壱-9
「静! どうしたの!?」
見ると開け放ったままの玄関の扉の外で、パパが蹲っていた。
静は懸命にパパの右腕を自身の肩にかけて、なんとか家の中に運ぼうとしている。
「うっ……」
痛みに耐えるかのように、胸を左手で押さえながら目をぎゅっと瞑り、歯を噛みしめているパパの姿を見た途端、頭が真っ白になる。
がたいがいいパパが、物凄く小さく感じた。
「琴音! 見てないで手伝って!」
静の叫び声で我に返った。
そ、そうだ、とにかく落ち着いて静の言う通りにしなきゃ。
静と声を掛け合いながらパパを玄関口に入れると、静は急いで玄関の扉を閉めた。
まるで、誰かにパパの姿を見せないようにしてるみたいだった。
あたしは咄嗟に思い付いて、居間の電話を持って来た。
「し、静! 救急車!」
待って、救急車呼ぶのって何番だっけ!?
どうしよう、110番しか頭に浮かばない!
こうしてる間にパパが死んじゃうかもしれないのに!
「待って! 救急車はだめ!」
「は!? 救急車がだめってどういうこと!?」
「とにかくだめなものはだめなの!」
静と二人して混乱状態に陥ってると、パパが荒い息をしながら喉から絞るように声を出した。
「たつ……たつ……みをっ……呼べっ……!」
「龍壬さんを?」
静は素早く反応して、パパの上着のポケットから携帯を取り出してあたしに渡した。
「ごめん、琴音が電話して」
「わ、わかった」
携帯をあたしに渡すのもやっとなくらい、静の手と声は震えてた。
なんとか冷静に振る舞おうとしてるみたいだけど、顔は今にも泣き出しそうだった。
静のこんな姿を見るのは初めてで、あたしは恐怖と動揺に押しつぶされそうになりながら、龍壬さんの携帯番号を押す。
落ち着け、落ち着けあたし!
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