壱-4
居間に行くと、黒髪おかっぱ頭で若紫の和服を着込んだ女の子がソファでごろ寝しながらテレビを観ていた。
その下で、パパがしかめっ面しながら携帯をいじっている。
パパの様子は、もういつも通りに戻っていた。
止めといた方が良いって言ったのに、人の忠告を無視して携帯を新しく変えたから、案の定操作に苦戦してるみたいだった。
「おはよう、静」
「おそようでしょ! お腹空き過ぎて飢え死にする!」
着物でじたばたするもんだから、着物が肌蹴て静の白い足が見えて妙に色っぽい。
すかさずパパは振り返って、「けしからん! もっとやれ!」と新しい携帯のカメラ機能を駆使する。
この人、いつの間にカメラ機能マスターしたんだろう。
「このロリコン! 消せ! 今すぐ消せ!」
「全く、誰がロリコンだ。琴音もお前ももっとパパを敬いなさい。……保存っと」
「敬えるパパになれよ。ってか消せって言ってんでしょ。何保存してんの!」
今日も平和でなにより。
あたしは、朝――昼食の支度を始めた。
分かってると思うけど、あたしたちは血縁関係のない家族だ。
あたしは化け狸で、パパは人間で、静は座敷童子だからどう考えても血縁関係にはなり得ない。
でも、血は繋がってなくても、あたしたちはきっと人間の家族と同じような生活ができてると思う。
パパと静との出会いは、ちょうど十年前。
こっちの世界に来て死にかけてた所を、二人に助けてもらった。
パパはさっき人間って言ったけど、ちょっと普通じゃない人間。
言霊で結界が張れたり式神を召喚できる術者だ。
前に静が、パパの能力は陰陽師だった先祖の名残なんじゃないかって言ってたけど、本当のところは不明。
でも、陰陽師だったパパの先祖と一緒にいたことがある静がそう言うんだから、結構信憑性は高いと思う。
パパの性格を一言で表すなら、変態、或いはロリコン、はたまた女たらし。
パパから学んだことは沢山あるけど、その中でもこの時代の男にとっての教科書はピンク本だということは、一番知りたくなかった。
そんな馬鹿なこと言ってるから四十六歳でも独身なんだって、静はいつも嘆いてる。
静はさっきも話した座敷童子って妖。
静はこの時代に生まれてもう三十年以上経つらしいけど、見た目は六歳くらいの女の子のままで、もう三回も生まれ変わってるんだって。
パパとは生まれ変わる度に出会ってるらしくて、これはもう静にとってパパと出会うことが運命なんだろうなって思ってたりする。
静はパパと同じくこの世界のことを色んなことを教えてくれるから、あたしにとって姉みたいな存在だ。
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