20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:東大試験 作者:桃色吐息

最終回   1
 早稲田の入試を受けていた時のように、俺は、東京の大学の、どこか借り切った一室にて、試験を受けていた。横に長く机と椅子が広がり、俺は、その左端の方で座って受けている。前には50歳くらいのオヤジが座っていた。俺の右横には若い(現役の)学生。その右隣からはその学生に見合って、ずっと若い現役生が続いていた。
 問題用紙がなく、解答用紙はあった。いつ配られたのかはっきりしない。しかしそんな事問題ではない。何を解答すべきか少し焦りながら辺りを見回すと、前のオヤジが、数学か物理かの等式(数式)を書き込んでいるのが見えた。
 2b(筆記体のb)+3c−(11d+5p・2t/12m=2a(6g・log2−u/r33))
等と訳の分からない、これまで見て来た理系のちんぷんかんぷんの数式を、オヤジがよく見せる調子で、ゆっくりと、ずっしり、背筋をまっすぐにして、口をへのじに曲げながらも、淡々とそうした数式を続けて書いてゆく。俺は、何を書き込んでいいやらわからなかったから、暫くぶらぶら辺りを見回したり、もう帰ろうか(教室を出ようか)としていた所で、白紙の自分の解答用紙を見ながらそのオヤジの解答用紙を見つめる事になる。くそっ、これじゃヤバくなる…!そう思いながらも、問題がないのだ。どこにあるのか探していたら、前方のホワイトボードに問題が書かれてあるのに気がついた。2題、用意されていた。よくよく考えれば、こんな大学入試(のような試験)で、あらかじめ問題用紙を用意せず、手書きでその日に書いて示すのも珍しい、等、思っていた。成る程、まったくもっ て理系の問題だ。理解に苦しむ。上と下とに、少し詰めた間隔で問題は書かれてあった。周りは皆、理系の奴らだったのか…。そう思いながらも俺の心は焦っている。時間は随分過ぎていたのだ。前のオヤジはもうほとんど出来ている。右横の奴らも出来かけて来ている。右隣の奴は書き上がったのか、出来上がった解答用紙を伏せて置き、なにやら教室内でがやがや喋り出している。前のオヤジも東京の理系オヤジの様で、冷たい態度を日常生活に組み込む様子を俺に垣間見せながら、書き終えたのか、奴らと一緒に騒いでいる。まったくまいったものだ。俺と、遠くに離れた何人かだけが、まだ、机に向かってものを書き続けている。
 試験官がいないのだ。これは後でそうなったのか知らないが、とにかくあとに気付いた。俺の左隣に、試験官は、なにか採点か別の仕事をしながら居なきゃならない様だった。途中から試験官が恐らく現れ始める。何か書きながら、試験官は、俺の左隣から“書き上った皆”に、何か言っている。注意ではない。まるで塾の様だった。出来る奴と出来ない奴とに分けて、要らぬことばかりをしているあの塾に。
 仕方がないので、俺はそれから、めちゃめちゃな解答を用紙へ書き込んでいった。何かそれまで、俺はその解答用紙に、落書きか、文系で見られる様な、文字の羅列を書いていた様だ。でたらめの式である。しかし、これまでに早稲田の試験で見てきた様な、何か書かねば、決して諦めるな、どんな不利な態勢からでも出来る限りの挽回をするのだ、そんな事を言い聞かせながら、俺は書いた。夢の中でも、この「自分」と同じだったから、嬉しかった。よかったと思った。
 オヤジが俺の解答を、立ちながらにして覗き込みそうだった。俺は体勢を変え、誰にも見えない様にして変な、下手な、解答・数式を書き続けていった。
 そうして試験が終了した。「それじゃ……」、試験官が言った。それが合図のようで、解答用紙は集められて行きそうだ。俺はまだ書いている。とにかく最後まで書き終えたい!と躍起になった。途中から、解答用紙の上に、模範解答のようなものが、うっすら、見え出した。薄(うす)うい、オレンジ色っぽい字にて、用紙の上に答を見せてくれる。俺はそれをなぞるだけでいいのだ。しかし、いかんせん、もう時間がない。試験は終了したのだ。もう、書いてはいけない。俺は それでも、他人の目を盗んで書いていた。

 終了。

 さて、結果の行方は…。

 (そこで目がさめた)


■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 345