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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第10回   勇者の疑問
 お辞儀をして、明るい笑顔を浮かべる。爽やかで好感が持てる、子供らしい素直な挨拶だった。一行は拍手をし、堂々とした姿に満足そうに頷く。

 ……勇者の要で間違いないわよね、この子が。

 マダーニは拍手をしながら、鋭い瞳でアサギを見つめる。反応が他の勇者に比べて適切で速い、肝が据わっているし状況把握も完璧なようだった。
 知りたいのは現時点での戦闘能力である、それによって教える科目が異なる為だ。しかし、それは阻まれた。

「歳は?」

 アリナが口を開き、にっこりとアサギに微笑む。

「えっと、今十一歳です。来年の一月十一日で十二歳になります」
「若いなーっ、ボク、アリナ。君みたいな可愛い子と旅が出来てうれしーよ。ボクが全力で護るから、よろしくね。マダーニ、この子にはボクが専属でつくよ」

 四つんばいで馬車を移動し、アサギの目の前へ行くと頭を撫でた。
 それはもう、過剰に。 
 困ったような顔でアサギは大人しく撫でられている、確かにどう対応してよいやらわからない。

「あは、近くで見たほうがボク好みで可愛いやー」

 と嬉しそうに呟きながら、アリナはアサギの頭部から腕に脚、太腿を触り始めた。流石にアサギも身じろぎするしかない。

「……あのさ、アリナ。あんまり大事な勇者ちゃんに手を出さないでね?」
「だいじょーぶだよん。女同士の絆を深める大事な大事な愛撫だから」
「あ、愛撫!」

 マダーニに腕を引っ張られ、アリナは不服そうに唸りながらも、アサギに流し目しつつ片目を瞑った。乾いた笑い声を出し、手を振ってみるアサギ。

「気をつけて、アサギちゃん。アリナのストライクゾーンみたいだから」
「えーと、どう気をつければ」
「決して一人にならないで。……喰われるわよ」
「!? 喰われてしまいますかっ」

 喰われる、の意味をアサギはイマイチ把握していないが、良くないことは感じ取ったので身体を震わせた。
 悪びれた様子もなく、アサギを視姦しにこやかに手を振るアリナ。
 彼女、同性愛者である。

「こほん……さ、自己紹介を再開しましょ。お次は?」
「あ、じゃあ俺が。俺は朋玄。アサギと同じで惑星クレオの勇者らしいです。現在十一歳。預かった大事なこの剣に相応しい勇者になろうと思います」
「トモハル君、ね。了解。ところで、勇者ちゃん達は全員顔見知りなわけ?」
「あ、そうです。友達です」

 先頭で馬車を操作していたライアンが何か叫んでいたので、サマルトが代わりに言葉を挟んだ。

「ライアンさんが、トモハルの剣の名前が”セントガーディアン”っていうって叫んでるけど」

 セントガーディアン……判明した名を誇らしげに呟きトモハルは徐に剣を取り出すと、そっと引き抜いて輝きを見つめた。
 そういえば名前は神聖城で聞いていなかった、ようやく自身の武器の名が発覚し、興奮度が増す。

「アサギの武器の名前は何だろうな? 俺と対だし、似た名前の武器かもね」
「そうだね、楽しみだね!」

 アサギとトモハルは二人でにこやかに笑い合う、生徒会でも一緒で気が知れた仲だった。面白くなさそうに、実一人が舌打ちする。
 サマルトが再びライアンからの伝言を聞いたようで、話に割って入った。

「そのトモハルの所持している”セントガーディアン”は、護るべき者が増えれば増えるほど、力を増していくという剣だと言い伝えられているらしい。惑星クレオの勇者のみが扱うことの出来る所謂”神器”で、他にも特殊効果があるらしい。属性は光、慣れてくると呪文発動の糧にもなるそうだ……え? 何? ……この程度しか解ってないって。後は使っていくうちに、トモハル自身がその剣の価値を見出すしかないようだな」
「ライアンさん、詳しいなぁ」

 ぼそり、と呟いたトモハルの独り言に、ライアンが大声で叫んだ。この言葉はサマルトを介さなくても、皆に届いた。

「オレは一応元騎士なんだ、趣味でそういった武器の事を調べた時期もあったんだよ」

 元、というところが気になったが、あえて皆口には出さなかった。
 マダーニが視線を移す、次は。

「私は友紀といいます。アサギちゃんとは親友です。惑星ネロ? の勇者みたいです、よ、宜しくお願いします」

 周囲に聞こえないような小さな声で、顔を赤らめながらアサギの服にしがみ付き、そう友紀は告げる。
 勇者というよりは、囚われの姫役のほうが似合っている気もするのだが、石に選ばれたのだし彼女にも秘めたる力があるに違いない……と、皆が思い込むしかなかった。震えている友紀に、不安を覚える一行である。

「ユキちゃん、ね。了解。じゃあ次は同じネロの勇者ちゃん、よろしくね」

 マダーニが実に視線を移したので、全員そちらを見つめた。勇者の中で一人だけ雰囲気が違うので、皆も気になっていた。不機嫌そうに、腕を組みながら暫しの沈黙後語り出す。

「実……よろしく」

 それだけであった、シンプルな自己紹介である。実にしてみたら、言うことが特になかっただけだ。しかし笑顔を見せるどころか視線を誰とも合わせず、下を向いたままの横柄な態度に特にアーサーが嫌悪感を抱く。不穏な空気を読み取り、慌ててトモハルがフォローに入った。

「俺の幼馴染で、ええと、口が悪いんだ。態度も悪いけれど、強がりだけは一人前で」
「うるせぇっ!」
「えー、ホントのことだろ」
「お前はイチイチ、口を出すなっ」

 馬車の中で片膝立て言い争う二人を見つつ、解ったことは”この二人の仲が悪い”ということだ。
 仲が悪いのか、反して仲が良いのか。一緒に勉強させないほうが良いのか、それとも刺激させるために敢えて一緒に勉強させるべきか……マダーニは眉間にしわを寄せる。
 言い争う二人を尻目に、淡々と語りだしたのは大樹である。聞くに堪えなかったので、自己紹介の流れに戻すことにしたのである。気を利かせたつもりだった。

「チュザーレ? ……の、勇者らしい大樹です。どうぞよろしく」

 困惑気味にそれでも落ち着きながら語った、大樹。

「よろしくね、ダイキ君。君が一番大人びてる感じね。……みんなと同い年よね?」
「あ、はい。歳は一緒ですね。まぁ、良く大人っぽいとは言われます。そう言われるのが苦手ですけど」

 身体つきもだが、口調が浮ついた感じがしない為、他の勇者よりもニ、三歳ほど年上に見えた。

「最後は僕かな。健一です、よろしく。惑星ハンニバルの勇者です」

 ダイキの影から顔を出して、にっこり笑う健一に、人懐っこそうな印象を皆は受けた。

「はい、よろしくケンイチ君。君はなんだかすばしっこそうだわ」
「うん、足なら自信があるよ。サッカー部だから」
「……さっかー?」
「あ、そうか、この世界にはサッカーないんだ」

 ケンイチは困ってトモハルに助けを求めた、トモハルとミノルもサッカー部である。サッカーを知らない日本人などいないだろう、説明文が思いつかなかった。

「えーっと、二つのチームに分かれて、ボールを蹴りあいながら敵のゴールまで運ぶゲーム……みたいな感じ? ボールっていうのは、丸くてはねるやつね」

 急に振られたものの『サッカーの説明』などしたことがなかったので、トモハルは首を捻りながらなんとか口にする。大体ルールがわかっているならば詳細を話せたが、無知の状態で教えることは困難だ。
 まず、ボールの説明が最大の難関であった。勇者達が口々に身振り手振りで話し出すが、苦笑いしつつ、マダーニがそれを制する。

「そのうち、実演してみてちょーだい。さ、勇者ちゃん達の自己紹介は終わりね。軽くまとめるわよ? 勇者ちゃんたちは、みんなお友達。お友達ならば助け合い、励ましあいながらこれから頑張っていけるわよね。
 ネロの勇者が二人で、ミノルちゃんと、ユキちゃん。
 ハンニバルの勇者が、ケンイチ君。
 チュザーレの勇者が、ダイキ君。
 クレオの勇者が二人で、アサギちゃんと、トモハル君。
 さぁ、何か質問のある人いるかしら?」

 見渡しながらマダーニが全員の顔を探るように、瞳を光らせる。暫しの沈黙の後、控えめにアサギが手を上げた。

「ひとつ、気になっていたのですが……」

 表情が曇り、困惑気味にマダーニを見つめる。マダーニは優しく頷いた、質問が上がるということは、話を真剣に聞いて理解した証拠でもある。
 質問してくるのならこの子だろうな、と思っていたのでマダーニは大して驚かなかった。

「どうぞ、アサギちゃん」
「あの……ネロの人はいないんですよね、ここに」

 誰しもが一瞬は思った事だった。

「ネロの人は来ていないのに、何故石が存在して勇者が二人もいるんですか?」
「ソレを言うなら、どうしてケンイチとダイキは一人なのか、も気になるな」
「うん、私もそう思ったの。やっぱりトモハルとは気が合うね」


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