弐-23
「さて、着きました。ここが射撃場兼武器庫です」
射撃場には、色んな種類の銃が壁に所狭しと掛けられていた。
その射撃場に入って左手には横並びに一定の間隔で区切られたスペースがあり、そのスペースの更に数十メートルほど先には人型の的が幾重にもなって張り付けられている。
「あ、あの、清才様、これから何をするおつもりですか」
「勿論、撃つんですよ。怖かったら離れていなさい」
清才様は平然とそう言うと、袖から不気味に黒光りする何かを取り出した。
拳銃。
警察官が持つようなリボルバー式の物だった。
これこそ、テレビでしかお目にかかることはない代物だ。
なんで清才様がこんなものを袖に入れてるのか、という思考より先に身体が動く。
「だ、だめです! 心臓が弱いのにこんな危険なこと! 絶対だめです!」
あたしは必死になって清才様の腕に飛びついた。
「こらこら、危ない。それを証明するためにここへ来たんですよ。耳を塞いで、そこにいなさい」
清才様は制止するあたしを振り切り、行ってしまう。
不安に思いつつ、清才様の言葉を信じて大人しく耳を塞いだ。
その様子を確認すると、清才様は前方を見据える。
そして、拳銃を片手で構えて二発発砲した。
耳を塞いでいても驚くような大きく鋭い銃声が射撃場に響き渡る。
あたしは思わず目をきつく閉じていた。
そ、そうだ、心臓は? 目をそっと開けると、清才様はまだ前を見据えている。
「やっぱり少し腕が鈍りましたね……」
「清才様! 心臓は大丈夫ですか? 痛んだりしてませんか?」
いても立ってもいられず、近づいて声を掛ける。
清才様は思い出したかのように、難しそうな顔から一瞬にして笑みを作って見せた。
「なんともありませんよ。このとおり、強力な術を使わない限り心臓には支障がないんです」
清才様はこう言いながらスペースの台についたスイッチを押す。
すると、電動レーンが動いて的が近づいて来た。
的を見ると、一発はちょうど心臓の中心部分に当たり、もう一発は中心から少しずれた心臓部分に当たっていた。
「凄い。二発とも心臓部分に当たってる」
「薙斗くんなら、二発とも中心に当てますよ」
「薙斗ってそんなに凄いんだ……」
この、何気なく呟いた台詞に清才様は大いに反応した。
「おや、琴ちゃん、薙斗くんを呼び捨てで呼ぶくらい親しくなったんですね」
「え? あ、はい、まあ。でも……」
薙斗の場合は親しくなったからというより、犬猿の仲になったからであって別に微笑ましいことではないと伝える前に、清才様は嬉しそうに喋り出す。
「薙斗くんと打ち解けられた女の子は初めてですよ」
いや、打ち解けてないです。
むしろ分離してます。
この五日間、清才様が不在の間に何度言い合いの喧嘩をしたか分からない。
でも、嬉しそうにしてる清才様に水をさすようなことは言えず、ただ引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。
その後、清才様はまた数発撃って腕を磨いていた。
その数発の弾は多少のずれはあったけど、どれも心臓部分を打ち抜いていた。
その背を遠くから見つめていたあたしは、平安時代、言霊を封じた護符を持って様々な妖や悪霊を払っていた清才様の背中を思い出す。
あの頃のように、もう強力な術は使えなくても、清才様は充分戦える。
あたしはそんな清才様を誇らしく思った。
それに、銃を構えてる清才様、凛としていてすっごくかっこいい。
いや、普段からかっこいいんだけど。
「そろそろ放課後ですから、戻りましょうか」
急に振り返った清才様と目が合い、思わず慌ててしまう。
「どうかしましたか」
「い、いえ! 分かりました! ……あ、でも、ちょっと特訓見てみたいなあ」
「それはやめて置きましょう。今日の訓練教官が、薙斗くんであるとは限りませんから。それに、この間も言いましたが君は組織入り前の妖なんです。あまり人目にはつかないようにしてください」
そうか、あたしが人目につけば、清才様たちに迷惑がかかるんだった。
下手をすれば、清才様たちもあたしを匿ったせいでパパたちと同じ目に遭うかもしれない。
危機感の薄さに、我ながら情けなくなった。
「そんなに落ち込まなくても、分かってくれたらいいんですよ」
清才様はあからさまに落ち込むあたしを見て苦笑してから、射撃場の片づけを始めた。
顔に全て出ているというのは、どうやら本当のことらしかった。
|
|