弐-10
突き当たった廊下を右に曲がってみると、一つだけ明かりがついている部屋があった。
その部屋へ行こうと思ったんだけど、左に曲がった方の部屋から懐かしい匂いがしてきて、ついついその部屋に向かってしまう。
この匂い、六種薫物の梅花だ。
六種薫物は、平安時代の貴族たちがよく使っていた香で、黒方、梅花、荷葉、侍従、菊花、落葉っていう六種類の匂いがある。
これらは季節ごとに使い分けられていて、衣や文などに焚き染めていた。
清才様なんかは、貴族ではなかったから薫物合なんて雅な遊びはできなかったみたいだけど、高貴な方から譲り受けた六種薫物の材料の一つの白檀をよく衣に焚き染めていて、あたしはその匂いが大好きだった。
懐かしさのあまり我慢できず、そっと襖を開けて部屋の中に入ってみる。
目の前には縁側があり、襖が閉まっていなかったために外からの光で明るかった。
見渡してみると、あるのは本がぎっしり詰まった大きな本棚が二つに、パソコンが乗った木製の机。
部屋の隅には座布団が数枚重ねてあるぐらいで、装飾品は一つもなかった。
こじんまりとした部屋で、どこか寂しく感じてしまうくらい。
でも、それが凄く落ち着いた。
清才様も部屋に余計な物は置かない方だったからかもしれない。
あたしは突然強烈な睡魔に襲われた。
いけないと思いつつ、座布団を枕にして横になる。
もう今日は、何もかも疲れちゃった。
もしこれが何もかも夢だったら、パパや静や龍壬さんに話してみよう。
きっと、笑ってくれるはずだから。
あたしは、ゆっくりと目を閉じた。
|
|