壱-5
トーストを焼き、簡単に目玉焼きなんかを作ってるとピンポーンとドアベルが鳴った。
「パパ出てー」
我が家に宅配便も新聞も滅多にやって来ないから、訪問者は十中八九龍壬さんなんだけど、念のためパパに頼む。
あたしと静はあんまり人間に関わらない方がいいと思うし、パパ自身そう思ってるみたいで、買い物もパパか龍壬さんが必ずついてないとできない。
妖にとって不便な世の中なもんだ。
「よう、琴音」
龍壬さんは軽く静と挨拶を交わしてからキッチンに顔を出した。
いつ見ても龍壬さんの笑顔はほっとする。
「龍壬さん、いらっしゃい。龍壬さんもお昼食べる? 簡単なサンドイッチだけど」
「食う食う。手伝うよ」
龍壬さんはそう言うと、あたしの隣のコンロを使って目玉焼きを作り始めた。
「助かるよ。パパも静も面倒くさがりで、全然手伝ってくれないんだもん」
「ははは、お前がいなくなったらあの二人飢え死にするかもな」
龍壬さんは爽やかに笑って、目玉焼きを器用にひょいっとひっくり返した。
龍壬さんは三十八歳の術者で、パパの親友。
たまに家に来てパパとお酒を飲んだりしてる。
あたしにとってはお兄さんみたいな人。
凄く頼りがいがあって、パパと喧嘩した時は必ず龍壬さんの家に逃げる。
ルックスも悪くないのに、約十年間一緒にいるけど、女の人の影は一度も見たことがない。
昔、パパに男好きなんじゃないかってからかわれてたけど、そうでもないみたい。
恋愛面だけじゃなくて、他にも性格とかパパとは全然違うから、どうしてパパと仲良くできるのか不思議になる時がたまにある。
そんなこんなで、龍壬さんと四人分のホットサンドを作り上げた。
二枚のトーストにバターを塗って、目玉焼きとスライスチーズとハムを乗っけてマヨネーズで味付けした簡単なサンドなんだけど、これがなかなか美味しい。
「そう、聞いてよ龍壬さん」
あたしたちは四人で食卓を囲み、サンドにかぶりつきながら会話をする。
「さっきパパが、うら若き乙女の部屋に侵入してきたんだよ!」
「おーおー、ついに自制が効かなくなったか」
「馬鹿、ちげえよ。琴音が寝坊したから起こしに行っただけだ」
「そういえばさっき、わたしの太ももの写真見てにやにやしてたよね」
「変態だな」
「それは否めない」
「否めよ! 気持ち悪い!」
「気持ち悪いとは何だパパに向かって!」
「自分のことパパって呼ばせてる時点で気持ち悪い! わたしとあんたはほとんど歳変わらないんだからね!」
本日の第二次パパ静合戦が開幕した。
毎日のようにこんなに言い合いしてて、よく疲れないなあと思うけど、聞いてるこっちは夫婦漫才みたいで面白い。
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