参-1
「……ね! ……とね!」
誰かの声で目を開けた。
目の前には、暗闇に紛れて心配そうな顔をしたおかっぱ頭の幼女がいる。
「良かった。ちゃんと起きた」
幼女は起きたあたしを見ると、安心したように息をついた。
「し、静!?」
思わず起き上がろうと動くけど、手足を縛られていて思うように動けなかった。
よく見ると、静も手足を拘束されている。
「ここ、どこ?」
「地下牢みたいなところ」
静はため息をついて壁に寄り掛かった。
周りを見回してみると、あたしたちは六畳ほどの地下牢にいた。
ううん、地下牢というより、留置場って表現の方が似つかわしいかもしれない。
窓はちょうどあたしの背の二倍の高さの場所に一つあるだけ。
明かりはその窓から漏れる夕日のみだった。
あれ、あたし、どうしてこんな所にいるんだっけ。
えーと、確か龍壬さんが清才様の家に来て……。
「そうだ、龍壬さん! し、静! 龍壬さんが!」
「知ってる」
え?
「龍壬さんが、琴音に清才の子孫を探させるなんておかしいと思ってた。龍壬さんもパパも、琴音に組織のことを知らせないように清才の話題には触れないようにしてたんだもん」
「じゃあ、静、龍壬さんが企んでたこと、知ってたの?」
「確信はなかった。パパへの結界破りの時、龍壬さんの能力の気配はなかったし。だから確かめるために残ったんだよ。案の定、捕まっちゃったけど」
静は罪人のように縛られた自分の手首を見せた。龍壬さんの気配がなかったということは、龍壬さんはパパの結界破りに加担していたわけじゃないのかもしれない。
それを聞いて、少しだけ安心した。
「この縄ね、うちの組織の開発部が開発した縄で、妖の能力を封じることができる縄なんだって」
そういえば、なんか力が抜けていく気がする。
狸の姿に戻ろうと試みてみるものの、やっぱりだめだった。
「なんて厄介なもん作ってくれたのよ」
「全くだね」
再びため息をついた時だった。
かつんかつんと硬い物と硬い物が当たるような音がする。
どうやら、ヒールの足音みたいだった。
足音の主が持つ懐中電灯の明かりが、ちらちらと漏れる。
近くの階段を下りてきたのは、シルエット的に女性だった。
きつい香水の臭いが鼻をつく。
女性は懐中電灯の明かりをこちらに向けてきた。
「あの人が可愛がってた妖ちゃんってこの子たちい? あたし、妖見るの初めてなのお! きゃあ、思った以上に可愛いのねえ!」
やけに語尾が伸びる喋り方も癇に障る。
ペットショップの動物たちって、こんな心境なのかな。
女性は、上機嫌で持っていた鍵を使って鉄格子の扉を開けた。
黒いスーツに白衣を纏った二十代くらいの女性が入ってくる。
すると、一層香水の臭いが強まった。
「ほんとに妖なのお? 普通の女の子に見えるう!」
この人、いちいち苛々する喋り方するな。
そう感じてるのはあたしだけではないらしく、隣にいる静も思い切り女性を睨みつけていた。
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