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作品名:豆相人車(ずそうじんしゃ) 作者:松韻萬里

第3回   第三章 ヒルちゃん参入
 お化けが出るのは夜と決まっている。でもイイ子のヒマワリはお化けになっても早寝早起き、暗い内から日の出を待つ。・・・そしてある日妙なことに気が付いた。

「あれ、隣に何かあるョ。」
 前日、お出掛けしている間に何者かが入れたものらしい。
「やだ、骨壷じゃない。」
 ヒマワリと同じ大理石の特注品。
「オオィ〜、だれですかァ〜。」

「ワッ! また寝てしまった。・・ヒマワリごめん。本当に御免。許して。」
 突然お化けが飛び出してきて、許しを乞う。お化けとお化けでは話が通じるようだ。
「えッ、マネージャーのヒルちゃん?」
「そう、私死んじゃったノ。」

「行くトコなかったんだよ。事務所やめて。」
 自分の居眠り運転で看板アイドルを亡くしてしまったヒルちゃん。芸能事務所にいられる筈もなかった。
「でも、ヒルちゃんイイトコのお嬢さんだったじゃない。実家に帰らないの?」
「そんなのウソだよ。慶應の文学部出たってのも・・・ほんとうは夜間高校中退。」
 実は養護施設で育てられたのだというヒルちゃん、社長の配慮で芸能事務所で下働きをしながら夜間高校にも通わせてもらった。お嬢様とか慶大卒は、アイドルに言うこと聞かすための飾りだった。

「でも最期は本来の私のまま逝ったョ。」
 通勤電車に飛び込めば多くの人に迷惑が掛かるし、事務所や寮で死んだら皆が気味悪がる。ヒルちゃんは人里離れた山林で密かに首を吊ったのだ。
「遺体を片付ける人に悪いから、ビニールシート下に敷いといた。お詫びの書き置きを添えて。」
 ・・・こうしてヒルちゃんの自殺は新聞に小さく載った程度で騒ぎになることもなかった。

「そんなァ・・そんなに人のこと気にして死ぬなんて。カワイソ過ぎる。」
「そんなことないよ。可哀想なのはヒマワリだよ。私のせいで・・」
 メンバーと一緒に撮った写真を最期まで身につけていたヒルちゃん、身寄りのないヒルちゃんにとってお花畑のメンバーだけが家族だった。そしてその写真が手掛りとなり警察から事務所に連絡が入り、事務所はお花畑のメンバーとヒマワリのお父さんにヒルちゃんの死を知らせた。
 
 危うく無縁仏になってしまうところだったヒルちゃん。
「ヒマワリのお父さんが私の亡骸を引き取ってくれたんだ。」
 娘を殺した張本人、恨んでも恨みきれない相手なのに。
「多分、死んでもヒマワリの面倒見ろよッテいう意味だよ。同じお墓に入れてくれたのは。」
「違うよ。うちのお父さん、そんな嫌味というか複雑なことする人じゃない。前からヒルちゃんのこと家族と言ってたからそうしただけ。」

 生前ヒルちゃんはしばしば真鶴の家までヒマワリを送ってきていた。東京から車でもそんなに遠くはない。
「ウチに泊まったときは一緒にお風呂入ったり、同じお布団で寝たり、本当に家族みたいだったネ。」
 お父さんとお母さんは「一人っ子のヒマワリに大きなお姉さんができた」と大喜び、ヒルちゃんを我が子のように可愛がっていた。

「家族か〜、いい響きだね。」
 お化けのヒルちゃんがポツンと呟く。


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