成は由奈の突然の決断に驚愕する。 「由奈さん・・・しっかりしてください!この国にもまだ来たばかりなのに・・・こんなことするなんておかしいですよ!」 由奈はラウルを見つめたまま成の言葉に答える。 「違うよ、私がこの世界に呼ばれたのはどうやら幸せになるなんて嘘で、この口実を使ってこれをさせるためだった、違いますか?」 キッとラウルを睨んで由奈は問いかける。ラウルは観念したように項垂れると、コクリと頷いた。 「その通りだ、よく気が付いたね・・・でも、君はそこまで分かっていて引き受けた、どういう心境の変化かな?」 由奈は銃を持ったままゆっくりとベッドに腰を掛け、話し始める。 「簡単な話ですよ、先ほど聞いた話では、あの扉の奥で今も多くの人が神の手によって殺されている。 私が彼らを殺せばそれらは無くなるのでしょう?だが、私がやらなければ事態は変わらず神は君臨し続け国民の恐怖は消えない。 ならば私がやるしかないじゃないですか。彼らを廃位させ、幸せに国という名前に相応しい国になるように。」
「待ってくださいよ!!」
成が由奈を必死に制止しようとする。 「由奈さんさっき怖いって言いましたよね!?怖いんでしょう?私だって怖いですよ!! 国の事を考えるなんてご立派だとはお思いますがあなた自身が救われないじゃないですか!! あの城を攻めるだけならどうにかなるかも知れないなんて期待しましたけど、相手が神様だなんてどう考えても死にますよ!! 防衛線だって相当張ってるでしょうし、神に辿り着く前に全滅の方が可能性高いじゃないですか! 勝てる見込みなんてどこにもないですよ、無駄死にしに行くのも同然じゃないですか、由奈さん!」 泣きながら絶叫する成。由奈は成の頭をぽんぽんと軽く叩き、こう言った。 「あー、確かに怖いよ成。でもさ、やっぱ聞いちゃった以上はもう放っておくわけにもいかないんだよ。 それと、神にも一言言いたいしね。人の上に立つってことがどういうことか、命ってものがどういうものなのか。 そんなことも分からないバカが神だなんて私は絶対に許せないから!心配かけてごめんね成。 だからどうか、行かせてください、かならず、みんなで帰ってきて幸せになることはここに誓っていくから。」 成は何も言わず、由奈から顔を背けた。
「成は、来なくてもいいから。ごめんねこんなことに巻き込んじゃって・・・。」 銃を投げ捨てると、成は唇をギュッと噛み締めて由奈に何かを言おうとするような顔を見せて兵士を振り切って部屋を出て地下から逃げ出した。 「国王様、追って捕えますか?」 「・・・・・いや、いい。放っておけ。」 「しかし、情報が洩れたら我々もどうなるか・・・。」
由奈はじっと下を向き、少しの沈黙の後に口を開く。 「成は大丈夫です、そんなに弱い娘じゃないですから。それより、早く侵入法や神の家についての情報をください。」 「君は・・・本当に強いな、頼もしい。」
ラウルがそういうと、由奈はラウルを再び睨んで言う。 「何を呑気なことを言ってるんです?この一件が終わったら貴方のことも国王の座から引きずり下ろすつもりなのでご覚悟を。」 「ははは・・・つくづく恐ろしい子だよ君は・・・。」
それから、由奈とラウルは侵入法や兵士の配置、動き、自分の行動、戦闘隊形等、細部に渡るまで話し合い、出来る限りの訓練を行った。
「(できれば本当は無血革命をしたいけど・・・やっぱり無理なのかな。この人たち誰も死なせたくない。出来れば神だって・・・。)」 「由奈さん、我々は明日に全てを賭けています。確実に全員殺して幸せを掴み取りましょう。」
「あ、あの・・・国王様、1つ案があります。」
食い違う2人の主導者の意見。 果たして由奈の運命はどうなっていくのか。 そして、由奈が提示した案とは一体!?
次回「王の素質」
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