全指揮官を捕え、奴隷の解放は成功し、収容所内は完全に制圧したものの何かおかしい。 収容所内にたったこれだけの兵士?部隊も僅か3つだけ。由奈はすぐに指揮官を問いただす。 「ねぇ。兵士さん達少なすぎない?他の人たちは何処に行ったの?教えてくれない?」 しかし、指揮官たちは質問には何も答えずじっとこちらを睨み続けるだけだった。 「さすがにこのクラスの兵士となると情報は絶対に漏らさないね…どうしようか。」
由奈とラウルが神の家への侵攻を迷っていると、ヒジャブのような物ですっぽりと顔を隠した女が声をかけて来る。 「他の部隊は先ほど一斉に神の家までの扉を潜って行くのが見えました、目測ですが推定200名、というところでしょうか・・。」 「あ、あなたは誰?逃げ遅れた民間の方でしたらすぐ逃げてください、ここはいつ何が起こってもおかしくない戦場です。」 「そのようなことは既に分かっています。どうか私を仲間に入れて貰えないでしょうか。」
特に武装をしているようにも見えない女にラウルは問いかける。 「お前、一体何の目的でここに?復讐か?金か?それともただの自殺志願者か?」 女は少し俯いてしばらくの沈黙を破ると、少し笑ってラウルの質問に答えた。 「いえ、そんな大層なものではございません。私がここに来た理由は、仁義を通すため。 そして大切な友人との誓いを果たすため、その2つだけでございます。」 ラウルは、くくくと小さく笑い女に再度質問をする。 「お前は仁義と約束のために死にに行くのか?」 「それだけ理由があれば私の命を賭けるには十分でございましょう?」 「ふん、面白い女だ。よし、由奈さん。こいつもメンバーに入れたいのだがどうだろうか。」 由奈は特に迷うこともなく黙って顔を縦に振った。
10分間、自分達以外いなくなった収容所で2人は話し合った。 終了後、由奈は全兵を招集し、新たな指示を出す。 「みんなのおかげで収容所の解体と奴隷の解放は無事終了した、ありがとう。しかし、負傷者33名を出す事態に陥ってしまった。 私達で話し合った決断だが・・・今後の指揮や各班の現状の機動力を考慮して、すまないが・・・全兵ここで解散とする。」
兵士達が一斉に騒めき出す。 「こ、ここで計画は中断、神の家までの侵攻は失敗ということですか!?」 「まさかお2人だけで進むなんておっしゃいませんよね!?」 「我々無しで誰がお2人を守るというのですか!勝率は0に等しいですよ!!」 「我々にも一緒に戦わせていただけないのですか、国王様!!」
あまりの騒めきにラウルが銃を一発発砲し怒号を上げる。 「黙れ!!兵隊がギャーギャー騒ぐな戯けが!!私と由奈さんも考えたんだ。しかし、ここから先は敵兵の数がここの数十倍になる。正直とても勝ち目がないんだ。死人を出すわけにはいかない…。」
「だったらどうしてですか国王様・・・我々は貴方様の為にこの命を捧げる覚悟をもってここにいます!!この命…貴方様の為に散らせて下さい!!」
「だったら、その命は大事にするがいい。私はこの一件が終わったら国王の座を辞するつもりだ。だからもうその命散らせる必要はない・・・分かったらここから消えたまえ。」
「何をおっしゃっているのですか国王様・・・冗談は止してください!!!貴方様がいなくなったらこの国はどうなるのですか!!?」
ガチャリ・・・ズガァァァン!! ラウルは再び威嚇砲を中に向けて撃つ。
「5分くれてやる、その間に消えない場合・・・こいつで全員撃ち殺す、二度は言わんぞ!今すぐ消えろ!!」
・・・5分が経った、残ったのは由奈とラウル、そして謎の女の3人だけとなった。 「ラウル国王様・・・これでよかったのですか・・・?」 「ああ、こうする他ない・・・私の信頼のおける部下達だ・・・こんなところで死なれては困るからな・・・だが・・・すまない・・・。」 ラウルの目から大粒の涙が次々と零れる。
「・・・じゃあ、行きましょうか国王様。これでお別れじゃない、生き残ればまた会えるんですから。」 由奈が笑顔でそういうと、ラウルの涙は止まり由奈と同じように笑った。 「やっぱり強行突破しか方法がないですかね?」 「だろうな、兵と対峙した時点で我々は即殺されるだろうな」
「じゃあ、突っ込むぞ!」 「はい、神の元へ参りましょう!」 「加勢します・・・。」
そして3人は扉を開き、神の領域へと侵入した。
次回「引き金の軽さ」
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