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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第22回   壱-18
壱-18

「……馬鹿みたい。あたしだけ、何も知らないで。ほんと、嗤っちゃう」

「静が知ってたのは、あの人がまだ十代だった頃に出会ったからだ。あの人は、お前だけでも組織から遠ざけたかったんだろう。それだけじゃなく、俺たちはいざとなれば人や妖を殺すような存在だ。そんなこと、本当の娘のように育ててきた妖のお前に言えると思うか? 俺だって、こんなことが起きなければ話したくなかった」

「それでも! あたしは、話して欲しかった! あたしや静のことで悩んでたのに、あたしはパパに何もしてあげられなかったんだよ!?」

「違う」

 今までずっと口を閉ざしてた静が急に口を開いてこう言った。

「わたしだって、何もできなかった。あの人がわたしたちのことで悩んでることは知ってたのに、近くにいたのに、こんなことになるまで何もできなかった」

 静は車の中の時のように、唇を噛みしめ拳を強く握りしめて悔しさに耐えてた。

 そうだ、あたしが知ったところで、一体何ができただろう。

静ですら、何もできなかったのに、あたしにできることなんてあるわけない。

一番辛いのは、事実を知っていて何もできなかった静なのかもしれない。

 しばらくの沈黙の後、龍壬さんが口火を切った。

「命令に逆らった場合、最悪の場合は死刑だ。そのことも、覚悟して欲しい」

 龍壬さんの言葉に目を見開いた。

「どうにか助けられないのっ? ――そうだ、あたしたちが組織に入れば!」

「そんなことされてあの人が喜ぶと思うか!?」

 龍壬さんの怒鳴り声にびくりと身体が震える。

「……悪い」

 龍壬さんも相当思い詰めてるんだ。でも、他に方法が浮かばない。

「俺があの人のためにできることは、お前たちをなんとか組織から遠ざけることくらいだ。できることなら妖界に帰したいんだが、それはやっぱり無理か?」

 あたしは激しく首を横に振った。

帰ったところで、あたしは一人ぼっちだ。

それなら、清才様とかつて一緒に生きたこの世界で生きていきたい。

静もあたしに同意で帰るつもりはないみたいだった。

やっぱり、パパのことが気がかりなんだ。

「そうか」

 龍壬さんは顎に手を当てて悩む仕草をする。

「なら、手を貸してほしい」

 龍壬さんのその言葉、待ってました!

あたし、大きく頷く。

「あたしたちにできることがあるの?」

「ああ、だが琴音の運次第だ」

 あんまり運はいい方じゃないんだけど、パパが助かるなら協力しないわけない。

そう思いながら龍壬さんの言葉を待ってると、龍壬さんは意外な言葉を放った。


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