海岸で目を閉じて、流れ続ける潮騒を聴く。 これが私の日課であり、一番落ち着いていられる時間。 時に荒ぶり、時に凪ぐ波の音は聴いていて飽きることがない。 余暇や休日はいつもこうして過ごしている。
これはそんな日々から突如始まった不思議なお話。 夢か真か、真実は今となっては誰にもわからない・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 時刻は8月26日、午前9時を迎えようとしていた。 今か今かと自室で腕時計を眺める女、橘由奈(22) 9時を迎えたのを確認するなり、由奈は荷物を持って部屋を飛び出した。 階段を駆け下り「いってきます」といつものように家族に挨拶を済ませると、 彼女はすぐに自分の車に乗り込み、急いで車を走らせた。 向かう先?そんなものは由奈にとってあそこしかない、いつもの海である。 好きな音楽をかけながら車を飛ばすこと20分、目的地へと辿り着いた。
荷物を車内に残し、携帯電話だけをもって由奈は車を降りた。 「はぁ・・・・気持ちいいーー!くぅーーっ!」 車から降り立った由奈は大きく深呼吸と背伸びをする。 ここにいる時間だけが由奈にとっての快楽の時間なのだ。
波の傍まで進みじっと地平線を眺める由奈。 通りかかる人々があまりに動きのない由奈を心配そうに見ている。 そんなことにも気づかない由奈であるが、この時ばかりはふと我に返る。 「キャッ、ちょっと嘘!またやっちゃった・・・。」 由奈の服を見ると、靴とジャージから水が滴り落ちている。 知らぬ間に由奈は波に呑まれ、ずぶ濡れになっていたのだ。 いつもの事ではあるものの由奈は波と砂に塗れた下半身に意気消沈をする。
自宅へ帰宅しようと、由奈がため息交じりに下を向いて歩いていると、 浅瀬で何かが光り輝いているのが見えた。 「さっきあんなのあったかな?ま、大方硝子かなにかの破片でしょ・・・。」 濡れた靴をぐちゅぐちゅ言わせながら由奈は確認に向かう。 ここは保育園の傍ということもあり、子どもたちの立ち入りが多い。 子ども達が怪我をしないように回収しようとしていた由奈だったが・・・
「硝子じゃない、何これ・・・?」 目の前には異様な光景が広がっていた。 そこにあったものは一つの手紙のようなもの。 しかし、それは紙であるに拘わらず一切濡れているような気配はない。 ただそこに、光ながら存在していた。 おかしいのはそれだけじゃなかった、これだけ光っているのに、 近くのサーファー、散歩に来ているご老人、誰一人として気づいていない。 由奈はゆっくりとそれを拾い上げた。 「あれ・・・何かに包まれているの?」 手紙そのものは触れられない、周囲を見えない何かが包んでいるようだった。 「変なの・・・何これ、ぷにぷにする・・・帰ってから調べてみよう。」 探求心に駆られた由奈はそれを持って帰ることにした。 両手で掬うようにそれを大事に抱え、由奈は車へと戻った。
時刻は流れて同日23時31分。 家事や仕事の後処理を終えた由奈はようやく自室に戻った。 部屋の机の上には、それが今朝と変わらぬ姿でそこにあった。
そして、由奈はついに謎の物体の研究を始める・・・。
次回、「未来の数」
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