夜になり、光の手助けが、太陽から月へと変わった。
雲はなく、満月でとても眩しい。
その光に照らされて、目の前にいる少女と、焚き火がよく見える。
この日はよく冷えていて、焚き火の暖かさが身に染みる。
おかしいことだが、お腹は空かない。
現実だから空くはずなのだが、不思議なことにそのような気分ではない。
目の前にいる少女は先程魚を取ってきて、焚き火で焼いて食べていた。
今は寝ている。
多分この力は霊力だ。
キツネは霊力を持つ動物として有名である。
でも、そこまでして殺す必要があるのだろうか?
この子にどれほどの力があるかわからないが、そんなに危険だとは到底思わない。
この小さな少女の体にどんな強大な力を持っているのか?
落ち葉に寝ている彼女は少し寒そうだ。
焚き火を少し強くして、少女の元へかけよる。
体が震えていて、目からは少しの雫が出てきている。
「寂しかったんだな…」
昔の俺と照らし合わせているのか俺も少し涙が出てきた。
少女に寄り添い、軽く抱きかかえ、後ろから抱きしめてみる。
小さな体は俺の腕にすっぽり収まり、小さな鼓動が聞こえる。
先程まで寒そうにしていた少女は、俺が抱きしめたからか、体の震えが収まったようだ。
少し出ていた涙もいつの間に乾いていた。
いろいろ話を聞こう…と思った直後、少女は目を覚ました。
「ん…」
少女はこちらを向き、数秒目が合うと、俺の腕をなぎ払い、数メートル離れた。
「な…なにするんだ!」
「なに言ってんだ…おちつけ…」
「落ち着いてるいられるか!昼間は助けておきながら…やっぱりお前もあいつらと同じか?!」
やつら…というのは昼間にキツネであるこいつを狩ろうとしていたやつなのだろう。
「違うよ。仲間じゃない」
きっと少女は混乱しているだろう。
だから…先ずは落ち着かせることにする。
「君の仲間だよ」と…
変な構えをしていた少女は腕を下ろし、恐る恐る口を開く。
「本当?…嘘ついてない?」
心配そうな趣で話す少女に俺は大きく頷いた。
少女はトボトボと歩いてきて、俺の横にチョコンと座った。
俺は少女になんで襲われているのかを聞いてみると、少女は数秒の間を空け、話し出した。
「あの町の中人とは仲が良かったの、私は友達だって思ってた。その友達が困ってたの、雨が降らないって」
数秒待って話し続ける。
「私は助けたいって思った。だから私の力を使って、雨を降らせたの。でも…私の力が強すぎたせいか、数ヶ月間雨を降り続けさせてしまったの…だから…」
少女のいう力というのは霊力のことで、自分に力があると知ったときに、その力で助けようとしたが、結果、逆に迷惑をかけてしまった…
もうそれ以上は言わないでもわかる…
いうことがとても辛そうだったため、少女を再び抱き寄せる。
その出来事がいつなのかはわからないが、多分この子はずっと孤独で、ずっと一人で逃げてきたんだろう…どれだけ苦しかっただろうか…どれほどの悲しかっただろうか…抱き寄せる腕に無意識に力が入り、強く抱きしめる。
それに従って、少女も強くよりかかってきた。
その刹那、銃声がなり、俺の横を銃弾が横切った。とても早く横切ったその弾は、目で追うことすらままならなかったが、敵が攻撃してきたことはわかった。
「化けキツネがいたぞ!」
と、大勢の人が俺たちを取り囲んだ。
逃げる合間も俺たちに与えることなく、早く、綺麗に取り囲まれた。
俺は、この少女を守ろうと今一度強く抱きしめる。
「大丈夫だ、俺がいる」そうつぶやいて。
「さぁ、早くキツネを渡せ」
囲まれて数秒後、隊長らしい人が低い声で言い放つ。
「なんでこの子を…」
「その化けキツネは、私たちの町に天災を与えた。だからまた天災が起こさないためにも、そのキツネを殺さないといけないんだ」
自分勝手な発言ばかりをしているこの大人たちに苛立ちを覚えた。
「この子の気持ちも知らないくせに、ふざけるなよ!」
俺の気持ちは高ぶり、さらに言葉がくみたされていった。
もうこのときから自分が自分じゃないように思えた。
「確かに天災を与えたのかもしれない…でも、でも…それはお前らのためにした行為なんだぞ!?雨を降らしてもらったときはお前たちも感謝したはずだ…なのに…自分たちの都合のいいようにいかなかったからって…手のひらを返すように…」
怒りも、悲しみも、すべて俺は大人たちにぶつけた。
「このキツネは、お前らの言い訳の道具じゃないんだぞ…」
俺が声を上げて話せば話すほどに、大人たちは銃を下げていった。
かつては友達だったんだから、また必ずわかり合えるはずだと信じて、俺はキツネは少女の気持ちを代弁し続けた。
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