弐-6
いける!
と、思ったのも束の間。
薙斗さんは怯むことなく、瞬時にあたしの尻尾をがしっと掴んで捉えた。
「は、放して! あたしはあんたたちに捕まってる暇なんてないんだから! 放せえっ!」
尻尾を掴まれつつも、尻尾を引き千切る勢いで手足を動かす。
でも、薙斗さんの手は緩まなかった。
このままじゃパパが……静が、龍壬さんが!
必死に暴れていると、薙斗は尻尾をぐっと持ち上げた。
そのため、身体が宙ぶらりんになる。
薙斗さんはぶらんぶらんとなっても、まだ暴れ続けるあたしの首根っこを空いてる手で掴み、自分の顔の方へ無理やり向けさせた。
「落ち着かねえと狸鍋にすんぞ!」
薙斗さんの怒鳴り声に、びくりと身体が強張る。
もうあたしが逃げ出さないと判断したのか、薙斗さんはあたしをそっと地面に下ろした。
あたしは、なんとか落ち着こうと人間の姿に化け直したけど、色んな感情に流されて自分でも情けなくなるくらい大声で泣いた。
だって、この人今あたしのこと狸鍋にするって言った! 全然いい人じゃない!
「薙斗ったら、女の子泣かしちゃだめじゃないの。よしよし、こんな怖いお兄さんほっときましょうねえ」
後から追いついた涼香さんは、優しくあたしの頭を撫でてくれる。
この人も陰陽隊の人なんだろうけど、今はもうされるがままになっていた。
「俺は任務を遂行しただけだ。……あー、うるせえ」
「誰が泣かせたと思ってるの? 埋めるわよ?」
笑顔でさらりと恐ろしいことを言う涼香さん。
どうしよう、この陰陽隊にはまともな人がいないのかもしれない。
そんなことを考えていたら、もっと泣きたくなってきた。
「ねえ、聞いて、あなたラッキーよ。わたしたち、共存主義側の陰陽隊なの。他主義の陰陽隊に捕まらなくて良かったわねえ。もし捕まってたら、殺されてるか飼育されてたわよ」
……え?
「きょ、共存主義?」
パパと龍壬さんがいる陰陽隊だ!
あたしは涙を服の袖で拭った。
「助けて下さいっ! パパと静と龍壬さんが捕まっちゃったんです!」
懸命に訴えかけるも、二人の様子がなんだか変なのがわかった。
こちらを向いているけど、心は他にあるみたい。
「一先ず今はここを離れましょう。話を聞くには、人が多すぎるわ」
「だな」
何がなんだか分からず、あたしは二人の顔を交互に見比べた。
「知ってた? あなた、他主義も含めて陰陽隊の中で結構人気者なのよ?」
涼香さんの台詞に、あたしははっとした。
いつの間にか、辺りには殺気が漂っている。
他主義の陰陽隊らしかった。
「行け」
「援護はいいの?」
「術者じゃねえし、三人くらいなら撒ける」
「そう。怪我したら手当てしてあげるから、安心して暴れてらっしゃい」
涼香さんは薙斗――こいつはもう呼び捨てでいいや――と短い会話を済ませると、あたしの手を引いて山の方へ歩き出した。
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