あれから2日が経ち、私は延々と考え続けた。 封筒には選択書の他に、シェイラという星のパンフレット及び、 シェイラ移住への注意事項が記載された紙が同封されていた。 注意はこのように書かれている。 -------------------------------------------------------------------------------- 注意:シェイラに移住を決めた場合、移住後二度と地球には戻れません。 選択書を記入後同日24時から翌日24時まで準備時間を設けます。 その間に準備とやり残したことを全てやりきってください。 ただし、条件として我が星シェイラの名を口に出すことは厳禁ですのでご注意を。 万一この警告文を読み落とす、故意になどシェイラの名を口に出した場合、 その瞬間シェイラへの強制連行の後、厳罰が待っていますので悪しからず。 シェイラへの移住をしないと判断された方はこちらをお読みください。 この度はあなた様のご期待に添えずとても残念です。 今回ご縁がなかった貴方様には、大変失礼ながらもこちらから人員を派遣した後、 シェイラについての記憶をすべて消させていただきますのでご了承を。 人体には一切の影響はありませんし、処理の時間もわずか数分ですから、 どうか受けていただきますようよろしくお願い申し上げます。 万一、受けたくないなどの理由で逃亡なさった場合などは、 命の保証はしかねますのでご注意のほどお願いいたします。 -------------------------------------------------------------------------------- 私はどうしたいのだろう、こればかりが頭の中でぐるぐる回り続ける。 選択書と注意文を前に、由奈は延々頭を抱え続けている。
この星も家族も何もかも捨てていくのが怖くてたまらない、 帰省することもできないなんてそんなの嫌だ。 行ったらもう家族にも一生会えなくなるんだ。
ペンが「いいえ」に丸を付けようとする。 しかし、由奈は丸を付けることができなかった。
あの星に行っても私は幸せになれるのかも知れない。 だってこんな美しい星で私だけの人生を歩けるというのなら行ってみたい。 自分を変えるためにはこれも選択の一つだ。 新天地で私にどこまで出来るのか試してみたい。
徐々に頭が混乱してくる。 誰か答えを教えてくれませんか? 神にもすがる思いで答えを求める、しかし答えなど返っては来ない。
人生において答えなんてものはない。自分が信じた道を背筋を伸ばしてただひたすらまっすぐ歩け。
由奈はふと、いつだったかも思い出せないほど遠い記憶の中で甦るこの言葉を思い出した。 すると、由奈の不安は突然どこか遠くへ飛んで行ってしまった。 いつものように満面の笑みを一瞬見せた由奈は、「はい」の選択肢に大きな丸を付けた。
その瞬間、選択書はシュー、という音をたたてゆっくりと消え、 目の前に「選択ありがとうございました、翌0:00分にお迎えにあがります」という文字が数秒現れてまた消えた。 自らの意志でシェイラへの移住を決めた由奈であったが、両親に言ったら何と言われるだろうと不安になる。 シェイラという名を口に出してはいけない、だったら何と言い説明すればよいのだろうか? 由奈は気力を振り絞り、部屋を出て両親のいるリビングへと向かった。 今までお世話になったんだ、突然消えて捜索願なんて出されても困るし、何より悲しい顔はさせたくない。 最後に挨拶と今までのお礼もしたい、一生会えなくなるなら準備よりこっちの方法が大事だと思うから。
カチャリ・・・ 静かにリビングのドアを開ける。 テレビを見ていた両親はすぐに振り返ったものの、 あまりに神妙な面持ちの由奈をみた両親は即座に何かあると悟った。 「由奈、どうしたんだい?」「何かあったの?お母さんたちに話して?」 「うん、話さなければならないことがあるの。」 由奈は、シェイラという言葉と、異星で暮らすということを隠しながら、精一杯説明した。 「・・・だから、ね。明日の深夜には家を出なきゃいけないの、今までありがと・・・」 由奈がそう言いかけたその時、家中に怒号が響く。 「ふざけるな!!そんな説明で納得がいくと思っているのか!!?」 ドン!と父親の持っていた酒瓶が机を激しく叩く。 「冗談・・・冗談何でしょう・・・?冗談って、嘘って言ってちょうだい・・・由奈・・・。」 母から大粒の涙がこぼれる。
私は一人っ子でこの家に生まれ、自分で言うのもなんだが過保護に育てられてきた。 申し訳ないと思う、大した親孝行もできなかったと思う。これからたくさんしたかった。
でももう、選んでしまった。道は変えられないんだ。 ここで引き下がる訳にはいかない。 せめて、納得してもらえればそれでいい。応援なんて、いらない。 罵倒されても殴られてもいい・・・シェイラに行くことが、きっと私の幸せだから!
由奈は静かに土下座をして、誠心誠意頭を下げた。 「私の選んだ道なの、これだけは引き下がれないんです。どうか、どうか行かせてください。」 由奈の真剣な言葉と行動に、先ほどまで興奮していた両親も落ち着きを取り戻した。 「どうして明日急になんだ、もう少し時間に猶予はなかったのか?連絡は一切取れないっていうのはどういうことなんだ。」 父親が胸の内を由奈にぶつける、父親も泣いていた。 「ごめんなさい、どうしても明日なの。急になったことはどうしても言えなくて・・・連絡はいつか必ずするから・・・。」 そっと、母親が由奈の顔を上げた。 「危険なところに行くわけではないのね?危ないことはしないわね?また帰ってきてくれるのよね・・・?」 由奈には、地球には二度と帰ってこられないことは分かっていた、しかし・・・ 「うん、きっと立派になって帰ってくるから、だから待っててね。」 笑顔で嘘をついてしまった。しかし母親はそれを聞いて安心したように、笑った。
こうして、夜が更け、出発までの時間は残り18時間となった。
次回「夢現」
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