弐-18
「君と静は、今のままでは誰かに見つかって十中八九組織入りでしょうねえ。逃げるとしても、乾は連れて行けませんよ」
組織入りは、パパは絶対に望んでないことだ。
パパや龍壬さんは全力で反対するだろう。
ふと、龍壬さんの家で離ればなれになった龍壬さんと静のことを思い出す。
龍壬さんと静はあの後どうなったんだろう。
手元の薙斗の報告書を読んでみても、龍壬さんと静についての詳細は書かれていない。
「龍壬さんと静は、今どこにいるんですか」
「その二人は今のところ行方不明です」
あたしは自分の耳を疑った。
ゆくえふめい?
「龍壬さんと静は、あたしを逃がすために陰陽隊員の足止めをしていたはずなんです。陰陽隊員には捕まってないんですか?」
「はい。その陰陽隊員たちごと行方不明なんですよ」
「ええ?」
あそこには少なくとも五人の気配はあった。
一気に七人も行方不明って、神隠しにでもあったのだろうか。
「人数は、龍壬を入れて特殊部隊員六人と座敷童子一人が行方不明です。今はその行方不明者の捜索で手一杯になっているので、僕もこれから行くつもりです」
「連れて行って下さい!」
あたしは立ち上がった清才様に縋る勢いで近づき、腕を掴む。
が、清才様はそれを軽く払った。
「君は組織入り前の妖なのでお留守番です」
まるで嫁入り前の娘のような言い方をする。
「他主義の陰陽隊には何年も前から妖の捕獲令が発令されているので、君が狙われているのはこの陰陽隊だけではないんですよ」
「で、でも、このまま待ってるだけなんて嫌です!」
清才様は、困ったような表情を浮かべる。
まるで駄々をこねる子どもを見るかのような目だった。
その表情が、あたしの心をちくちくと刺した。
清才様にこんな顔させるつもりはなかったのに。
「君を庇いながら探すのは、行方不明者発見を遅らせる要因になるかもしれません。君にとっても、それは本意ではありませんよね?」
宥めるような口調で正論を言われて、何も返せなくなる。
確かに、清才様を困らせることも、発見を遅らせることも本意じゃない。
でも、本当にあたしにはもう何もできることはないのかな。
「……では、申し訳ないですが、涼香の手伝いをしてもらえますか。家事が結構大変みたいですから。僕は家事が苦手で、手を出すと涼香に叱られるんですよ」
あたしの気持ちを悟ってか、清才様は少しおどけて見せながらこんなことを言った。
清才様の頼みを断るわけにはいかないあたしは、承諾するしかなかった。
「お願いします。何か分かり次第、連絡しますから」
清才様はすっと立ち上がり、颯爽と部屋を出て行った。
清才様の所作の一つひとつが相変わらず優雅で、思わず見惚れてしまったけど、清才様が部屋を出て行かれてから慌てて清才様の後を追いかけた。
「あの、お帰りは何時頃でございますか」
ついつい、女房の頃の癖が出てしまう。
あたしの台詞を聞いた清才様は、苦笑しながら振り返った。
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