「この力…があれば…」
人というのは常に欲望のままに生きている。
それが膨れ上がると…
「今日…試してみるか…」
事件が起こるということも、欲望によって打ち消される。
* * *
「起きろー!おいーー!!」
大きな声が耳に響く…
重たい…ポカポカと頭を殴る少女の名前はキー。
黄色のキツネだからキーと俺は呼んでいる。
名前なんてなかったから嬉しかったのか、とても気に入ってくれた。
鳴らない電話の騒動から、もう一週間が経とうとしていた。
あのキツネの少女であるキーは今俺の腹に乗り、睡眠の邪魔をしている。
「起きるから…」
そう言うとキーはニカっと笑い、「ならよろしい!」と誇らしく叫んだ。
キーは毎日がとても楽しそうだ。
優しい子なのだが、朝の俺には妙に厳しいところがある。
いつもの日課になりそうで少し俺は怯えつつも毎日こいつと過ごしている。
学校に行く準備をしている時も、キーはかまってくる。
まぁそれもそうだろう…
俺が学校に行っている時は1人になるかのだから、構ってくるのもわかる。
俺はこいつの過去を知ってしまった。
だからなるべく孤独にはしたくない。
たまに、奏や俊樹、堅葵たちと遊んだりしてもらっている。
一緒に学校に…なんかも…たまに思ったりする…
「キー…?」
「なにー?」
「今日学校に来るか?」
「えぇ?!本当?!」
目を勢いよく広げ、輝かせて、キーはそう言う。
「ぬいぐるみとかになれるか?」
俺がそういうと一瞬のうちに熊のぬいぐるみに変幻した。
キーの霊能力は自分の姿を違うものに魅せる能力だ。
「学校ではあんまりしゃべるなよ…」
俺はそう忠告すると、コクリと頷き、かばんから少し顔が出るように入れ、家をでた。
* * *
「すごい!!すごい!あれは何だ!?」
登校中、ものすごくはしゃいでいる。
あれほど喋るなと言ったのに、この少女はなにを聞いていたのだろうか?
まぁ幸い、周りに人がいないから変な目で見られることはないのだが…
「学校の近くにきたら静かにな…」
はーい、と空の返事をするやいなや、空を飛ぶ飛行機にはしゃぎだす。
本当にわかっているのかな…と少し心配になるが、キーのことを信じて、それ以上はなにも言わなかった。
凪の家につき、チャイムを鳴らす。
最近では朝から凪の家に行って、一緒に登校することにしている。
初めは凪も嫌そうだったが、何度も俺がおしかけるからもう懲りたようだ。
「あ…お前か…」
と、凪がでてきた。
その姿はいかにも珍しく、いつもの俺が来る時は、いつも私服で準備の途中なのだが、今日はもうすでに準備万端の格好ででてきた。
「どうしたんだ急に…」
凪は少し頭をかいて、「なんにもない」と呟き、カバンを持ってきて、無言で鍵を閉め、俺たちをおいて学校へ向かい始めた。
歩き出しても凪は口を開かない。
唯一開いたのは、「なんにもない」の一言だけ。
「どうしたんだろうね…凪さん…」
俺のカバンから頭を少しだけ出しているキーも何かを察したらしく、不安そうにそういった。
確かにあの口ぶりは俺以外の誰かを待っているようだった…
その誰かはわからないが、その誰かが凪の気分を阻害しているのかもしれない。
本当のところは聞いてみないと何にもわからない。
凪の数歩後ろをついて歩く…学校にも近くなったことにつれ、登校している生徒が多くなってきた。
おはようという声が飛び交うなか、俺たちは無言で歩き続ける。
数歩の間隔を崩すことなく。
「ねぇねぇ凪さん。どうしてそんな怖い顔してるの??」
一瞬見ても何のことだかわからなかったが、俺のバッグをみて確信を持った。
「「キー?!?!」」
俺と凪の言葉が重なり、周りの目が一気にこちらを向けられた。
アイコンタクトで凪と会話を成立させ、即座に近くの路地へ入った。
「もう…なにしてんの?!キーは…」
「本当だよ…ってか連れてきてたんだな」
「気づかなかったのか?」
「……全然」
エヘヘと笑うキーの隣で、凪と普段通りに会話をしていた。
キーのこういう行動には少しだけ困惑させられるときがある。
予測不可能な行動に…
でも、それがいい方向に転がることが多いと言ったら多いのだが…
「いいか?キー。学校ではちゃんとぬいぐるみでいないとダメだからな」
少しだけ、厳しく躾けるように言うと、大きな声でキーは返事をする。
今までとは違って、真面目な趣で、反省もしているようなので、よしとする。
まぁ先程まで全くは話さなかった凪が口を開くようになったので、いい方向に転がったので少しは感謝をしないといけないかな?
「おはよう…?」
「たつきん!!!!」
俺は再び深いため息をつく…
さっきの真面目はどこに行ったんだよ…と。
おはようの声の主は堅葵。
いつものメンバーの1人。キーはたつきんと呼んでいて、とても懐いている。
ぬいぐるみから少女へ一瞬のうちに変幻したキーは思いっきり堅葵に飛びつく。
「なんでキーちゃんがいるの?」
とまた同じ質問をされたので、俺も凪も少しの笑いに包まれた。
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