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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第24回   壱-20
壱-20

「お前たちはここから逃げろ。俺はここで足止めする」

「嫌だよ、龍壬さんも一緒に――」

 龍壬さんの手を取ろうとすると、玄関の方からどんどんどんっという、扉を殴りつけるような音が響く。

「陰陽隊戦闘部特殊部隊隊長への不信任決議案が議決したため、これより補佐の家宅調査に入る! そこにいるのは分かっている! 即刻ここを開けろ!」

 男の人の怒鳴り声が響いた。パパへの不信任決議って何!?

パパ、隊長から降ろされちゃったってこと!?

「俺の所にお前らがいることは、恐らく基己の報告でばれたんだろう。お前たちだけでも逃げろ」

「わたしもここに残って足止めする。琴音は早く行って」

「そんなこと……!」

 できない! と叫ぼうとすると、静に思いっ切り突き飛ばされた。

とても子どもの力とは思えないぐらいの強さで突き飛ばされ、地面に膝をつく。

なにすんの、と振り返った途端、静の一喝が飛んできた。

「今、自分のすべきことを考えなさい!」

 静は鬼のような形相をしていた。

……そうだ、ここで捕まるわけにはいかない。

あたしにはすべきことがあるんだ。

 龍壬さんは転んだままのあたしの目線に合わせるようしゃがむと、落ち着かせるように微笑んであたしの頬を優しく撫でた。

「お前に全てを任せる。俺らは大丈夫だ。早く行け」

 龍壬さんの頬を撫でる手は、とても暖かかった。

あたしは、この手の温もりを守らなくちゃいけない。

「……必ず――必ず助けるから! 絶対に皆のこと助けるから!」

「ああ!」

「お願い!」

 あたしはさっきの静と同じように下唇を噛みしめ、拳を握りしめた。

そして、一人で走り出す。

振り向きはしない。

口の中は、少しだけ鉄の味がした


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