壱-14
「時代と共に変わるのは、能力だけじゃなく身体も同様だ。能力が低くなれば、身体の適応能力も低くなる。つまり、能力が高い奴が無理して能力を使い続けると、規制が効かなくなっちまって身体がぶっ壊れるわけだ。主に心臓に負担がかかって、いつかはぐしゃっと潰れちまう」
……え?
ぐ、ぐしゃ?
つ、つまり、それって、死ぬってこと?
そうだよね、心臓潰れたら死んじゃうもんね?
胸を押さえて苦しそうに呻いてたパパの姿が脳裏に浮かぶ。
パパのあれは、病気なんかじゃなくて能力に身体がついて行けなくなったのが原因だったってこと?
だから普通の救急車は呼べなかったんだ。
普通の病院に運ばれたら、原因不明の病気にされかねないから。
それを知ってて、静はパパを慌てて中に入れて人目から遠ざけようとしてたのか。
「俺たちが所属してる組織は、そうならないよう月に一回、専門の病院で抑制剤を接種することを義務づけられてる。お前のパパも勿論接種してたはずなんだが」
「結界破り」
ふいに、静が口を開いた。
「パパが倒れた瞬間、複数の術者の気配を感じたから間違いないと思う」
「そうか」
龍壬さんは静の言葉を聞いて顔をしかめた。
「結界破りっていうのは、術者が結界に術を集中させて破ることを言うの。パパは複数の術者の術を一気に受け止めたから、心臓に相当な負担をかけたんだと思う。わたしの能力で負担を軽減させたから、その場で心臓が潰れることはなかったけど……」
静が暗い表情であたしに説明してくれる。
座敷童子の能力は運を操ることだから、静のおかげで運良くパパの心臓が潰れないで済んだってことだ。
でも、静の表情や口調からは、最悪の事態しか読み取れなかった。
「助かる、よね?」
信じたくなかった。
だって、昨日までパパはテレビとか観ながら豪快に笑ってたし、あんなに元気だったのに……死んじゃうなんて、信じられないよ。
「助かったとしても、心臓はもう正常には戻らないだろうな。走ることも、長く歩くこともできなくなるかも知れない」
龍壬さんの台詞は、あたしたちに厳しい現実を突きつけた。
静は俯いたままで何も言わない。
肩までの黒髪の間からは、血が滲むほど噛みしめられている下唇が見える。
「どうして、パパがそんな目に遭わなきゃいけないの?」
車は赤信号で停車した。
目の前の横断歩道を、お年寄りや母親と手をつないで歩く子供、サラリーマンという様々な人たちが渡って行く。
そこには、変わらない日常があるのに、まるであたしたちはそこから弾き出された存在のようで、物凄く遠かった。
「こうなったからには、琴音に本当のことを話さなくちゃならない。だが、これだけは分かってくれ。お前たちが悪いんじゃない」
静は無言のまま、龍壬さんの言葉に首を横に振った。
あたしは、まだ知らない真実というものに思いを馳せることしかできなかった。
信号が青になると、車は無言のあたし達を乗せて、さっきまで日常があった横断歩道を踏みつけた。
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