壱-17
そんな中、パパと龍壬さんが所属する組織――共存主義の陰陽隊を統べる盃って人が癌で先月余命三か月と宣告され、現在は共存主義の陰陽隊内は大混乱が起きている状態。
確かに総指揮官を失うと知れば大混乱になるだろうけど、理由はそれだけじゃないみたいだった。
一つは後継者問題。
後継者としては盃の一人娘の輝夜に決まったらしいんだけど、結構癖のある子みたくて、そのせいで共存主義の陰陽隊内が輝夜支持派と不支持派で分裂し始めてるんだって。
二つ目に、死を直前に控えた盃が下した命令――妖の捕獲令が今朝になって幹部会議で発表されたこと。
パパと龍壬さんは、朝からこの会議に出席してたみたい。
この捕獲令の狙いは、妖を捕獲して戦闘部に専属させ、更なる戦闘力向上ってところにあるらしい。
幹部会議では、この命令発表のせいで大乱闘が起きて大変だったみたい。
賛成派は妖と手を取り合って戦うことこそ理想の姿である、と主張。
逆に反対派としては、そもそも共存主義なのに戦いと無関係な妖を捕獲して戦わせるなんて、やっていることが従順主義と変わらないと主張した。
あたしと静を養ってるパパや龍壬さんはこの命令に大反対したらしいけど、既に盃が決めた上での発表だったし、当の本人が幹部会議に不在のため何も意見を通しては貰えなかった。
そのことに対し、パパは激怒。
本部の報告役の人に掴み掛かって、龍壬さんが止めなかったら危うく大惨事だったみたい。
と、まあ、ここまでが組織のことと今朝起きたことの説明。
ここまでの説明を龍壬さんは丁寧に時間を掛けて話してくれたけど、なんか信じ難いことばっかりでいまいち現実味に欠ける。
あたしも現実味に欠けた存在なんだろうけど。
「次に、お前たちのパパがあんなにされた理由だ。実は前々から、特殊部隊の中で隊長に対する不満を唱える者がいてな」
「もしかして、パパが職務怠慢だったから?」
「言っておくが、お前のパパはやる時はやるぞ」
じろり、と龍壬さんに睨まれて反省。
「ごめん、続けて」
主な不満の原因は、家に張った結界だった。
本部に無断で妖を匿うのは禁止のため、パパは結界を張って妖から出る妖気を隠していたらしい。
パパがあたしと静を本部に連絡しなかったのは、前々から妖を捕獲して、戦闘部に所属させるという噂があったからだった。
でも、結界を張った結果、隊長の自宅に隊長自身が結界を張っていることを、不自然に思う部下が出てきた。
それに、家の中だけなら隠せるけど、外出する際の妖気までは隠し切れない。
あたしたちの存在に感づいた部下は、あの人を不信に思うようになった。
そこで発令された妖の捕獲令。
この機に乗じて、何者かがパパを潰そうとしたのは明らかだった。
家に侵入した基己は、パパを潰そうと企んだ奴らの一人だと龍壬さんは言う。
あたしの頭の中に、あの男の不気味な笑い声が響く。
「あの人も俺も、お前を組織に関わらせたくなかった。いつまでも明るく、楽しい家族でいることが、俺たちの願いだったんだ」
龍壬さんは悔しそうに顔をしかめた。
確かに、あたしだっていつまでも明るくて楽しい家族を望んでた。
でもそれは結局、偽りだったんじゃない。
龍壬さんも静も組織について知ってたし、パパがあたしたちを守るために悩んで苦しんでたことも知ってたはず。
何も知らないで、偽りの家庭で満足してたのは、あたしだけだった。
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