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作品名:怪奇高校生 作者:シン

第12回   病室
「堅葵は大丈夫みたいだ…」

俺がそう言うと凪やキー、他のみんなもホッと溜息をついた。

「すまなかった…」

濱根がそう言いだす。

俺はもう終わったことだし、何も言わなかったが、蓮が立ち上がり、濱根の顔を思いっきりブン殴った。

皆は顔を顰めたり、背けたり。

濱根は何も言わず黙ったままだった。

「さっきのは、堅葵が受けてきた苦しみの分」

もう一発殴る…

「これは堅葵のナイフの痛みの分」

もう一発…

「そしてこれが自分の才能を違う方向につかったお前の弱さの分だ」

蓮はそれ以上は殴らなかった。

蓮と堅葵は幼稚園からの親友だから、それだけでは収まりきれないくらいイラついていただろう…

ムスっとした顔で元いた場所に蓮は戻っていく。

一つの事件から大きな事件に変わってしまった。

学校は警察には黙り、自体を大きくしようとはしなかった。

それとも俺たちがうやむやにしたからであろうか?

行為をしていたのは俺の友達で、それに被害者が一人だったからこうも大事にならなかったのかもしれない。

本当のことを知っているのは、多分ここにいる7人だけ。

その7人のうちの1人、濱根尚和。

多分俺を殺そうとして、ナイフを突きつけたのだろう…

でもそれを堅葵がかばった。

俺の代わりに堅葵が…まぁそう言うことだろう。

それほど深くナイフが刺さらなかった、命に別状はなかった。

本当によかった。

「俺、堅葵さんが好きだ…」

「「「はぁ?!」」」

濱根の言ったことに全員の鼓動が一瞬にして重なる。

全員、今の現状を理解するのに数秒を要し、びっくりした顔をやめられない。

「だから覗きなんかをか…?」

と、蓮が納得いったかのように話す。

頷く濱根に対して、奏が口を開く。

「だからって…許されることじゃないよ…」

その言葉が更に重荷になり、濱根の反省の色を濃ゆくしていく。

堅葵は優しい。

多分濱根が反省をしていることをつたえたら、許すだろう。

俺のせいで怪我をしてごめん、なんて言ったら、神威を助けれてよかった。というだろう。

「堅葵は優しいよ、だから精一杯謝ってこい。そうすれば、ニコっと笑うはずだ」

「堅葵は強いからな」

俺の言葉に続いて蓮が話す。

濱根の表情は少し和らいでいた。ヘラヘラしているわけでなく、1つ…1つの大事な強さを手に入れたようだった。

その直後、医師が俺たちの元まで来て、面会の準備ができたと伝えてくれた。

堅葵はもう回復目前。

あと1日の入院で退院できるらしい。

「さぁ、面会だ。行って来い」

病室に入ろうとした俺を引き止めるかのように凪が濱根にそう告げる。

瞬時に凪の考えを察し、ドアの取っ手を慌てて離す。

「そうだな。まずはお前だ。濱根」

冷静を装い、濱根の背中を押す。

「あぁ…ありがとう…」

俺たちにそう呟き、全てを終わらせるために、中へと入っていった。

* * *

「堅葵さん…ごめんなさい…」

まずは一言目に出てきたのはこの言葉だった。

他になにも思いつかなかった。

「うん…本当だよ…」

下を俯きそう呟く堅葵さんの姿に俺の胸が締め付けられる。

今回は全てを自分のせいだ…

俺はここにきて謝り、全てのことを言おうと思っていた。

でも…怖い。

けど、その反対に話さないといけないと思った。

話すことによって、俺の悪、その心が取り除かれる…そうしないともう消えないと思ったからだ。

「あの…」

沈黙の中、俺が言葉を発する。

「俺、堅葵さんが好きです…その気持ちが積もりに積もって、自分の弱い気持ちが覗きという形で現れた…心にも、体にも傷をつけて…ごめんなさい…」

俺がこう言おうとも彼女の心の傷は消えない。俺のしたことは消去できない。

夜に浮かぶ黄色い月が、薄暗い病室を眩しく照らす。

少し冷たい風でカーテンが揺れ、俺の肌に触れる。

「反省してる…?もうしない?」

俺は小さくも大きく頷く

「じゃあよかった!私で被害を抑えられたってことじゃん!」

その言葉を聞いた途端に、俺はすごく優しいと思う反面、その優しさの本質がすぐに見えた。

堅葵さんの優しさには自分はどうなってもいい、という気持ちがある。

「俺が神威をナイフで突き刺そうとした時、なんで守ったの?」

俺の質問の返答は少し時間がかかったが、俺の予想していた返事をした。

「それは…親友だから?危ないって思ったら、体が動いてた」

ちょっと恥ずかしそうに話す彼女は…多分あの時、自分は死んでもいいって思ったんじゃないのか?神威だけ助かればいいって思ったんじゃないのか?

「あの…」

再びこの言葉に堅葵さんもさすがに首をひねる。

「堅葵さんの優しさには自分はどうなってもいいっていう気持ちがあると思うんだ…だから、俺は堅葵さんを守りたいい。この霊力…力を使って守りたい。だから…」

その後の言葉は出てこなかった。

一番近くにいたいなんても、付き合ってくださいなんかも言えなかった。そんなこと言える立場でもない…

「付き合ってください…かな…?」

堅葵さんの言った言葉に俺の鼓動が大きくなる。

「濱根くん…前からいいなーとか思ってたの。SPの彼氏か…心強いな…お願いしちゃおうかな?」

笑った。

堅葵さんの笑顔をこんな真ん前から始めてみた。

俺の嬉しさは爆発をして、声にならない声でこの嬉しさを叫んだ。

心の中で叫んだつもりだけど、その声は多分、病室に響き渡っていたんじゃないかな






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