「声が違った?」
帰りに凪の家により、作戦会議を行った。
もう完全に振り出しに戻ってしまった。
犯人ではさらにわからなくなってしまっている。
3人とも黙りこんで沈黙が続く。
「今残ってる可能性は2つある」
沈黙の中、凪が口を開くと、俺とキーはまじまじと凪をみて話を聞いた。
「一つ目は、犯人は濱根。声を消すことができないということに気づいて、声を変える方向にカモフラージュしている…もしくは、能力を使うと声が変わる…」
淡々と話していく、凪の一言一言の意味を理解し、次の言葉を待つ。
「二つ目は、犯人は濱根じゃない…」
そうだ。テストで頭のいいと賢いは少し違う。
勉強じゃない頭の良さというのもある。
でも…これは違う…
超越している。この一言だ。
霊が見えるというだけで、ここまでの能力を自分で見つけ出すなんてそうそうできない。
まず、俺なら無理だ。
「でも、もしそうだとしたらどうするんだ?」
凪に聞いても返事はない。
完全に行き詰った。
犯人が誰かも、理解すらもできない。
霊力が使える人間、1人。対、霊力が使える人間が2人+キツネをもってしても捕まえることができない。
犯人がそれほど頭がいいのか、俺たちが無能なのか…
この刹那、俺は何かから告げられたかのように、一つの言葉が脳裏に浮かぶ。
ガタッと、鈍い音をたて、椅子からつい立ち上がってしまう。
「どうした?」
「霊感が…あるということは…」
こういうのを閃きと言うのだろうか?
凪も気づいたらしく、「その手があったか…」と1人呟く。
この作戦が成功すれば、犯人を捕まえることも可能だと俺はこの時点でかくしんした。
キーの能力でと、凪の能力。
そして俺の新しい能力をもってすれば、天才1人を俺たちの能力で…
最強の敵に立ち向かうことができる。
「今から、犯人撃退作戦を開始する」
俺たちの戦いは始まったばかりだ。
* * *
今も部活、明日も部活。
この前は変な女がいて、顔を触られたが、あいつは見えていない。
眼球運動からして、俺が見えてるとは到底思えない。
つまりあの一発はまぐれ…
俺のインビジブルは決して崩せない。
部活も新人部員も入らず、勉強もうまくいかない、高校1年では最底辺だった。
それでも俺は努力をした。
この霊感の応用、霊力を利用して、ぶかつも勉強も努力をし続けた。
この努力は誰にもわからない。
そしてある日、好きな人ができた。
堅葵さん。彼女は俺の天使だ…
どうにかして近づきたいと思った…
でも…男が3人いた。
蓮と俊樹と神威。しかも神威といるときが一番多かったし、よく話していたのでムカついた。
どうにかして神威を殺そうとも思った。
この霊力には限りは無く、いくらでも強くなれるのだから…
あいつと笑っているところが気に食わなかった。
堅葵さんの笑顔があいつの物になりそうで怖かった…
一つの一つの、俺は闇への階段を登って行き、等々、透明人間になることが可能になった。
俺の邪悪な心…どうせ見えないのだから何をしたって罪にはならない。
その罪への警戒心が薄れ、禁じられる領域へと踏み込んでしまった…
部室に入り込んで盗撮を…。
今も着替えをしているだろう。
さっさと入って写真をと思い、ドアを開け、中に入った。
いつもと変わらず、堅葵さんがお着替え中だ。
にやけながらも俺はポケットに入っているカメラを取り出した。
途端、いきなり俺の体に強大な圧力がかけられる。
重たいこの重圧…
耳鳴りもとてつもなくひどくなる。
『何をしている…?』
耳を抉るような声…痛い…。
本物の霊だ…後ろに本物の霊がいる。
いつでも殺せるなどといった力…圧倒的な力…
俺はとっさの判断でドアから外に逃げようとした。
…あかない…ドアはあかない。
「なんで?!なんで?!」
混乱の中、とっさに声を出してしまった。
その声に後からついてきている霊が話しかける。
『なんでだと思う…?』
再び耳を抉られる。
この瞬間、俺は死を悟った。
今までしてきたことの罰…でもその罰は俺が思っていた罰ではなかった。
フワッと一瞬宙に浮いた感覚に襲われ、俺のインビジブルが途端に跡形もなく消えた。
姿を見られたんだ…
「こんにちは、犯人さん」
後ろを振り向くと、凪と神威と小さな少女がいた。
その直後、ドアが開き、そこには蓮、俊樹、奏、そして堅葵さんがいた。
「あぁ…ああ…」
嗚咽が漏れ、俺はその場に倒れる。
そう、俺は濱根尚和…罪人だ…
「なんで…なんで…?」
そう言いつつも全てのことを頭の中で一個づつ処理していく。
処理の中から浮かんでくる3人の能力。
こいつらの作戦、それは俺の能力を逆手にとった作戦だった。
多分あの少女は化ける能力。
その能力で堅葵さんに化けて、俺に何の警戒心も持たれずに、この部室に誘い込んだ。
その俺をまっていたのが、霊になれる能力の凪。
俺の霊が見えると言うのを利用して、逃げるためにドアの付近に来たところを能力を無効化にする神威能力で仕留めた…
ドアは蓮や俊樹が抑えていたのだろう…
もうこれ程までに手を打たれたら終わりだ。
負けを認めるしかない…
「さぁ、こいつをどうしようか…とりあえず生徒会かな…?」
神威がそう告げると、なぜかわからないが、心の底から神威のことが憎いと思った…
こいつさえいなければ…堅葵さんを俺のものにできたのに…こいつさえいなければ…何もかもがうまくいっていたのに…こいつ、コイツノセイデ…オレノナカデナニカガオトヲタテテワレタ。
都合よく目の前に神威はいる。
本当に都合がいいんだ…俺はナイフを持っている…
好都合だ…
いつも思っていたんだ…殺せる…今なら…
「神威!!」
凪がそう叫んで注意を呼びかけたがもう遅い。
ナイフを素早くとり、神威の胸目掛けて、鋭く尖った先端を突きつける。
鈍い音が部室中に響き渡り、赤い水の滴る音が聞こえる。
そう…
堅葵さんの…
「堅葵!!」 「先生を!!」 「救急車が先!!」 「どっちでもいい!急ぐんだ!!」
手が震える…
好きな人を殺してしまった…と言う現実に自分が信じられない…
現実は動いているのに、目の前で起きているというのに…
俺はその現実をただ傍観していた。
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