壱-6
「それにしても、お前が寝坊なんて珍しいな」
言い合いが落ち着いた頃、龍壬さんが口を開いた。
「そう?」
でも確かに、夜更かししなしでこんな時間まで寝続けたのは初めてかも知れない。
昨日はちゃんと十一時には布団に入ってたし。
「ああ、そういえば琴音、お前どんな夢見てたんだ? 寝ながら泣いてただろ」
「え? えっとねえ……」
パパの台詞で、さっき見た夢を思い返す。
あまりにも懐かしい記憶で、思わず泣いちゃったんだよね。
でも、この夢の内容はパパに言うべきじゃない。
「忘れちゃった」
「あんなに号泣してたくせに?」
「夢って案外記憶に残らねえからな」
龍壬さんの助け舟でなんとかパパからの言及は免れたけど、静は意味ありげにあたしのことを見つめていた。
多分、静はあたしが見た夢がどんな夢だったか分かったんだろう。
パパは何故だか、あたしが前世でお世話になった清才様を嫌っていた。
清才様は、本当に優しくて心が綺麗なお方だった。
でも、パパはあたしが死んだ時の記憶がないのは、清才様のせいだと思ってる。
つまり、清才様があたしのことを殺して、そのショックのあまり記憶が無くなったんじゃないかって思ってるの。
一度それでパパと大喧嘩してから、パパの前では清才様の話はしないようにしてる。
尊敬してる人を、好きな人に貶されるのは本当に辛いから。
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