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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第48回   弐‐24
弐-24

 射撃場の片づけを終えて、またコンクリートの道を通って帰る。

どうでもいいけど、このコンクリートの道、硬いし冷たいし裸足にはかなりきつい。

それは清才様も同じはずなのに、清才様は顔色一つ変えずにどんどん進んでいく。

「君の不安は拭えましたか」

「え、ああ! はい! やっぱり清才様は凄いってことが分かりました!」

 清才様の顔色を伺っていたところで急に問われたので、たじたじになってしまう。

 でも、心臓が弱くてもあんなに正確に銃が撃てるなんて、やっぱり清才様は凄い。

平安の頃から変わらず、清才様はあたしが尊敬する方だ。

きっと、これからもずっと。

「そうですか」

 清才様は笑顔だった。

笑顔なんだけど、気のせいかまるで仮面のように感情のない笑顔に見える。

 梯子を先に上った清才様の助けを借りて地上に出た。

押入れから出ると、畳の心地よい感触が足の裏を癒してくれる。

すると、

「……案外早かったですね」

 清才様は隠し通路の穴を塞ぎながら呟いた。

その呟きの意味はよく分からない。

もしかして、とある部屋から漂ってくるこの匂いと関係してるのかもしれない。

あたしは誰よりも早くその人に会うため、嗅ぎなれた匂いがする方へ走り出す。

「龍壬さん!」

 客間らしき場所には、軍服を着た龍壬さんがソファにふんぞり返っていた。

その軍服は、薙斗があたしと初めて会った時に着てた物に似ていた。

テーブルには、涼香が出したらしきお茶が入った湯呑が置かれている。

「琴音! 無事だったか!」

 あたしを見た途端、龍壬さんは立ち上がり両手を広げてあたしを迎え入れてくれた。

あたしは迷わずその腕の中に飛び込む。

「龍壬さん! 龍壬さん龍壬さん龍壬さん! 会いたかったよお!」

「よしよし、よく頑張ったな」

 龍壬さんは、大きな手の平であたしの頭を昔と同じように撫でてくれた。

あれ、でも龍壬さん、確か行方不明だったんじゃ?

「龍壬さん! 静は? 静は無事? 一体何があったの? どうして行方不明なんかになってたの?」

 あたしの質問攻めに対して、龍壬さんは苦笑する。

「一つずつ質問してくれ。静は無事だ。今は俺たちと一緒にいる」

「……俺たち?」

 龍壬さんの言動に疑問を覚えるも、龍壬さんにきつく抱きしめられて何も言えなくなってしまった。

「感動の再会を邪魔して申し訳ありませんね」

 部屋の出入り口から清才様の声がする。

「ああ、本当に邪魔だよ」

 龍壬さんがそう言うと、どこからともなく大勢の人たちの走るような足音が家中に響いた。

そして、その足音は扉や窓をぶち破り、数秒でこの部屋に集まる。

あたしは顔をずらして清才様の方を見た。

と、龍壬さんのと同じ軍服を着た人たちが、清才様を囲って機関銃の銃口を向けている。

「んー! んー!」

 近くで聞こえる、唸るような声を頼りに視線を辿ると、手足を縄で拘束されている涼香がいた。

その上、口は白い布を噛まされ喋られないようにされている。

「清才様! 涼香!」

 あたしは叫び、清才様の方へ行こうとすると、龍壬さんは腕の力を更に強めた。

龍壬さん……?


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