女性とは、環境により、背徳を道徳として肯定する事が出来る者である、という内容について表現されていると考える。
「盲」という言葉の意味とは、視力が無い、見分けが付かない、対象以外の物が見えない、等の、人の状態とされる。「ここでいう盲とは、目の見えないことを意味するのでなくともいい」という表現により、「視力が無い」以外の意味を指すものとして捉える事が出来る、として述べる。 「彼」「妻」と表記される理由とは、両者が不倫関係に在る為である。「彼は妻を荒々しく長椅子に座らせた」の「彼」の行為には「妻」を労わる気遣い等は感じられない為に、「彼」が「妻」の夫ではない事の形容が窺われて、又、「夫」という表現が無い為に、その様に考える。両者が、背徳とされる「不倫行為」をする期間は道徳に背く事に成る為に、その期間に於いて、両者は道徳に対して「盲」の状態であると成る。「家から長い事出なかった」という「妻」の台詞とは、「彼」と会う時には、外に出る、という作品に於ける状況から、「盲」に成る以前の「妻」の状態が窺われて、「自分の体のように親しいものよ」「目明きには死んだ家に、盲の血は通うものよ」等の「妻」の台詞とは、上記の様な背徳行為(不倫行為)をする以前の、自分の「道徳を守る状態」を惜しく思う為の、「妻」の思い出に対する反省とする表現である。
「親しい」とは「馴染み深い」という意味であり、上記により、不倫をせずに家に居たその時間が長かった為に、その「道徳を守る事が出来た家」に対して馴染んでいた、という意味として考える事が出来、「目明き」とは、「盲」と成った「妻」が思い出して語る台詞である為に、「妻」が「盲」の状態ではない過去の自分について「盲」と語る情景が窺われて、「盲」の逆の意味として表現された言葉である、と捉えた上で、「背徳行為をする者」という意味として考える。「家の柱にぶっつかったり、敷居につまずいたり」という形容は、自分がそれまで居た家とは違う、別の環境へ行く為に、「勝手が解らない」不慣れにより、障害物が増える、という例えであるとする。
「彼は妻の手を離して白塗りの木戸を開いた」という動作の後で、何も「彼」から情報を教えられないままに「まあ、ずいぶん木の茂った暗い庭らしいわ。これから冬は冷たいわね」と言う「妻」の台詞の内容を考慮すれば、「暗い」という明暗の感覚が解っている事、光景を観察した為であると思われる感想を言う事、等を理由として、「妻は視力が在る」という事実が考えられる訳であり、「妻は視力が無い為の盲目ではない」と成り、上記の「見分けが付かない」「対象の物以外の物が見えなくなる」という状態に「妻」は在る、とする事が出来るように考える。暗い庭を見終わった後で、「新しい家」の扉を開けた際の、「すてきだ。とても明るい。 庭が夜なら中は昼だ。」という「彼」の台詞とは、「彼」にとって「妻」とは、不倫関係として在る、その立場上、恋人の感覚で認識出来る存在と成り、その「妻」と「新しい家」として在る「一つの空間」に入る事は嬉しい事である、と考えられる為に、「すてきだ。とても明るい。」という「彼」の気持ちを考慮した上で、その嬉しい事が在る部屋の中を「明るい昼」、その反対の意味を込めて、楽しい事が無いと感じられた外を「夜」と、表現したものであると考える。
「すっかり揃っているよ。それごらん…」「おい、ピアノまであるぜ」という「彼」の台詞から、「彼」自身のその部屋の装飾に対する驚きと、未知のピアノが在った、等という事から、「彼」自身は、その部屋の装飾には関わっていない事が窺われて、この「部屋」がその様にして在る理由とは、他人に作って貰い、既存の物であった為であるとする事が出来る様に思う。 「荒い布に包まれた藁布団」と表現される意味として、「装飾燈」等の高級品とは不釣り合いな物である、とする事が出来、「柔らかいバネ」という表現により、それはベッドである事が想像出来、それ等の内容を考慮すれば、そのベッドは頻繁に使用される為に故障する事があり、取り換えが安くて済むように、安物を使用していると考えられて、ベッドを頻繁に使用する場所として考えた際に、その「新しい家」とはホテルである事が考えられる。 「妻は勝手の分らぬ家の中を目明きの娘ように健やかに歩いて」とは、「妻」が新しい環境に慣れた事を意味して、「楽しく体を踊らせていた」「こんなところが沢山あればいいわね」という状況、台詞、に於ける「妻」の心境には、「楽しむ様子」が在るとして、道徳を守る「古い家に馴染んでいた妻」は背徳を行う「新しい家」に於いても馴染む事が出来ており、「彼」と不倫を楽しむという環境により、背徳を道徳として肯定する、本来の道徳に対して「盲」の性質を持つ者として、表現されているとする。
川端康成『掌の小説』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%8C%E3%81%AE%E5%B0%8F%E8%AA%AC http://books.rakuten.co.jp/rb/11765940/
|
|