弐-2
F本町は急行が止まらない小さな駅で、降りる人も少なかった。
駅から出ると、細い道を挟んだ目の前にスーパーがあって、角には煙草屋がある。
細い道を右に行けば忙しなく鳴り響く遮断機があり、さっきあたしが乗っていた電車が終電のF駅に向かうため通り過ぎて行った。
電車が行ってしまうと、遮断機の前で待っていた人たちが線路を渡り始める。
行くところも決まってないし、人の流れに沿って歩き出した。
本当になんとなく、制服姿の女の子の後を追って行くと、ファーストフード店に行きついた。
そういえばあたし、朝ご飯を食べてから何も食べてない。
そう思った途端、お腹がぐうっと鳴った。
色んなことがありすぎて忘れてたけど、物凄くお腹空いてたんだ。
ふらりとファーストフード店に立ち寄ると、ここも学生まみれ。
女の子は下がチェックの深緑のスカートで、上はセーラーのような襟が付いたブラウスの上にカーディガンを着てる。
男の子は学ランで、なんとなく凛々しく見えた。
学ランなんて今まで漫画とかテレビでしか見たことなかったから、思わず見つめちゃう。
と、その男の子と目が合い、変な目で見られた。
赤面しつつ、列に並んでなんとか百円のハンバーガーを購入。
ちょっと店員さんと話すのに駅員さん同様、抵抗はあったけど空腹の方が勝った。
悲しいかな残金は千円とちょっと。
お金が無くなったら狸の姿で餌を乞うしかないかなあ。
なんて思いつつ、ここも席がいっぱいで座れそうになかったから、持ち帰りにしてもらった。
「持ち帰り」――帰る所がないあたしには、物凄く悲しく聞こえる。
ファーストフード店を出て少し先を歩くと、「私立緑旺高校前」と書かれたバス停に出くわした。
なるほど、近くに高校があるからあんなに高校生がいたのね。
「ねえねえ、また出たらしいよ」
あたしの後から来た緑旺高校の生徒らしき女子高生二人組が、バス停で立ち止まっていたあたしの横を通り過ぎて行く。
「え? もしかして、城下公園に出るっていう幽霊っ?」
「そうそう!」
幽霊?
それは興味深い。
ついて行かない手はない。
あたしは二人組から充分距離を取ってからその後を追った。
「あたしの弟が昨日遅くまで友達と公園で遊んでたら、和服着た男の人が山から下りて来たんだって!」
「山って、あそこ立ち入り禁止だったよね。そういえば、友達が肝試しに山に侵入した時に古い鳥居が建ってたとか言ってた!」
「何それ、超怖いんだけど! あたし、あの公園通らなきゃ帰れないのにい! 美紀、お願い、ついて来て!」
「あんたの家まで送ったら、帰りあたしが一人じゃん! 絶対嫌!」
「この薄情もん!」
あたし、決めた。
この城下公園を通らなきゃ帰れない女の子について行く。
なんかさっきから女の子の後ばっかりついて行ってる気がするけど、断じて趣味じゃないからね。
幽霊と山が出てくれば、化け狸のあたしが行かないはずがない。
幽霊はあたしたち妖と同類みたいなものだから、もし会えたら何か聞けるかも知れない。
それに、山の鳥居も気になる。
怖くないと言えば嘘になるけど、みんなを助けるためだと思えばなんともない。
……はず。
「じゃ、気を付けて帰んなよ、梨穂」
あたしがついて行く子は、梨穂っていう名前らしかった。
五、六メートル先で梨穂さんが美紀って子と手を振って別れた。
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