壱-15
龍壬さんの家に着いてから、あたしたちは居間に向かった。
龍壬さんの家はまるで人を遠ざけるように、民家から少し離れた所にある。
一人暮らしなのに一軒家で結構広いから、あたしたちはパパが仕事とかデートで遅いときには龍壬さんの家に泊まったりしていた。
この家は、あたしたちのもう一つの家みたいな所だった。
――どうしてこうなったんだろ。
龍壬さんが飲み物を用意してくれてる間、椅子に座ってこればっかり考えてた。
昨日まで、いつもどおりの日常を送ってたのに。
桜だって今年もきっと咲いただろうし、それが満開になったらまたみんな一緒に、近くの公園に行ってお花見するつもりだった。
またあたしが作ったお弁当とか持って行って、パパと龍壬さんは近くのコンビニでお酒とか大量買いして、公園で大人げなくバカ騒ぎしたりして――
なんでこうなっちゃったの。
「琴音、いいか?」
龍壬さんの声にはっとする。
いつの間にか飲み物を用意して、持って来てくれた龍壬さんが目の前にいた。
隣に座ってる静も心配そうにあたしを見てた。
「うん」
あたしは心配かけないように、なるべく明るめの声で答えた。
こんなこと考えてたって何も変わらない。
とにかく、龍壬さんの説明を聞かなくちゃ。
これからのことを決めるために、まずは自分が置かされてる立場を知るんだ。
ちゃんと受け止められるか分からないけど、何も知らないでどうしようどうしようって悩んでるよりずっといい。
「大丈夫か?」
龍壬さんは本当に優しい。
いつもあたしや静のことを一番に気に掛けてくれてる。
だから、つい甘えたくなっちゃうんだよね。
「大丈夫。ちゃんと、覚悟はできてるから」
本当は物凄く怖い。
でも、いつまでも龍壬さんに甘えてられないし、心配も掛けられない。
絶対に足手まといにはなりたくないから。
「無理はしなくていい。お前は、自分のことだけ考えてろ」
龍壬さんは微笑みながらあたしの頭を撫でた。
うう、泣きそうになるからあんまり優しくしないで欲しい。
涙を堪えるのが精一杯で、黙って頷くことしかできなかった。
そんなあたしの手を、静の小さな手が握りしめてくれる。
大丈夫、とあたしは静の手を握り返した。
「さて、まずは組織の話だな」
そう言ってから、龍壬さんはゆっくりと話し始めた。
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