壱-20
「お前たちはここから逃げろ。俺はここで足止めする」
「嫌だよ、龍壬さんも一緒に――」
龍壬さんの手を取ろうとすると、玄関の方からどんどんどんっという、扉を殴りつけるような音が響く。
「陰陽隊戦闘部特殊部隊隊長への不信任決議案が議決したため、これより補佐の家宅調査に入る! そこにいるのは分かっている! 即刻ここを開けろ!」
男の人の怒鳴り声が響いた。パパへの不信任決議って何!?
パパ、隊長から降ろされちゃったってこと!?
「俺の所にお前らがいることは、恐らく基己の報告でばれたんだろう。お前たちだけでも逃げろ」
「わたしもここに残って足止めする。琴音は早く行って」
「そんなこと……!」
できない! と叫ぼうとすると、静に思いっ切り突き飛ばされた。
とても子どもの力とは思えないぐらいの強さで突き飛ばされ、地面に膝をつく。
なにすんの、と振り返った途端、静の一喝が飛んできた。
「今、自分のすべきことを考えなさい!」
静は鬼のような形相をしていた。
……そうだ、ここで捕まるわけにはいかない。
あたしにはすべきことがあるんだ。
龍壬さんは転んだままのあたしの目線に合わせるようしゃがむと、落ち着かせるように微笑んであたしの頬を優しく撫でた。
「お前に全てを任せる。俺らは大丈夫だ。早く行け」
龍壬さんの頬を撫でる手は、とても暖かかった。
あたしは、この手の温もりを守らなくちゃいけない。
「……必ず――必ず助けるから! 絶対に皆のこと助けるから!」
「ああ!」
「お願い!」
あたしはさっきの静と同じように下唇を噛みしめ、拳を握りしめた。
そして、一人で走り出す。
振り向きはしない。
口の中は、少しだけ鉄の味がした
|
|