家に帰って部屋に入る。
そこには眠り姫...奏の姿があった。
朝方に帰ってきた。もう日もあがるだろう...
昨日の夜はありえない出来事だらけで、疲れた...
記憶にまだ鮮明に残っている。
絶望と希望。
力を持っているのに使えない悔しさと、救うことの出来ないという無力感。
この2つの気持ちが俺の目の前を暗くする。
暗黒の中、俺が思い出す記憶は全て奏との過去。
笑って過ごして遊んでいる。
奏の笑顔が俺の絶望感を増幅させ、俺の傷をエグっていく。
夜に凪が家に来て呪いを解く手伝いをしてくれるのだが、それが成功する確率は1%にも満たないと言う...
でも、その1%も満たないものに今は頼るしかない。
再び俺の胸に痛みが襲う。
「もうダメなのかも...無理...」
その場に膝をつき、頭をつき、胸を抑えてそう呟く。
奏の霊力を考えると、もう今日には死ぬかもしれない...小さくなっていく可能性に俺は涙を流し続けた。
* * *
「おい、起きろ!」 叩き起こされた俺はベッドに寄りかかって眠っていた。
「もう夜だぞ。今まで寝ていたのか?」
呪いを解く準備をしている凪がそう尋ねる。
「多分...そうだと思う...」
多分?と少し怒ったような口調で言い返された。
でも多分としか言えない。
今は夜の11時...俺が寝たのがおそらく、朝の7時ごろ。約16時間も寝ていたということになる。さすがに体が痛い。
目には泣いていたからか、少し乾燥していてシパシパする...
「少し下に降りてもいいか?」
あぁ、と声のない返事をもらうと俺は部屋を出た。
もう夜中だから廊下も暗い。
電気をつけるのも面倒になりそうだ...
「おい!」
暗闇の中、階段を降りようとすると部屋のドアが開き、凪が顔を出す。
「12時から始めるからそれまでに戻ってこいよ」
おう、と適当に返事をし、階段を降りた。
電気は付けずに...
洗面台に行き、顔を洗う。
冷たい水が顔に当たると、驚くほどに冷たく、冷たさが全身に行き渡った。
目を瞑ったまま、近くにあるであろうタオルで顔を拭う。
目の前の鏡を見ると、泣きじゃくんだのがわかるほど涙のあとがあった。
「成功してくれよ...」
そう呟き、もう一度冷たい水を顔にかけた。
可能性はいつも0%じゃない。奏がよく言っていた言葉だ。
確かに0%なんてありえないのかもしれない。
だけど...俺にはそんな強い心は持っていないし...今回のは確率が低すぎる...
洗面台を出ながら、俺はブツブツとそんなことを考えていた。
階段を登れば、俺の部屋についてしまう...
「諦めるのは終わってからだな...」
そんなことを呟く。
たとえ1%に満たないとしても、可能性が0になるのは奏が死んだ時。
その前に...そんなことさせない。
俺は一つの遊び心で目を瞑り、一つの賭けをした。
俺の家の階段は15段。
いつも使っているから覚えている。
そう、一つの賭けというのは、この暗闇の中、目を瞑って階段を1度も躓かずに2階まであがる。というものだ。
これは、到底無理だと思う...
さっきでさえ、暗闇の中階段を降りただけでもこけそうになったくらいだ...
確率的には0%に近い...でも、0じゃないはずだ。
一歩一歩力強く登っていく。
足で段を探したりはしない。今使っているのは、感覚のみ。
今までの時間よりもとてつもなく長く感じる。
今いるのが自分の家ではないように、今登っているのがいつも登っている階段じゃないように...
「あれ?」
ガクンと一歩段を踏み外した。
いや...踏み外したのではない。
登り切ったんだ...
「本当だ...0%ってないんだ...」
後ろを向き、15段の階段を見る。
俺はクスっと笑い、自分の部屋に急いだ。
部屋に入るとそこは俺の部屋ではないかのように内装が変わっていた。
「もう帰ってきたのか?時間もいいし始めるぞ?」
部屋の中はもちろん、凪と俺と奏。
準備といっても機械的なものではなく、札や、紙切れだ。
「そこに座れ」
命令的にいう凪には少し緊張感はあるように見える。
「俺は何をすればいい?」
俺が凪にそう聞くと、凪は説明してくれた。
要約すると、奏の中には霊が取り付いているらしく、その霊が首を絞めている状態らしいく、締め付ける力がMAXになると窒息死するというわけだ。
その霊を俺たちの力で取り除こうと言うことらしい。
この俺が座っている椅子は俺の霊力を少し凪に分け与えることができるものだと言う...
本当にすごいやつだ...この凪と言う男は...
そして俺がすることは、この椅子座り祈ること。
再び目を瞑り、手を合わせる。
先ほどの階段を思い出す...
「不可能なんてないんだよな?奏...」
『うん。そうだよ』
え...?誰の声?
そう思い目を開けるとそこは俺の部屋ではなかった。
広い広い草原だ...
「何処ここ...」
俺の知らない場所...いつの間にか俺はそこに立っていた。
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