窓から差し込む光がとても眩しい。
今が何月何日で何時なのかも全くわからない。
「やっとおきたのか」
右を向くと、そこには椅子に座ってこちらを見ている凪の姿があった。
「俺は一体…なにがどうなってるんだ?」
凪は困ったような顔をして、俺に隣を見るように仕向けた。
首を傾げながらその方向を見ると、そこには朝日の光に照らされて、奏が座っていた。
それを見た瞬間、俺は嬉しくてたまらなかった。
なんで助かったのかは全く分からなかったが、これだけはわかった。
奏は助かった。そう、これだけは。
「この人が助けてくれたの?」
奏は俺に凪の方を指差して、そう訪ねた。
でも、俺はなんで奏が助かったのかもわからない。
多分、凪が全部したのだろう…
だけど凪は、「すべて神威が助けた。俺はなにもしていない」
と言った。
凪のこの言葉により、俺はもう何が何だかわからなくなってしまった。
「どういうこと?」
俺のその問いに、凪は答えれなかった。
一つの謎が、また多くの謎を呼んだ。
まぁ…奏は助かったから、俺は大丈夫 なのだが…
大丈夫なのだが…この事件はまだ解決していない、そういう気分だった。
* * *
久しぶりに学校に登校すると、学校のともだちがたくさん心配してくれていた。
奏も無事復活して、今日は一緒にとうこうをしたくらいだ。
残りの3人も奏の生還に涙をながすほどだ。
感謝しても感謝しつくせない、なんて言われて、俺はとても嬉しかった。
俺はもう孤独じゃない…
あのキツネも孤独じゃなくなっただろうか?
あのときの記憶はまだ残っている。
でも途中で途切れている…
大人たちに囲まれて、キツネを守りながら、自分の気持ちをぶちまけたところで記憶は終わっている。
あの後どうなったかも俺はわからない。
「どうなったのかな…」
腑に落ちない気持ちが多い俺は、学校が終わると、凪の元へ急いで向かった。
あのとき見たあの出来事は忘れることはないだろう。
でも、あの出来事が何か関係していると、直感的に俺はそう思ってしまう。
「お前が思うんだったら、そうなんじゃないのか?」
凪の家について、即刻そのことをはなしたら光の速度でその返事が返ってきた。
あまりにも適当な返事に俺は不意を突かれてしまう。
「いや…でも、あれは夢だったのかもしれなくて…」
「あれは、お前の霊能力だ」
その言葉に、俺の神経がピクリと動く。
「お前は、多分…霊力の痕跡をたどることができるんだろう…」
簡単に言うと、霊力の記憶、力の原点を見ること。
つまり…タイムスリップ。
痕跡を辿るので、自分自身がその場所にいたということになるらしい。
俺はこのことには全然理解はできていなかったが、俺の能力で奏が助けてられたということは理解をした。
凪は、俺の見たキツネのことについても話してくれた。
キツネが昔この地域、この町にいたらしく、かつて大水害を引き起こしたらしい…と。
もうこの時点で、あのキツネと凪の話しているキツネが俺の中では一致した。
「そのキツネは、今もこの町の人を恨んでいて、呪い続けている」
複数あった歯車が、一つになり、大きな歯車が幾つも重なり、動き出した。
恨んでいるのは、自分の気持ちが伝わらず、大人たちに、町の友達たちに理解をしてもらえなかったから…
じゃあ俺は…
「おい、どこに行く!」
凪の家を飛び出して、俺は走り出した。 声はみみにはいっていたが、それに答えている暇なんてなかった。
止まっていた時間が動き出した…
俺はあの神社にきた。
すると、あの長い階段はなく、あのときと同じように、本堂がチョコンとあっただけだった。
「やっぱり…あれはここだったんだ…」
長い階段がないということは、未来が変わっているということだ。
俺はあのときのように本堂に近ずく。
「あ…」
本堂にもう金箔などないのだが、一箇所だけ指でなぞった跡があった。
過去は未来に直結している。
あのときがあれば、このときはない。 このときがあれば、あのときがある。
俺はこの町の過去を変えてしまい、結果、未来を変えてしまった。
それがいい方向になっていればいいのだが…
そう思い、風に流れる林の音を感じ、上を見た。
すると… 上から何か黄色物体が落ちてきた。
「あぁ…なんかデジャヴ…」
おぶぅ…と変な声を上げて、俺はその場に倒れた。
近くにある落ち葉がその場に巻き上がる。
「久しぶりだな!」
「ふはは…全くだ」
あの少女だ。
いままで元気にやってきたらしい…
凪の言っていたように、この町の人を恨んでいたからこそ、『鳴らない電話』のようになったのだ。
あの話の元凶は、このキツネで、この町の人への復讐が目的だった。
でも、その原因を俺が無くしたんだ。
あの場で俺がキツネと人間との間を和解に導いた。
だから、キツネは奏を呪う必要がなくなったため、呪いは解けた。
俺はそう解釈した。
「もう、一人じゃないぞ」
俺は少女に聞こえないようにそうつぶやいた。
すると、少女はニカっと笑い
「お前もな!」
と、大きな声で返事をした。
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