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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第12回   処女戦
 重苦しい雰囲気が、広がる。沈黙するアーサーに言葉をかけられる者もおらず、気まずい空気が一行を覆い尽くした。
 打破したのは、マダーニだ。

「確かに、そうなのよね。どうして勇者を捜しに行かなきゃいけないのかしら。勇者の器であるべき人物が、自ら現れても良いと思うのだけど」
「はい。捜しに行くだけで時間が消費されてしまいます。まぁ……今回は」

 マダーニの素直に出た台詞に、アーサーもようやく軽い笑みを浮かべた。皆、安堵の溜息を吐いて、強張っていた表情が柔らかくなる。
 アーサーは、アサギを見つめる。視線に気付き、アサギが顔を上げれば当然視線が交差した。

「アサギに出会えて、安堵しました。アサギは間違いなく大いなる力を秘めている。確かに今はまだ小さな小さな力です。しかし、アサギ自身は気づいていないでしょうが私には解ります。本来ならば神憑り的な能力を秘めています」
「え、そうですか?」
「はい。ですから、私はアサギに出逢い、希望を持ちました。さぁ、早く能力の開花を急ぎましょうか。必ず私が力になります」

 困惑気味に俯くアサギに、アーサーはひたすら優しく微笑み続ける。

 ……ただ単に自分好みの女の子だからじゃないのか、コイツ。

 と、数人が思ったのだがあえて誰も口にしなかった。
 苦笑いしつつも、確かにそろそろ魔法の練習を始めておいたほうが良さそうだ。
 マダーニは先程受け取った魔道書を、それぞれ勇者達に配る。重くはないが、緊張しつつそれを手にし勇者達は新しい教科書を与えられたかのように恐る恐るページを開く。

「ええと、サマルト君とムーンちゃん。あなた達の自己紹介は……」
「手短に話すと、オレの城以外はハンニバルも壊滅状態。ハイがこちらの惑星に来ているのなら、少しは時間稼ぎが出来るな。シーザー城王子・サマルトと」

 サマルトの発言が終わると同時に、隣にいたムーンが優雅に会釈する。

「ジャンヌ城王女・ムーンです、よろしくお願い致します。真空の魔法及び攻撃補助、回復魔法が得意です」

 二人は揃って頭を下げる、王子だろうが王女だろうが、この際関係ない。

「ムーンちゃんはかなりの魔法の達人っぽいわよね。さ、勇者ちゃん達に担当をつけるわね」

 魔道書を物珍しそうに眺めている勇者達を一瞥し、マダーニは師匠となるべく人物達に目を移した。把握できた魔法が扱える人物の人数と、勇者の人数。マダーニは直様、自分の考えをまとめ始めた。
 思案中のマダーニに元気良く、悪びれない声が発せられる。アリナだ。

「あー、マダーニ、マダーニ、ボク、アサギの組み手相手でヨロシク。主に寝技の」
「……ちょっと黙って」

 流石に頬をひくつかせ、マダーニはこめかみを押さえて低く呻いた。まとまっていた考えが、今の発言により若干乱れてしまった。 
 ちぇー、と、不貞腐れて腹いせにクラフトに殴りかかるアリナ。とばっちりを受けたクラフトは、非常に気の毒である。
 気を取り直し、咳を一つマダーニは皆の顔を見渡した。

「ミノルちゃんには、サマルト君」

 うげー、と、双方から声が上がり、一発触発お互い反発しあったまま隣同士になる。二人とも青筋立てながら、魔道書を開いた。気が合わないのは百も承知、だが、勤勉が苦手そうなミノルに、窮屈そうな魔法のエキスパートをつけても伸びないだろうという、とマダーニの判断である。鋭い視察だ、確かにミノルにブジャタやミシアがつこうものならば、混乱に陥りすぐに投げ出すだろう。

「ユキちゃんには、ムーンちゃん」

 よろしくね、よろしくお願いします、と穏やかな二人の挨拶である。ローペースの二人は、仲良く魔道書を開いた。ここは、問題なく進むだろう。最も相性の良い二人になれそうな気がするので、マダーニは問題視していない。

「ケンイチ君にはクラフトで」

 穏やかに微笑んで近寄ってきたクラフトに、緊張気味にケンイチはお辞儀をした。慌てふためきながら、ケンイチは魔道書を開く。素直そうなケンイチに、自己主張が苦手そうなクラフトならば、ここも上手く進むだろう。

「ダイキ君にミシアで」

 優しく微笑んで近寄ってきたミシアに、戸惑い気味にダイキは会釈をした。並んで魔道書を開いた、年上の美貌の女性に若干戸惑っているダイキだが、ここも問題はないだろう。

「トモハル君には、ブジャタかしらね」

 ブジャタが高齢の為、気を利かせてトモハルが移動した。丁寧にお辞儀を述べ、魔道書を開き、早速読みふける。ここも、非常に期待が高い。

「で、アサギちゃんが私ね。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」

 そして、アサギ。
 勇者の要であろうアサギの教育を、マダーニはしてみたかった。現時点での力量を、定めておきたかった。意気込んで魔道書を開いたアサギに、満足そうにゆっくりとマダーニは微笑む。
 アサギに教える前に、マダーニは手を叩いて注目を集め、意図を語る。

「現状では、勇者ちゃん達はあまりに無力。各自戦闘に入ったら担当の勇者を全力で護って。最悪身代わり。他の勇者の面倒はみないこと、責任持って自分の魔法を勇者に全部伝授する勢いで。良いよね、それで」

 マダーニの重い言葉に、それでも一行は頷く。”身代わり”……それに戦いてしまった、確かに勇者は守るべき存在だ、そんなことくらい漫画や小説で見てきている。しかし、まさか出会って間もない人々にそれを宣言されると自分の命が如何に重いのかを思い知らされた。固唾を飲む勇者達、言葉の重みは計り知れない。 
 同意を得て、マダーニは担当をつけなかったアリナとアーサー、ライアンに向き直った。

「そちらは馬車操作をよろしく。各自、どんな時も全力で」

 アーサーの英知は惜しいが、馬車操作に力を注いで貰いたかったのであえて外した。本人も肩を竦めるが納得した、賢者である自分の知識を何も知らない子供に教えるなど無理だと決め付けていたからだ。「アサギにならば、教えてもよかったのですけれどね」囁いたことは、皆にも聞こえていたが無視した。
 異界の地では、勇者達は魔法など使っていなかったと聞いた。
 だから、皆同じスタートラインだったのだ。 
 しかし、僅か一日で魔法を数種類覚えてしまったアサギ。
 両親共に有能な魔法使いならばともかくとして、そんな人間の話など、聞いたことがなかった。
 また、アサギは剣技のほうでも身軽に剣を使いこなしている。
 剣は腕に自信の有るライアンに全員の勇者が習ったのだが、明らかに秀でていた。
 アサギの次に剣が上達していたのはダイキである、聞けば”剣道”なるものを異界でやっていたとのこと。
 最初から構えが一人違っていたので、ライアンが思わず聞いたのだった。
 剣道など、無論ライアン達は知らない。
 真剣ではなく、竹刀でのスポーツであるが、きびきびとした動きにライアンは嬉しそうに微笑んだ。
 だが、アサギは。
 ライアンの指導をすんなりと柔軟に受け入れて、剣道の形に填まっているダイキ以上の成長を見せたのだ。
 吸収能力が人一倍高い、としかいい様子がない。
 三日目の朝になって、トモハルとダイキが電雷の初歩呪文を取得、ユキが初歩の回復呪文を取得、辛うじてミノルが電雷の初歩呪文を不安定だが習得した。
 ケンイチのみが、焦っているのか芽が出てこない。
 焦って、半泣きである。
 クラフトも自分の指導が間違っているのか、と自信を失くし始めアリナに蹴りを入れられる。
 そんな様子に、気まずそうにムーンが声をかけていた。

「あの、もしかして。私達の仲間、ロシアが、ケンイチに似ているのです。
 彼は武術の国の生まれで、魔法が使いこなせず、代わりに大剣を振るっていました。ひょっとして、ケンイチも剣に絶大な能力を持っているのかもしれません」

 ケンイチが勇者である惑星ハンニバルの、死んだロシアという名の王子。
 ムーンは軽く自嘲気味にそう語る、聞きながらサマルトも軽く頷いた。
 ロシアと同質ならば、魔法が使えない……ので、気に病むことはない、と言いたかったらしい。
 代わりに、剣を使いこなせばいいのだ、と。 
 それでも、ケンイチは懸命に覚えようと泣きながら頭に叩き込む。やはり、一人だけ魔法が使えないという劣等感に焦りを感じずにはいられない。
 泣き出したいのを堪えながら、震える手でケンイチは魔道書を眺め続ける。

「っ!? みんな、武器を手に取れっ」

 三日目、夕刻。急に大声を出すライアンに、馬車の中のメンバーは硬直した。
 その声色から何かしら敵に遭遇したように思えるのだが「まさか」と口元から言葉が漏れた。神聖城クリストヴァルから洞窟までの道のりは、結界が張られているはずなのだ。
 故に、魔物には襲われない。
 だから、こうして勇者達に十分の魔法の知識と剣の扱いを教え、洞窟を抜けた後に実戦に入ろうとしていたのである。
 計算が、狂った。
 舌打ちするマダーニと、顔色を変えるブジャタ。アリナは愉快そうにポキポキと首を鳴らしている。

「全力で叩き潰す、勇者は馬車から極力出るなっ!」

 ライアンの姿が消える。先陣切って、敵に攻撃を加えるべく馬車を降りた。
 代わりにアーサーが手綱を握っている、が、馬上からアーサーも己の杖を掲げて参戦だ。率先してマダーニ、アリナ、サマルト、ムーンが馬車から飛び出して行く。
 慌ててトモハルが伝説の剣を手にした、しかし手が震えて上手く握れない。
 残った者達は、そっと隙間から様子を伺った。
 万が一に備え、飛び出したいのを堪えてミシアとクラフト、ブジャタが勇者の警護に当たっている。三人共後方支援が得意な者達だ、馬車からでも十分応戦が出来るだろう。

「で、でかいカラス!」

 隙間から見えた敵を、ミノルはそう表現した。隣でクラフトが詠唱を始めつつ告げる。

「違います、レイブンといいます。体長約二メートル、地獄の使い魔と呼ばれる見ての通り飛行タイプの肉食魔物です。鋭い爪は一掻きで肉をもぎ取ります」
「…………」

 淡々とした敵の説明に、唖然とミノルはクラフトを見上げた。

「馬車に簡易な防御壁を張りました、数回の攻撃ならこれで凌げます。あとは早急に一掃してきますね」

 言うなり、軽くミシアとブジャタに微笑んでクラフトは馬車を降りていった。ミシアは頭を下げて怯えているユキの頭部を優しく撫でる。
 残された勇者達は、呆然と座り込んでいる。覗き見をしたが、とても今出て行ける状態ではなかった。まだこの世界へ来て三日目、そうだ、戦えなくて当然だ。

 ……それでいいのか、勇者なのに。
 ……それでいいんだよ、死んだら元も子もないのだから。

 皆がそう思い始めた、地球の日本に魔物は存在しない。山中で熊やら猪やらに遭遇したとしても、戦えない。銃があれば、戦えるかもしれないが。だがそれでも無理なものは無理である。 大人しくしていよう、仲間達は強いから暫くはここにいよう。
 勇者達は、口にせずとも馬車で縮こまって大人しくしていた。外から聞こえる金属音や奇怪な泣き声に身体を震わせて、耳を塞いだ。 
 不意にアサギが意を決したように剣を手に取った、その様子を見つめていたトモハルも頷いて立ち上がる。

「行こう、アサギ。大丈夫だ」
「うん。私、行く」

 皆、絶句して二人を見上げる。他の勇者が止めるのも聞かずに、アサギとトモハルは馬車から飛び出す。

「ミシア殿、二人の援護を! 魔法の用意は良いですかな!?」
「お任せください、ブジャタさん」

 飛び出した勇者二人を追うことなく、馬車からミシアとブジャタは呪文の詠唱に入る。長距離になるが、先に勇者に近づく敵を排除するつもりだった。
 駆け出した二人の勇者は、死骸が散乱する道を顔を顰めながら進む。
 状況は無論こちらが優勢だが、まだ数羽空中にレイブンが漂っていた。
 アサギは剣を空に掲げ、魔法の詠唱に入る。アサギと背を合わせ、トモハルも詠唱に入った。
 瞬間、その場に居た者全員が二人の勇者を目にした。クレオの勇者、男女で対の勇者。

「天より来たれ、我の手中に」
「その裁きの雷で、我の敵を貫きたまえ」

 憶えたての魔法を同時に詠唱し、二人は互いの前方に居たレイブン目掛けて魔法を同時に放つ。声が揃う、二つの雷がレイブン目掛けて天から一直線に落下した。


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