして一緒なのに」

 出る会話はアサギのみだ、ユキが予想していた事が今、現実となる。

「アサギは……」
「アサギが……」
「アサギを……」
「アサギに……」

 疲れた表情でユキは蹲る、物凄い形相で唇を動かし悪態づくが無論誰にも解らない。

「酔ったの? ユキ」

 ケンイチだけが不安そうに、蹲ったユキに話しかけるが。他はあーだこーだと、アサギの話だ。
 いらいらいらいらいらいらいらいらー! 
 頭を掻き毟りたい衝動に駆られたユキだが、辛うじて堪えると立ち上がり笑顔を見せる。美少女のプライドは、揺るがない。

「心配してくれてありがとう、ケンイチ。大丈夫」
「そっか、よかった」

 紅一点男四人、本命一名有り。だが、何も進展しない。
 もっと、自分を気遣ってくれても良いではないか。何故、アサギという単語しか出てこないのか。
 当然だ”アサギは攫われている”のだから、皆が心配して当然だろう。現状を知らないのだ。
 けれども、ユキからそんな現実は消え去っていた。どうしてもアサギが無事であるとしか思えないユキにとって、アサギの心配は不要以外の何者でもない。心配するだけ無駄な気がした。
 負の感情は、いとも簡単に増大する。そしてそれは、簡単には消し去れないものだ。

 キィィィ、カトン。

 誰も、まさかユキがそのような闇を抱えていると思わなかった。大人しく控えめな努力家であり、アサギの心からの友人。最もアサギの身の上を案じている人物。先生からの評判も良い優等生だ、ただ、人の輪には自ら入る事はない。人見知りが激しい……傍から見ればそうなる。
 ユキも他人に言える筈がなかった、言える友達もいなかった。自分で作り上げた美少女像に、他人への悪意はあってはならないものである。だから、押し込めてきた。
 けれども、押し込められた悪意は肥大する。

「アサギ、エロゲーのヒロインみたいなことになってたらどうしよう」

 ぼそり、と吐き捨てたトモハルの台詞に皆が吹き出す。とりわけ、ミノルは赤面し右往左往だ。

「ななななななー!」
「いや、兄貴の部屋のゲームにさ。魔王が姫を攫って監禁して色々な内容のゲームがあってさ」
「お前それ、やったのかよ!?」
「やらないよ、部屋に入ったら箱が落ちてただけで。似てたんだ、あの姫にアサギが」

 それもそうだ、トモハルの兄が登場人物の姫がアサギに似ていたが為に購入したゲームなのだから。

「えっろ!」

 赤面しながらもこっそりと聞いているケンイチとダイキに、喚きたてるミノルと、平然としているトモハル。
 そして居辛いユキ。

「で、何だ? その攫った魔王はあのハイに似てるのか?」
「違うよ、魔王はプレイヤーなんだよ。自分好みの姫に育てるゲームなんだ」

 ちなみにトモハルの兄のプレイ記録だと、姫はメイド服着た淫乱従順M姫”アサギ”になっているがそんなこと誰も知らない。
 というか、どうでもいい。

「やたら詳しいなお前……。やってるだろ!? 姫の名前”アサギ”にしてないだろーな!?」
「してないよ、どうせやるならアサギじゃなくて”マ”」

 口にしてから「マ?」とトモハルは首を傾げた。自分で呟きかけたのだが、大きく首を捻った。今、喉まで名前が出かかっていたのだが。誰の名前を呼ぼうとしていたのか解らないのだ。

「ま? トモハルの好きな子、まがつくの? 初耳ー」

 興味津々で、ケンイチが乗り込む。てっきり、アサギだとばかり思っていたのだ。先程の会話よりこちらのほうが盛り上がれると安堵した面もある。

「んーっと。まり? まさみ? まき? え、誰?」

 同学年で”マ”がつく少女達の名を上げるケンイチに、苦笑いでトモハルは手を振る。

「違うよ、いないよ。アサギは可愛いと思うけど、他はどうでもいいんだ」

 どうでもいい、という単語にショックを受けたのはユキだ。アサギ以外、一括り。その中には当然、ユキ自身も入っているのだろう。酷い話である。自分の存在が、その場に居ないようで。ここに、共に居るのに。
 トモハルに悪気は全くないのだが、ユキは心底傷ついた。おまけに相手は密かに恋心を抱いていた相手である。

「ダイキは前からアサギが好きだよね」

 話題は変えず、自分から逸らすためにさらり、と言ったトモハルに今度はダイキがむせた。違う、と言えずに沈黙する。否定出来なかった、耳を真っ赤にしていれば肯定だと誰でも解る。
 そこをケンイチに追撃されて、逃げる羽目になった。

「見ていれば解るよ。話せると嬉しそうだから」

 といっても、トモハルが気づいたのはつい最近ではない。去年の運動会で気がついた。ミノルは自分の番が回って来ないか不安を覚えつつ、引き攣った笑いを浮かべる。
 ゲームの話へと、話題を戻すことにした。自分が上手く回避出来ないと悟ったからだ。

「で、そのゲームタイトルは? パソコン?」
「……ミノル、やりたいわけ? 魔王の名前をミノルにして、姫の名前をアサギにするつもり?」

 呆れ顔で肩を竦めて聴いてきたトモハルに、この話題に戻したほうが失敗だったと気づいた時には遅すぎる。耳まで一気に真っ赤にし、口元を押さえた。 
 図星だった。が、脳内大爆発を起こしたミノルは冗談で言ったつもりのトモハルに殴りかかる。
 が、怒りで逆上しているミノルの攻撃など、トモハルにあたるわけがない。

「お前が魔王って無理があるだろ、あははー。勇者でも無理があるのに」
「う、うるせーっ! 成人ゲーは小学生はプレイしちゃいけないんだーっ!」

 その通りである、十八歳にはまだ到底満たない。
 繰り出される単調なミノルの攻撃を軽やかに交わしながら、トモハルは笑い続ける。呆れて苦笑いしているケンイチとダイキを尻目に、ユキは一人舌打ちをした。

「ツマラナイ」

 話の中心がこの場に居ないアサギなのが、気に食わない。その話が終わらないのが、気に食わない。胸の中にどす黒い何かが溜まっていく、吐き出したいのに、吐き出せない。

「ミノルって、アサギのこと嫌いなんだろ?」

 左ストレートを繰り出し接近してきたミノルに、不意に真顔で告げたトモハル。その瞳が、妙に真剣で思わずミノルは言葉を飲み込んだ。動きが、止まる。
 皆、静かになった。波の音だけが、周囲に響く。
 ケンイチも、ダイキも、知っている。知らない人物など、あの学校に存在しなかった筈だ。 周知の事実だ”門脇実”は”田上浅葱”が大嫌い。

「でも、お前アサギの写真買ってたから」
「っ!」

 肩を上下に揺らしながら大きく息をするミノルの顔は真っ赤だったが、更に赤く染まる。茹でタコも真っ青になるほどの、赤だった。今にも火が上がりそうだ。ミノルは慌ててトモハルから離れると、一人全力疾走である。甲板を走り回る。

「逃げるなよ、ミノル! 俺知ってるんだからな、部屋にアサギの写真飾ってあるの!」

 トモハルの追い討ちだ、息を飲んでから絶叫するケンイチとダイキ。叫びたいのはこっちだと、ミノルは只管甲板を転がりまわる。

「う、うるせー! お前の錯覚だっ。どーして俺が写真を飾るんだよっ」
「でも、運動会とか修学旅行とか文化祭とかスキー研修の時、写真買ってたじゃないかー」

 反論してみたが、全く無効化である。遠く離れた為、大声で言い合う二人。
 静かな海上、冷やされた空気に声は反響する。これでは、船内の皆が何事かと駆けつけてきたとしても、無理はない。「そんなに写真を持っていたの」と、ケンイチとダイキはミノルを見つめる。妙に、口元を緩めて。
 甲板に倒れこんで恥ずかしさで転がるミノルだが、周囲からの視線から逃れたくても逃れられない。どのみち、トモハルとミノルでは信憑性があるのがトモハルだ。幾ら否定したところで、誰も信じてくれないだろう。
 そもそも、トモハルが言うことが真実なのだから仕方がない。

「ってか、どーしてこんな場所で言うんだよっ」
「隣の家じゃないか、それくらい知ってるよ……。というか、こんな時だから言うんだよ! アサギを救うのはお前だぞ、ミノル」

 急に剣を抜いて全力疾走し、ミノルに斬りかかるトモハル。ケンイチ達が息を飲むほど、渾身の一撃だった。俊敏に、今までの成果を試すように全力で斬りかかったことなど明白だ。
 間一髪剣を引き抜き辛うじて受け止めたミノルは、息を切らしてトモハルを見た。寝転がっていたミノルは、上からトモハルの力に耐えねばならない。緩むことなく剣で押してくるトモハルの瞳は、本気だった。手合わせというレベルではない、妙な気迫にミノルの背中から汗が吹き出る。

「え……?」
「お前が、アサギを救うんだ。散々苛めたろ、謝って自分の想いを伝えるんだ」
「よ、余計なお世話だよっ」

 ギリギリ、とトモハルが剣に力をこめる。歯を食いしばり懸命に受け止めているが、上のトモハルが無論有利だ。腕が痺れてくる、しかしトモハルは止めない。
 覚悟を決めろ、というトモハルなりの応援なのか。肩を竦めて笑うケンイチとダイキの傍らで、ユキが立ち尽くしていた。

「なによ、それ……。両想いじゃない」
「えええええええええええええええええええええ!」

 ダイキとケンイチの絶叫が、海を突き抜ける。船内から仲間達が、敵の襲来かと上がってきた。一部始終を見ていた名もなき船員が「青春だねぇ」と微笑ましく涙をすする。声に誘き寄せられ人間の気配を察知した魔物が、海から突如飛び出してきた。
 戦闘開始、大混乱だ。
 直様魔法で応戦したトモハルを唖然と見上げたミノルも、慌てて立ち上がると魔法の詠唱に入る。二人は並んで、同時に魔物に対して雷の魔法を放っていた。完璧なタイミングだ。照れくさそうに頭をかきながらも、剣を構えて魔物を撃退していく。
 ミノルはまだ、両想いだと知らされていなかった。
 けれどもトモハルと目が合うと、恥ずかしそうに唇を尖らせつつ。アサギの為に正々堂々と頑張れそうだと、少し、気が晴れた。今まで押し殺していたアサギへの感情を暴露されても、気分は悪くはなかった。
 問題は、ミノルではなく。
 ユキの心に。広がり始めた、黒い影。
 ユキは、大人しい性格も手伝って友達と呼べる人がいなかった。優等生で、美少女で、名は知られていたが友達が、いなかった。
 小学四年の四月、アサギと同じクラスになった。
 この小学校ならば誰でも知っている人物だ、眩しくて誰からも好かれて囲まれて。そんな彼女と、親友になった。転機だった、アサギといると誰しもが寄って来る。そんな時でも、アサギはユキを優先した。
 自分を無下にしないアサギにから、誰からも羨まれるポジションを得た。
 けれど。
 誇らしい一面で、広がっていく嫉妬心。アサギ、アサギ、アサギ、アサギ、アサギ……皆それしか言わない、アサギがいなければ誰もユキに近づいてこなかった。
 誰も。自分を。見ては。くれない。……誰も自分を見てはくれない。
 魔物を撃退し、未だに不貞腐れているミノルを冷やかすトモハルと、ケンイチ。ダイキは静かにそんな二人を見ている。失恋した現実を、ダイキなりに受け入れていた。もともと、憧れていた存在だから、まだ失恋が解らない。
 一人きり、ユキはその賑わう場所で一人きりだった。勝利で沸き合う甲板で、端にひっそりと闇夜に紛れる。

「ユキ、おいでよ。そんなとこにいないでさ」

 手を差し伸べてくれたのは、待ち望んでいたトモハルではなく、ケンイチだった。一緒に二人で数週間過ごしたこともあるし、気が知れた仲になりつつあった。
 ユキは、手を伸ばす。トモハルはアサギを好きではないと解った、だが、だからなんだ。
 アサギと、ミノルが両思いならば、自分も誰かと両思いになりたい。それが、アサギの傍で惨めにならずにいられる方法だと……ユキは思った。それしか、ないと考えた。アサギが救出されればミノルは告白するのだろう、そうなれば自分はそれを祝福しなくてはならない。

「……うん、ありがとう、ケンイチ」

 にっこりと、ユキは微笑む。控え目に口元に手をあてて、小首傾げて方を小さく竦める。ケンイチは、優しい。一番、気にかけてくれる。だから。

「ケンイチ、傍にいてくれてありがとう」
「え? うん」

 きょとん、としたケンイチに、一層ユキは微笑んだ。

 ……ケンイチにしよう、私の彼氏候補。優しいから大丈夫、アサギちゃんの仕草を真似して可愛らしく振舞えば大丈夫。

 キィィィィ、カトン……。
 何処かで、何かが廻った音がした。が、浮き足立っている皆は、気がつかなかった。

「トモハル!」
「何ミノル?」
「地球に帰ったら、お前の兄貴にそのゲーム借りてきてくれっ」
「……はぁ?」

 まだ、憶えていたのかコイツ。引き攣った顔を向けたトモハルだが、ミノルはお構いなしだ。

「べ、別に名前がミノルでアサギで、ご主人様の為なら何でもします的な姫に育てるつもりは……ない、ないからなっ! 本当だからなっ、た、ただちょっと前から遊んでみたかったってゆーか、俺はゲーマーだし」

 もう、トモハルは熱弁する幼馴染のミノルに絶句するしかなかった。

「いや、だから十八歳未満は遊んじゃいけないんだけど」


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