壱-18
「……馬鹿みたい。あたしだけ、何も知らないで。ほんと、嗤っちゃう」
「静が知ってたのは、あの人がまだ十代だった頃に出会ったからだ。あの人は、お前だけでも組織から遠ざけたかったんだろう。それだけじゃなく、俺たちはいざとなれば人や妖を殺すような存在だ。そんなこと、本当の娘のように育ててきた妖のお前に言えると思うか? 俺だって、こんなことが起きなければ話したくなかった」
「それでも! あたしは、話して欲しかった! あたしや静のことで悩んでたのに、あたしはパパに何もしてあげられなかったんだよ!?」
「違う」
今までずっと口を閉ざしてた静が急に口を開いてこう言った。
「わたしだって、何もできなかった。あの人がわたしたちのことで悩んでることは知ってたのに、近くにいたのに、こんなことになるまで何もできなかった」
静は車の中の時のように、唇を噛みしめ拳を強く握りしめて悔しさに耐えてた。
そうだ、あたしが知ったところで、一体何ができただろう。
静ですら、何もできなかったのに、あたしにできることなんてあるわけない。
一番辛いのは、事実を知っていて何もできなかった静なのかもしれない。
しばらくの沈黙の後、龍壬さんが口火を切った。
「命令に逆らった場合、最悪の場合は死刑だ。そのことも、覚悟して欲しい」
龍壬さんの言葉に目を見開いた。
「どうにか助けられないのっ? ――そうだ、あたしたちが組織に入れば!」
「そんなことされてあの人が喜ぶと思うか!?」
龍壬さんの怒鳴り声にびくりと身体が震える。
「……悪い」
龍壬さんも相当思い詰めてるんだ。でも、他に方法が浮かばない。
「俺があの人のためにできることは、お前たちをなんとか組織から遠ざけることくらいだ。できることなら妖界に帰したいんだが、それはやっぱり無理か?」
あたしは激しく首を横に振った。
帰ったところで、あたしは一人ぼっちだ。
それなら、清才様とかつて一緒に生きたこの世界で生きていきたい。
静もあたしに同意で帰るつもりはないみたいだった。
やっぱり、パパのことが気がかりなんだ。
「そうか」
龍壬さんは顎に手を当てて悩む仕草をする。
「なら、手を貸してほしい」
龍壬さんのその言葉、待ってました!
あたし、大きく頷く。
「あたしたちにできることがあるの?」
「ああ、だが琴音の運次第だ」
あんまり運はいい方じゃないんだけど、パパが助かるなら協力しないわけない。
そう思いながら龍壬さんの言葉を待ってると、龍壬さんは意外な言葉を放った。
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