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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第40回   弐-16
弐-16

 涼香に温かい味噌汁と新しい箸を貰って、凄い勢いで朝食をかきこんだ。

薙斗に怒鳴りつけて色々吹っ切れた途端、忘れてた食欲が戻って来て、一気に食べたもんだからお腹が苦しい。

「洗い物はいいから、寿とお話ししてらっしゃい」

 洗い物を手伝おうと台所に行ったら、涼香にこう言われた。

申し訳なく思いつつ、お言葉に甘えて先に部屋に戻った清才様のお部屋に向かった。

「失礼します。琴音です」

「どうぞ」

 部屋からの応答を聞いて襖を開けた。

既に清才様の前には座布団が敷かれている。

「そこに座って下さい」

 清才様は何かが書かれた紙に目を通しながら、向かいの座布団を指さす。

なんか、面接みたいでちょっと緊張する。

こんな経験今までしたことないから、ちゃんと話せるかな。

「ああ、そんな畏まらなくていいですよ。足も、楽にして下さいね」

 あたしの緊張が伝わったのか、清才様は苦笑気味にこう言った。

それがなんだか恥ずかしくて、俯きながら足を崩す。

「それじゃあ、昨日琴ちゃんがどんな経験をしたのか話して下さい。包み隠さず、全部ですよ。他言はしませんから」

「は、はい」

 あたしは、全部正直に説明した。

あたしが六歳の頃から、パパと静と龍壬さんは一緒にいたこと。

昨日、突然結界破りでパパが倒れたこと。

龍壬さんの説明で陰陽隊の存在を知ったこと。

途中説明が下手な部分もあったけど、清才様は飽きることなく耳を傾けてくれた。

「お願いです、清才様! みんなのことを助けて下さい! 早く助けないと、パパが死刑になっちゃうんです!」

 懸命に願いを訴えると、清才様は軽く息をついた。

「僕にお願いをされてもねえ。僕はそんなにこの隊に影響を与えられる側の人間じゃないんですよ」

「でも、組織の創造主の子孫じゃないですか! あの、失礼ですけど、階級は?」

「創造主の子孫と言っても実力社会ですから。一応、階級は陰陽将補ですが、階級なんて任務内容によってころころ変わるのであてにはなりませんよ。薙斗くんだって、高校教師の任務のせいで陰陽士長止まりにされてますし。僕の場合は、主戦力部隊第一番隊隊長という任務を押し付けられて、将補に上げられただけで、中身が伴っていないんですよ」

 清才様はへらりと笑ってこう言うけど、つまり主戦力部隊第一番隊隊長の任務を押し付けられるくらいの人間だってことだよね。

ん? 主戦力部隊?

「あの、清才様はどうして主戦力部隊の総隊長なんですか。術者は特殊部隊に配属されるんじゃ?」

「だから、言ったでしょう。押し付けられたんですよ」

 ああ、きっと物凄く嫌な思いをして主戦力部隊の総隊長にさせられたんだ。

清才様の顔、笑顔だけどひきつってる。

 でも、困ったな。

なんとかして、清才様に動いてもらうだけでもしてもらいたい。

考えあぐねていると、清才様は手元の紙をもう一度眺めてあたしに問いかけた。

「質問なんですが、君の言うパパとは誰のことですか。大体、察しはついていますが一応確認のために名前を教えてください」

 パパの名前? それは言えない。

それだけは、清才様でも言えない。

言えないのに、何故か口が勝手に喋りそうになる。

あたしは慌てて口を押えた。

「おやおや、最初に言いましたよね。包み隠さず、全部と」

 やだ、これ、言霊だ。

あたしが話す直前に清才様が言った台詞に、言霊が仕掛けてあったんだ。

術にかかったことも分からなかったなんて、化け狸一生の恥! 


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