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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第6回   壱-2
壱-2

外は快晴。

窓を開けると、三月の心地よい風が髪と頬を撫でた。

二階にあるあたしの部屋からは、庭の桜の木の枝が目の前に見える。

「あっ、パパ!」

「んっ? 何だ?」

 一人泣き真似を続けていたパパは、あたしの呼びかけに嬉々として反応した。

「桜の枝がもうこんなに膨らんでるよ!」

 この桜の木が満開になった頃、龍壬さんも誘ってみんなでお花見に行くのが恒例だった。

だからこの季節は、毎日起きてから桜の木の枝を確認するのが習慣になっているのだ。

「おー、ほんとだな」

 あたしの横から首を出し、パパは桜の枝を眺めた。

かと思えば、家の塀の向こうを物凄く怖い顔をして睨み付ける。

不思議に思ってパパと同じ方向を見たけど、あるのは通行人がないただの通りだけだった。

「パパ?」

 パパのこんな顔初めて見たから、少し怖くなった。

パパはさっきの嬉々とした反応とは打って変わって、はっとした様子であたしの顔を見た。

「どうかした?」

「いや、何でもない。また龍壬も誘って花見に行こうな」

 そう言うと、パパはあたしの頭をぽんぽんと撫でて部屋から出て行った。

変なパパ。

そんなふうに不思議に思いながら、あたしは窓とカーテンを閉めて着替え始めた。


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