壱-13
龍壬さんの家は、車で五分くらいの所にある。
あたしと静は必要な物だけバッグに詰め込んで、家の前に停めてあった龍壬さんの車に乗り込んだ。
「パパ、大丈夫かな」
発車した車の窓から、遠くなって行く家を見送る。
いつもなら、あたしたちを世間から隠すためにパパが家の周りに結界を張ってるのに、いつの間にかその結界は消滅していた。
パパが結界を維持できなくなってるからだ。
「今まであんな風に倒れたことなかったのに」
確かに、お酒は飲み過ぎだったし煙草も一日中吸ってたけど。
もし大きな病気だったりしたらどうしよう。
「抑制剤はちゃんと接種してたはずなんだが」
ふいに、運転中の龍壬さんが独り言のようにこう言った。
「抑制剤って?」
そんなもの存在するなんて、聞いたことなかった。
「術者の中でも、能力の高低は人それぞれってのは知ってるな?」
ルームミラーに映る龍壬さんの表情は、どこから話すか考えてるみたいだった。
静は家を出てから口を開かず、あたしの隣で正座をして窓の外を眺めてる。
「うん、知ってるよ」
能力の違いは、清才様のお弟子様たちを見て来たから、術者それぞれの能力の差異は理解していた。
清才様曰く、術者の能力はその人自身の精神力や先天性のもので決まるらしい。
「お前らのパパは、現代の術者からすると能力がかなり高い方だ。だが、平安の頃の奴らと比べれば足元にも及ばない」
「能力は時代が流れるごとに衰退してるってことだよね」
あたしが基己とか言う男を、術者だとすぐ判別できなかったのは、術者の気配が薄すぎて感じ取れなくなってるからだった。
でも、パパや龍壬さんは会って直ぐに術者だって分かった。
多分、パパだけじゃなく、龍壬さんも現代の一般の術者より能力は高いんだと思う。
「能力と遺伝は深い関わりがあると言われてるから、能力者の血が薄くなればなるほど、能力も低くなるってわけだ」
それは分かったけど、能力が衰退することとパパが倒れたこととはどう関係してるんだろ。
あたしは不思議に思いながらも、頷いて龍壬さんの次の言葉を待つ。
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