弐-4
なんとか冷静になるまで、結構時間がかかった。
いやあ、びっくりした。
久しぶりにあんなにびっくりした。
もう、心臓止まるかと思った。
絶叫の後、あたしは遊具から飛び出して全力疾走で逃げ出したにも関わらず数秒で捕まり、腕を軽く捩じ上げられてから足を引っかけられ、気が付いたら地球を顔面で受け止めていた。
とりあえず落ち着いたけど、あたしを捕まえたあの人はあたしをベンチに座らせてどっかに行っちゃった。
辺りが暗くてよく分からなかったけど、声とあたしを捻じ伏せた力的に男の人。
「落ち着いたみたいだな」
月明かりに照らされたその人は、カーキ色の軍服を着た男性だった。
真っ黒な短髪に、突き刺すような鋭い目。
でも顔は全体的に整っていて、決して不細工ではない。
年齢的には、二十代前半くらいかな。
これが世に言うコスプレイヤーって奴なのかもしれない。
「あ、はい、なんとか」
そういうと、男性は軍服のポケットからタオルを出してあたしに渡した。
「顔中、土まみれだぞ」
「え、あ、ありがとうございます」
さっき地球を受け止めた時だ。
涙のせいもあって、顔中どろどろだった。
なんだ、この人顔は怖いけどいい人だ。
「あの、洗って返したいのは山々なんですけど……」
「返さんでいい」
「いや、でも」
「ほら」
男性は問答無用で、あたしにペットボトルのお茶を差し出す。
この人、いい人だ!
「ありがとうございます!」
ハンバーガーを一気に食べてちょうど喉が渇いてた所だから嬉しい。
あたしはお茶を一気飲みした。
「うちの生徒じゃなさそうだな」
男性はじっとあたしの顔を見つめて呟くようにこう言う。
「生徒?」
「何でもない。家まで送ってやる。どの辺だ」
「家はないんです」
男性は深いため息をついた。
「いや、あったんですけど、無くなったというか、その家自体が偽りだったというか……帰りたいんですけど、帰れないんです」
あー、どうしよう、男性、頭抱え込んじゃった。
「あの、一つ伺っていいですか?」
噂のことを思い出したあたしは、男性に聞いてみることにした。
「なんだ」
「あなたは幽霊ですか?」
「幽霊に見えるか」
「うーん、あんまり」
「俺は生きてる人間だ。悪かったな」
気配の無さは幽霊級だからもしかしたらと思って聞いてみたんだけど、いざ現実を突きつけられると凹む。
「ここら辺って幽霊出るんですか?」
「らしいな。戦国時代、ここは城下町だったが戦で民は全滅させられ、その怨霊が今でも漂ってると聞いたことがある」
あれ、この人、幽霊の話になると多弁になるな。
「幽霊に会ってどうするんだ」
「いえ、ただの好奇心です」
幽霊に尋ね人のことを聞こうとしてたなんて言えない。
この人は普通の人間で、幽霊なんかとは縁遠い人なんだから、そんなこといきなり言われたら絶対変な子だと思うに決まってる。
「近くに頼れる奴はいないのか」
「いません」
男性が二度目のため息をついた時だった。
「あら、薙斗?」
ベンチの後ろから、女性の声が聞こえて来た。
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