夜中になっても家に帰らない。
いや、帰れない...
先ほど出会った東雲凪の家に入ったところだ。
時刻は...午前3時。
閉じようとする重たい瞼を必死に開きながらも家に入ると、この家の大きさに俺はびっくりして、さっきの出来事なんかを忘れさせるほど眠気が覚めた。
「お前の家...広いな」
クスクスと笑うこいつ...東雲凪には何か違和感を覚える。凪の影には何か違う人の影があるような...そのような感じがする
「なんで笑ってんだよ」 笑い声に無性に腹が立ち、そうたずねる。 こいつは階段を登りながら後ろを向き、また不敵に笑い、また前を向き歩き始める。
この行動に俺はさらにイライラが増す... まぁそれも抑えるが...
階段を登りきるとすぐ左に曲がった。
「おら、ここだ。入れ」
こいつの部屋らしき場所に入り、すぐに椅子に座らせられた。
部屋の中は、封印やら、霊的な物。 明らかにあっち系なものが多い...
こいつも霊感があるのか?
「さて、再び自己紹介をしよう。俺は東雲凪だ」
声は少し高い... もう少し高いと俺は聞きたくない声になってしまうのだが、まぁそんなことはどうでもいい...
...今、この状態がありえないのだ。
幽霊かと思ったら人間で、ついてきたらめちゃくちゃ大きな家に連れ込まれ、部屋まで入って自己紹介をされた。
もう、いたるところにツッコミをしたいところだ...
「さぁ!君の名前は何かな?まぁー言わないでも俺はわかってるけどねぇー神威君」
この小さな間にもこいつに心を見透かされているようで...嫌だ...
「お前は何者だ?」
恐る恐る俺が聞くと、こいつは席を立ち上がり、フードを被った。
まただ...さっきと同じ感じ... 人とは違う力を持った幽霊... そういう風に思ってしまう。
「お前なんて言ってさぁ...凪でいいんだけどね...」
一歩一歩俺に近づいて来るにつれて、首を誰かに締め付けられたような感覚に襲われる...
それに耳鳴りも。
耳鳴りは幽霊が近づいてきたことが一番わかる。
霊感が強いという人ほどその感覚には鋭い。
耳の中を抉るような音...少し痛い...
近づけば近づくほどその痛みは増す。
「幾つか質問をしていいか?」
「はいはい、なに?」
凪はフードをとり、霊のようになるのをやめ、俺の話に耳を貸した。
「その幽霊のようになっているのはなんなんだ...?」
いっときの間があり、甲高く笑う凪。 なにがそんなに面白いのか俺には理解できない。 よく笑う人だ。
お腹を抱えながら、目から涙を流すほど笑ったところで俺に返事をした。
「お前は、本当に何も知らないな...霊力も利用していないのか?」
霊力...?
こいつは何を言っているんだ?
「霊力だよ。霊力ー」
俺の頭上に複数のクエスチョンマークが浮かび上がる。
またここにも疑問が生まれた...
霊力とはなんなのか? そして、霊力と霊感の違い。
目の前に立ちはだかるこの人物を俺は睨みつける
まぁそんなことをしても変わらない...というよりもこっちが惨めになる。
今までにない知識を必死に考えるのは無駄だと考えた俺は、もう全てを話してもらうことにした。
* * *
霊感。 神や仏が乗り移ったかのようになる、人間の超自然的な感覚。あるいは、霊的なものを感じ取る心の働き。
つまり、人間の霊が感じ取る不思議な感応をいうらしい。
そして霊力。 霊の力。また、不可思議な力のことを指す。
つまり、霊感は感じ取る力なのに対して、霊力は不可思議な力のことを言う。
不可思議な力なんていうのは、怪奇現象。例えばポルターガイストなどが有名だろうか。
そういった現象を霊ではなく、人間が霊力を利用して引き起こすこともできるという。
俺はずっと昔から霊感。感じ取る力だけしか使ってこなかった。
霊力の存在なんても知らなかったからだ。
ならその霊力を使えば...奏も救うことができるんじゃないか...?
雲から太陽が見えてきた。
希望の光が俺には見えたんだ。
その霊力とやらを残り3日くらいで習得して...
奏を救う力を身につければ...どうにかなる...
そう思い込んでいた。
でも現実は非情だ。 思い通りにならないことがほとんどだ...
そう。奏を救えないと言う事実。 その事実を俺は受け入れたくなかったが、でも理由が2つあるらしい。
まず一つ目。 霊力を身につけるのにはかなりの期間が必要だということ...
残り3日じゃ到底無理だと言う...
「3日じゃ無理なら...奏を救えないじゃないか...」
つい、心の声が漏れてしまう。
「俺が解いてやってもいいが、そんなに力が強くはないから、上手くいくかはわからない...それに...」
そしてこの後に話したのが2つ目だ。
「奏さんの呪いで死ぬ時間の問題だ」
「死ぬ...時間...?」
もうこの時にはわかっていたというと嘘になるが、俺はもう勘づいていた。
時間なんて残されてないと。
「奏ちゃんの霊感はないに近い。だから霊力なんてほぼないに等しい。だから、この呪いに耐えられるのも...残り1日くらいだ」
一週間で死ぬのは目安で、体がもたなかったらすぐにでも死んでしまうらしい。
それを聞いた途端、俺は全身の力が抜けて地面にヘタレ落ちた。
太陽が隠れた。
自分の無力さに、この絶望感を俺は味わってた。
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