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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第49回   弐-25
弐-25

「武器を捨てろ。言うことを聞かねえと、この女を殺す」

 龍壬さんは、ホルスターから拳銃を抜き取り涼香の頭に銃口を向けた。

「手荒いですね」

 清才様はさっき使っていた銃を床に投げ、続いて袖から銃弾とナイフ、護符も床に投げた。

「縛れ」

 武器を全て捨てたのを確認すると、龍壬さんの一声で清才様は涼香と同じように縛られる。

涼香は軍服の隊員の一人に髪の毛を掴まれ、乱暴に清才様の隣に放り出された。

「龍壬さん、どういうこと……?」

 あたしの身体は、その普通じゃない情景を目の当たりにして震えた。

この情景を作った龍壬さんは、笑顔すら浮かべている。

「琴音、お前のお陰で本当に助かった」

 龍壬さんは銃をしまい、またあたしの頭を優しく撫でた。

さっきと同じ撫で方なのに、恐怖を感じる。

「君は、その男に騙されたんですよ」

 大人しく縛られながら、清才様は言った。

腕に食い込む縄が、見ているだけで痛々しい。

「目的は、初めから僕の暗殺だったんでしょう。ですが、僕の居場所はごく一部の隊員しか知りません。そこで、前世で清才と関わりがあった妖の君を使って、清才の子孫である僕の居場所を探らせたんですよ」

「妖は前世で関わりが深かった人間の血族と現世で再び出会うということは、有名な話だからな」

 そん、な……じゃあ、あの日、龍壬さんの家にやって来た隊員は、みんな龍壬さんの仲間だったってこと? まさか、パパをやったのも、龍壬さんなの?

「龍壬さんってば、本当に演技が上手いんすから。俺まで騙されたっすよ」

 聞き覚えがある声が耳に入る。

声の主は、清才様に銃口を向けている隊員の一人だった。

あいつは!

「基己、ありゃおめえが悪い。勝手な真似しやがって」

 あたしは心の中で悲鳴を上げた。

パパが運ばれた後、あたしたちを捕えようとした男!

「よく、入って来られましたね」

 涼香と背中合わせで拘束された清才様が、関心したようにこう言う。

「ああ、ここに来る途中の頑丈そうな結界は計算外だった。護符をこの家に出入りしてるその女か薙斗とかいう奴から奪うつもりだったんだが、乾の部屋に似たようなもんがあったのを思い出してな。ちょいと拝借したぜ」

 龍壬さんは、軍服のポケットから涼香が使っていたものと同じ札を取り出した。

「龍壬さん、どうして!? どうしてこんなことするの!?」

「琴音は質問が多いなあ」

 龍壬さんは、やれやれと肩をすくめた。

「妻子の仇、ですか?」

 清才様は、穏やかな口調でこう問う。

でも、目は明らかに龍壬さんを挑発していた。

龍壬さんは清才様の台詞にぴくりと反応し、顔から笑みが消えた。

妻子? 龍壬さんの?

「君は、数年前に自分の妻と妻に宿っていた自分の子を縊鬼という妖に殺されていますね」

 この台詞がきっかけで、寿の口から龍壬さんの過去が話されることとなった。

今から数十年前、あたしと出会う前の龍壬さんには桜月さんという妻がいた。

桜月さんは龍壬さんの高校の後輩にあたる人で、組織の医療部に所属していた。

組織の義務である能力の抑制剤を接種する担当が桜月さんだったことから、二人は出会い、意気投合し、やがて結婚する。

子どもも授かり、夫婦円満な家庭を築いていた二人だったが、その最中に不幸は起こった。

龍壬さんが仕事で遅くなった日、桜月さんは縊鬼によって精神を病み、寝室で首を吊って亡くなっていたのである。

その時、桜月さんのお腹にいた子どもも、一緒に亡くなっていた。


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