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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第13回   壱-9
壱-9

「静! どうしたの!?」

 見ると開け放ったままの玄関の扉の外で、パパが蹲っていた。

静は懸命にパパの右腕を自身の肩にかけて、なんとか家の中に運ぼうとしている。

「うっ……」

 痛みに耐えるかのように、胸を左手で押さえながら目をぎゅっと瞑り、歯を噛みしめているパパの姿を見た途端、頭が真っ白になる。

がたいがいいパパが、物凄く小さく感じた。

「琴音! 見てないで手伝って!」

 静の叫び声で我に返った。

そ、そうだ、とにかく落ち着いて静の言う通りにしなきゃ。

 静と声を掛け合いながらパパを玄関口に入れると、静は急いで玄関の扉を閉めた。

まるで、誰かにパパの姿を見せないようにしてるみたいだった。

 あたしは咄嗟に思い付いて、居間の電話を持って来た。

「し、静! 救急車!」

 待って、救急車呼ぶのって何番だっけ!?

どうしよう、110番しか頭に浮かばない!

こうしてる間にパパが死んじゃうかもしれないのに!

「待って! 救急車はだめ!」

「は!? 救急車がだめってどういうこと!?」

「とにかくだめなものはだめなの!」

 静と二人して混乱状態に陥ってると、パパが荒い息をしながら喉から絞るように声を出した。

「たつ……たつ……みをっ……呼べっ……!」

「龍壬さんを?」

 静は素早く反応して、パパの上着のポケットから携帯を取り出してあたしに渡した。

「ごめん、琴音が電話して」

「わ、わかった」

 携帯をあたしに渡すのもやっとなくらい、静の手と声は震えてた。

なんとか冷静に振る舞おうとしてるみたいだけど、顔は今にも泣き出しそうだった。

静のこんな姿を見るのは初めてで、あたしは恐怖と動揺に押しつぶされそうになりながら、龍壬さんの携帯番号を押す。

落ち着け、落ち着けあたし!


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