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作品名:言霊 作者:狸塚ぼたん

第12回   壱-8
壱-8

 次の日、あたしが起きた頃にはもうパパと龍壬さんはいなかった。

静は昨日と同じく居間のソファで寝転んでる。

「パパも龍壬さんも、起こしてくれれば朝ご飯くらい作ったのに」

「パパ、琴音が寝た後も龍壬さんに愚痴ってたよ。冷たくされたのが、相当ショックだったんじゃないの」

 うっ。

静の言葉がちくちくと胸に刺さる。

「今日の晩ご飯は、パパが好きな物にするかあ」

 単純だから、肉じゃがなんか作れば一気に上機嫌になるに違いない。

材料があるかどうか冷蔵庫の野菜室を覗いた。

「静ー、パパから何時頃帰って来るか聞いてる?」

「今日はそろそろ帰ってくると思うよ」

 静はパパと龍壬さんの仕事を知ってるらしく、今日もどんな仕事で出掛けてるのか知ってるみたいだった。

やっぱりパパとは、あたしが加わるずっと前に出会って一緒にいるから、そういった疎通はあたしよりできてる。

「パパが帰ったら買い物に付き合ってもらわないと、じゃがいもがないや」

 そう呟きつつ野菜室を閉じると、家の玄関で物音がした。

「あ、パパが帰って来たかも」

 あたしは出迎えようとキッチンから出ると、いきなり静があたしに飛びついてきた。

「静、どうし……」

「待って! 嫌な気配がする」

「嫌な気配?」

 静は眉間に皺を寄せて、真剣に玄関がある壁の方を見つめていた。

静は座敷童子だから、禍福の気配とかには敏感なのは分かるけど、何が起こるっていうんだろう。

「琴音はここで待ってて。いい、呼ぶまで絶対動かないでよ」

「う、うん」

 静はあたしの応答を確認すると、一人で玄関の方に向かっていった。

しばらくすると、玄関が開く音がして、誰かの苦しそうな呻き声が聞こえて来る。

「琴音!」

 静の悲鳴に近い声に肩がびくりと震えた。

そして、次の瞬間、あたしは玄関に走っていた。


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