壱-7
「あ、琴音、明日なんだが、朝からちょっと出かけて来るぞ」
「彼女とデート?」
静が茶化すと、パパは静のおでこを指で弾いた。
静は悶えながらおでこを押さえて机に伏せる。
「龍壬も一緒だ」
「龍壬さんも?」
サンドを食べ終えた龍壬さんは、コップのお茶を飲み干してから頷いた。
「大事な仕事が入ったからな。昼には帰ると思う。今日は明日のためにここに泊まって、そのままお前のパパと仕事だ」
「そっか。頑張ってね」
詳しくは知らないけど、パパと龍壬さんは同じ仕事をしてるらしい。
同じ術者だから、もしたしたらそういう人たちが集まってする仕事なのかもしれない。
平安時代の陰陽師みたいな仕事なんじゃないかな。
占いやったり、厄払いしたり。
気になって何回か仕事について聞いたことはあるけど、いつもはぐらかされちゃうんだよね。
「いい子に待ってろよ」
龍壬さんはパパと同じように、あたしの頭をぽんぽんと撫でる。
「もお、パパも龍壬さんもあたしのこといつまでも子ども扱いしないでくれる?」
「十六歳なんて、まだまだ子どもよ」
六歳の姿の静はふふんと大人っぽく笑って見せるが、どう見てもただの憎たらしい子どもで、龍壬さんがそれを見てぷっと吹き出した。
「龍壬さん? 何がおかしいの?」
「いいえ、何もおかしくないです」
「よろしい」
笑いの絶えない日常。
この日まで、あたしはずっとこんな日常が続いていくんだと思ってた。
そして、それを望んでた。
でも、そんな日常は、この日が最後となってしまった。
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