弐-1
日はいつの間にか西へと傾き出していた。
表立った行動ができない組織の人間たちから逃げるべく、あたしは近くの人通りの多い商店街まで必死に走った。
ここなら駅から程近いから、主婦や帰宅途中のサラリーマン、学校帰りの学生もいて紛れやすい。
「これからどうしよ……」
行く当てもなく、息を整えながら帰宅中の学生たちの往来を通りの隅で見回してみた。
こっちを見てる人は誰もいない。
よし、追われてない。
龍壬さんと静のことは気になるけど、今はとにかく清才様の子孫を見つけないと。
静がパパと何度生まれ変わっても出会えるように、あたしだって清才様と出会えるはず。
周りの目を気にしながら駅に向かい到着する。
駅の構内には色んなお店が入っててショッピングモールみたいになってるけど、今は目にも留まらない。
少ないお小遣いで一番初めに目についたF本町駅までの切符を購入して、そそくさとその場を去った。
改札に入ると、F方面とS方面と書かれてる看板が目に入る。
駅員さんに聞こうかと思ったけど、確か切符売場の上にあった路線図にF本町駅の隣にFって駅名が乗ってた気がする。
うん、「本町」がついてるかついてないかだけの違いだったから間違いないはず。
誰が術者だかわからない今、知らない人にあんまり話しかけたくないから、あたしはホームに停車しているF方面の電車に乗り込んだ。
一人で電車なんて初めてだった。
切符の買い方はパパや龍壬さんと一緒に旅行とか行く時によく見てたからなんとかなったけど、F本町駅を通る線の電車に乗るのは初めてだから、物凄く緊張する。
唯一の救いは、この駅を通ってる電車の線が一本だけだってことね。
ここが都会じゃなくて助かった。
電車の中は帰宅中の学生でいっぱいで、座れそうもない。
あたしは扉近くに立って外を眺めていた。
発車時刻になると、電車の扉はぷしゅーっと情けない音を立てながら閉まり、ゆっくりと駅から離れていく。
パパ、龍壬さん、静。
みんな、大丈夫なのかな。
どうしよう、不安で泣きそうになってきた。
今なら一人で初めてお遣いに出される、小さな子供の気持ちがよく分かる。
今のあたしの心境、「ママと一緒じゃなきゃやだあ!」とか泣いてせがんだにも関わらず、お遣いに一人で出されて、不安で押し潰されそうになってる子供と似たようなもの。
でも、その子どもとあたしには決定的に違う部分がある。
それは、あたしの場合、清才様に会うっていうお遣いを達成しないと、みんなの命が危ういかも知れないっていう責任を更に課せられてるところだ。
夕日見てると泣いちゃいそうだから、座ってる人の観察しようと思って外から顔を背ける。
と、ほとんどの乗客が携帯をいじってるか友達同士で会話してて、なんか更に寂しくなった。
あたし、なんて孤独なんだろ。
そんな状態を三十分くらい耐えて、F本町駅に辿り着いた。
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