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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第15回   壱-11
壱-11

 それから五分も経たないうちに、数人が家に入って来る音が聞こえた。

足音からして三人。

インターフォンを鳴らさないで家に入って来たから、物凄くびっくりした。

「お前は足を持て」

「ああ」

「せーのっ」

 声からして、全員男だった。

あたしと静は、扉の向こうからの声でパパが運ばれて行くのを確認しながら、じっと扉を見つめる。

どうか、パパが助かりますように。

そう祈ることしかできなかった。

 パパを運び終えた後、三人は玄関の扉を開けたまま話し始めた。

「じゃあ、先に病院に連れてってくれ。俺は少し用を済ませてくる」

「もしかして、例の妖を探すつもりですか」

「見つかったら、確実に隊長除籍扱いじゃ済まねえよな。下手すりゃ死刑だぜ」

 あたしは三人の深刻そうな会話を聞いて、静を見つめた。

静は悔しそうに下唇に噛みついてるだけで、あたしの方を向こうとしない。

やっぱり、静は何か知ってるんだ。

三人の会話の内容からして、あたしたちが見つかったらパパは死刑になる。

どうしてこの人たちが妖の存在を知ってるのか分からないけど、今はそんなことどうでもいい。

とにかく見つからないようにしないと。

「いいからさっさと行け。ここで死なれたら、職務怠慢扱いされるぞ」

「そうですね、失礼します」

「失礼します」

 三人のうち二人は行ったけど、あと一人は玄関の扉を閉めると、家の中に入って来た。

「さて、どこだ?」

 残った一人の男の声を聞いた途端、背筋に寒気が走った。

これは前世で感じたことがある――殺気。

あたしは咄嗟に静の手を取って、そっと押入れの中に入り込んだ。

あたしは襖を背に、静と正座で向かい合うようにして隠れる。

「ここかー?」

 男はそう言いながら、この部屋の扉を開けた。あたしの心臓の音が、一際大きくなる。

「きったねえな」

 男が部屋に散らばったビールの空き缶や雑誌を蹴飛ばす。

その空き缶の一つが襖にぶつかった。

その音に驚いた静が、びくっと体を震わす。

「そこか」

 瞬時にこの男が、パパや龍壬さんと同じ術者だと分かった。

妖を驚かせることによって、妖気を乱して妖気の元を特定するやり方は、妖気を感じ取れる人にしかできない。

これはやばい!


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