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作品名:見えない未来に待つものは。 作者:伊右衛門

第8回   8
翌朝、由奈は病室で目を覚ました。手短に身なりを整えると、
時刻を知らせる鐘が国中に鳴り響き、看護婦が食事を運んできた。
食べながらボーっとする頭で今日って何かあったかなと昨日の記憶を掘り起こす。

「居住地の方ですが、こちらは明日担当者の紗英が担当させていただきますので。」

ああ、そんなことを言われた気がする、てかこれ美味しい・・・今度作り方教えてもらおう・・・。
などと由奈が回らない頭で色々考えごっちゃになっているところに、ある人物がやってきた。
ピッ…[ニンショウカンリョウ]シュイーッ
由奈はこんな早朝から誰だろうと驚き、食事を中断しベッドに腰を掛け出迎える。
きっと穣さんか穣さんの上司の方だと思っていた。

しかし、そこに立っていたのは私の知らない人物だった。とても中性的な顔で性別が分からない。
「おはようございます、朝早くから失礼いたします、私は住居担当の紗英さまの部下の成と申します。
本日は由奈様の住所探しというご予定になっておりますがお間違い方ありませんでしょうか?」
初々しい成の必死で真面目な姿に、由奈は親近感を覚えつい笑ってしまった。
年のころは16、7歳ぐらいだろうか、とってもこちらを見つめている。
「ふふ、はい!大丈夫ですよ!成・・・(ちゃんかな?君かな?間違えたら失礼だよねどうしよう。)」
「あ、私女です!あの、もしよければお友達になっていただけませんか?」
由奈は友達という言葉に思わず嬉しくなって成の手を握った。
「女性の方でしたか!え・・・私なんかが友達でもいいの?」
「もちろんです、友達になっていただけるんですか!?」
成も由奈の手を握って喜ぶ。
「もちろん!じゃー・・・成ちゃん、ってそう呼んでもいいかな?」
「もちろんです!よろしくお願いいたしま・・・・!」

プルルルルルル・・・プルルルルルル・・・
成のポケットから携帯と思わしきものが鳴り響く。
その音を聴いた瞬間、成は一瞬で青ざめる。
「成ちゃん?どうかしたの?」
プツッという音と共に切れたかと思いきや・・・
「なーーーーーーーーりーーーーーーーーー!!!貴様何をもたもたやっとるかーーーーー!!!」
部屋の空気が凍り付く。
「な・・・・なにごと・・・・?」
由奈が困惑していると、成は涙を浮かばせながら静かに言う。
「えーー・・・本日由奈様の住居担当責任者であり、私の上司の紗英様です・・・。」
延々怒号が響き続ける。
「さっさと来んかあああああああああこの、たわけがあああああああああああああ!!」

「成ちゃん、早く行こう!なんかいろいろ大変なことになりそう!!」
「ええ・・・行きましょうか・・・。」
由奈と成はすぐに病室を飛び出て紗英の元へ向かった。

10分ほど走って2人は紗英の元へと辿り着いた。
「遅い、時間は限られているんだぞ?分かっているのか?」
「申し訳ございません、つい話し込んでしまいまして・・・。」
「はぁ、まあいい、以後気をつけろ。それより、何かいいことでもあったのか?にやけおって。」
「いえ、そのようなことは何も・・・。」
「そうか、ならいいが。」
ここで紗英が急に由奈の顔を見る。
「君が橘由奈君か、私は紗英という。君の住居担当の責任者だ、よろしく頼む。」
由奈は先ほどの怒鳴り声で一気に震え上がっている。怒られたくないという思いで必死に声を出した。
「よよよ・・・よろしくお願いいたします!!!!!」
由奈の震え声とあまりのビビりように紗英は何かを察した。
「なぁ、成?もしかしてさっき怒鳴った時・・・近くにこの子も・・・いた・・・?」
「ええ、まぁ、はい。」
しゃがみこんで紗英は頭を抱えた。
「そうか、由奈さん、お見苦しいところを見せてしまって申し訳ない・・・。とりあえず、君の住居は決めてあるんだ。」
紗英はそういうと、住居へ由奈を案内した。

ー場所は幸せの国、中心部の住宅街ー
辿り着いた家は2階建ての大きな家だった。
「ここだ、どうだい?この家じゃ不満かい?なら明日にでももっと大きな家を紹介するが・・・。」
紗英の言葉に由奈は首をブンブン横に振る。
「いやいやいやいやいやいや・・・・何をおっしゃっているんですか、大きすぎですよ!!」
「満足していただけたのかい?たった今からここは君の家になるが・・・?」
「満足ですよ・・・本当にいただけるんですか?」
「無論だ。では、今この時よりこの住居は橘由奈の住居となる!!」
ぱちぱちぱちと横で成が笑顔で拍手している。
こうして、由奈の住居は無事に決まった。
「君はこの国の裏に飲み込まれるなよ?いつまでも表で生き続けてくれ。」
「え?それってどういう・・・?」
由奈がそう聞くと、紗英は黙って幸せの国の一点を見つめていた。
「(あそこになにかあるのかな・・・?)」

今日は由奈にこの世界で成ちゃんという初めての友達ができる素晴らしい日になった。

次回「台風の目」



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