弐-21
この家に来て早くも五日が経った。
涼香は夜十時までこの家に留まり、その時間が過ぎると自宅に帰り、次の日の朝六時にまたやって来るという生活をしていた。
今日も朝から家事をしている。
火傷の傷は軽傷だったのか、それとも涼香の持って来た薬が有能だったのか、二日で痛まなくなった。
ただ、清才様の心臓のことは、涼香から聞いてからというもの、気になって仕方がなかった。
涼香の腕が信じられないわけじゃない。
でも、たまに帰って来る清才様を見ていると、重いものは持っていないかとか、周りに障害はないかとか、何かに驚いて発作が起きたりしないかとか、些細なことでひやひやして落ち着きがなくなってしまう。
「涼香ですね。要らないことを言ったのは」
今日は珍しく朝から自宅の自室で、書類の整理らしきことをしていた清才様。
未だ行方不明の七人は見つからないらしいんだけど、清才様は別の方向で探ることにして自宅に帰って来たと言う。
その様子を隣で見張っていた時、清才様は突然肩をすくめてこんなことを言った。
「君は僕までが乾のように苦しむんじゃないかと心配しているんですか」
図星で何も言えない。
心を読んでるんじゃないかって思うくらい的確に当てて来る。
「琴ちゃん、君、自分で思ってる以上に分かりやすいですよ。それじゃあ、ちょっと組織には入れませんねえ」
「あ、あたし、そんなに分かりやすいですか?」
「全部顔に書いてありますよ。……そうですね、君のその心配事を吹っ飛ばすようなこと、しに行きましょうか」
清才様は悪戯を考え付いた子どものような笑みを口元に浮かべると、早速部屋から出て行く。
あたしはそれに黙ってついて行った。
「涼香、少し地下へ行って来ます」
「あら、琴音ちゃんも一緒?」
洗濯物を干していた涼香と目が合った。
「君がこの子に植えこんだ不安を、少し吹っ飛ばしてきます。それに、たまには腕慣らししとかないと鈍りますからね」
「行ってらっしゃい」
清才様の嫌味を笑顔で流す涼香。
この二人がどうしてこんなに仲が悪いのか物凄く気になるけど、なんだか触れたらいけない気がする。
涼香と別れて向かったのは、再び清才様の部屋だった。
清才様は何を思ったのか、押入れの襖を開ける。
「これから見ることは他言したらいけませんよ」
清才様の言葉に好奇心が掻き立てられる。
あたしが首を縦に振ると、清才様は屈んで何も入っていない押入れの下の段に入って床を探った。
すると、床の部分から床と同じ素材の木製でできた取っ手が出てきた。
清才様はそれを引くと、床の一部が外れる。
「うわあ、隠し通路?」
「敵に襲われた時のために、作られてるんですよ。先にどうぞ」
あたしは清才様に呼ばれて、押入れに入り床が外れた一部を覗く。
そこには周りが冷たいコンクリートで覆われた円型の穴があり、その穴には梯子が設置されていた。
穴の下は暗くて見え辛い。
「上から照らしてますから」
そう言うと、清才様は押入れに置いてあった懐中電灯を持って穴の下を照らした。
すると、コンクリートの穴から床が照らし出される。
あたしはゆっくりと穴の中に身を沈め、身を強張らせながら下に降りた。
だって、梯子なんて普段使わないし、ジャングルジムでだって遊んだことないから、こういうの慣れてないだもん。
あたしはなんとか地下に下り立った。
コンクリート製の床がひんやりとあたしの足を冷やす。
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