ああ、パンフレットで見た通りの姿だ、なんて美しい国なんだろう! 花々は神々しく咲き乱れ、美しい音色の鐘が鳴り、人々は笑う。 ここは街の中だろうか?様々なお店や住宅がカラフルに立ち並んでいた。
「すごーい・・・綺麗、まるでおとぎ・・話の中・・みたいな街並みね・・あ、れ・・?」 急に夜になった?いや、違うこれヤバ・・・私もしかして倒れ・・・る・・・?
ドサッ
由奈は激しく地面に叩き付けられるように倒れた。 街を歩いていた人々からの悲鳴が周囲にこだまする。 「あ、由奈さん!大丈夫ですか!?由奈さん!!」 「由奈様!由奈様!!」
遠くで穣と偉い人の声がした・・・でも、もう聞こえない・・・。 由奈の意識は、そこで途切れた。
3時間が経った頃、見知らぬ天井がそこにあった。 「あ、あれ?ここどこだっけ・・・?」 由奈は焦ってガバッと起き上がった。 知らない部屋・・・?いや、違うこの建物自体知らない。 それにこの部屋、まるで病室のようだ。
ピッ…[ニンショウカンリョウ]シュイーッ 突如部屋のドアが開いた。 「由奈さん、お目覚めですか?体調の方は、いかがです?」 部屋にやってきたのは穣の上司だった。 「体調・・・?あ、思い出した!私倒れたんだ、それでここに・・・。」 しばらく戸惑った顔を見せた由奈であったが、すぐに謝罪した。 「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした・・・まさか倒れるなんて・・・。」
上役の男は由奈のベッドに失礼しますと声をかけ、座った。 「どうやら、力を使いすぎたようですね、言ってみればただのオーバーヒートですよ。 それで、完全に全力を使い果たした今はどんなお気持ちでいらっしゃいますか?」 にこやかに聞く上役の男に由奈は申し訳なさそうに答えた。 「倒れてご迷惑おかけしておきながら申し訳ないのですが、とっても気持ちいいです!」 「ハハハ、それはよかった、無事に運命の扉を開けて何よりです。さて、このような状況ではありますが、 ここから先の人生は貴女だけのもの、どうぞご自由に生きて、本当のご自身を探してください。 未来を変えるのも壊すのも出来るのは貴女だけ、貴女があなたの人生の主役です。たった一つの命、 どうせ生きるなら精一杯全力で生きて幸せを掴んで下さい。おや、年を取ると説教臭くなって敵いませんな!はっはっは!」 由奈も思わず笑った。 「ふふふっ、いえ、人生のご教授とご鞭撻ありがとうございます。勉強になりました!」
「さて、時に由奈さん、今日はここで一晩の入院となりますので、勉強はこちらで行いましょう。 そんなに長くないですし、手短に済ませますのでご体調の方はよろしいでしょうか? 居住地の方ですが、こちらは明日担当者の紗英が担当させていただきますので。」 由奈は小さく笑顔で頷いた。 「それでは、ますこれを・・・。」 上役の男は鞄から4つ折りにされた大きな紙を取り出すと、病室の壁に貼った。 「えー・・・これはシェイラの世界地図です。」 紙には大きな大陸が一つ描かれているだけで、他の大陸は見当たらなかった。 「大陸は一つだけなんですか・・・?」 「ええ、その通りで。と、言いましてもこの国だけではなく大陸には5つの国が存在していますが。」 「5つの国・・・どの国も平和なんですか?」 その問いに、上役の男は一瞬眉をひそめるも、すぐに笑顔に戻った。 「もちろん、平和でございます、由奈さんにはどの国で暮らしていただいても問題ありません。 シェイラにはパスポートなどは必要がありませんから、いずれ遊びに行ってみてはいかがでしょう? で、貴女に教えなくてはならない事柄ですが、ここにこの国の法が全て書いてあります。 こちらをよくお読みになって生活をしてください、もし破ってしまった場合は・・・ ま、まぁ今はその説明はよいでしょう。是非、ルールを守り、楽しく過ごしてくださいね! さて、勉強はこの辺にしておきましょう、今日はこのままこちらでお過ごしください! それでは、私はこれで失礼いたします、紗英の方にはよろしくお伝えください、では!!」
「あ、ちょっと・・・。」 ピーッ、[タイシツカクニンカンリョウ] ガチャガチャ 部屋の鍵は閉まり、呼び止める暇もないまま出て行ってしまった。 「さっき勉強するって言われたけど全然勉強してないし、やけに早く終わった。 あの偉い人私に何か言おうとして言わなかった、もしかして何か隠してる・・・?」
病院一階喫煙所 「譲か、すまない、失敗した。やはりあの娘には荷が重すぎるのではないか?」 「何を今更・・・由奈様に賭けるしか我々に方法はもう・・・!」 「分かっている、しかし・・」上役が何かを言いかけるとブブブッと大きなノイズが入る。 「まずい、電波妨害だ。いったん切るぞ。」 「はい。」
「参った・・・あんな娘にどうにかなるのか・・・?」
次回「表と裏」
|
|